第2話 ハードな異世界

 真っ白な部屋にいたと思ったのに気がつけば草むらに横たわっていたわたし、最後に着ていた服を着ているけど脇腹には穴は空いていない、

“とりあえず人がいる場所まで行かないとね”

 風俗の仕事をする為にこちらの世界に転生したのだから、まずは人がいる場所に行かないと話にならない、

 行動に特に迷いは無かった、どうせ一度死んでおつりの人生みたいなものだ、こちらの世界でも風俗嬢を極めてみよう。


 しばらく歩いて、数軒の民家に辿り着いた、

どこが? と訊かれても困るが、明らかに日本の建物ではない、

 んんっ、違和感の正体は電線が無い事か、そう言えば電気の無い世界って言っていたわよね。



「すいませーん、道に迷ったみたいなんですけど、近くに警察とか有りますか?」

 最初に目があったおじいさんに声をかけたら猫背のおじいさんは物凄い速度で駆けて行ってしまった、

“なんか不審者みたいで気分が悪いわよね”


 しばらくすると恰幅の良い中年を連れて来たおじいさん、なんでもこの村の村長だそうよ、ここは営業スマイルで乗り切る場面ね。


 ◇


「明日には街から迎えが来るから」

 そう言われて村長の家に呼ばれたけど、わたしは窓の無い部屋に閉じ込められたまま次の日の朝を迎えた、

 藁の布団と麻のシーツで寝ていたわたしを起こしたのはむくつけ男、

「こいつは肌が白い、上玉だ、もらっていくぜ」

 そう言ってわたしを無理やり引っ張って行く男、

「ちょっと痛いわよ、あんた誰よけーさつじゃないわよね」


「うるせぇ女だ黙って乗れよ」

「ちょっと何よ、この牢屋みたいな車は?」

 最後は文字通り放り込まれる様にオリ付きの車に押し込まれた、ちょっと異世界はハード過ぎじゃないですか、



「ついでにこっちの生娘も出荷だ!」

 更に二人女の子が放り込まれた、一人は高校生位かな、もう一人はもっと幼い、

 この頃になるとのんびり日本人のわたしでも状況が掴めて来た“売られたのね”あの村長め、

 オリ付きの車は馬車だった、御者台には二人の男、その後ろの荷台は売られた三人、トラックの荷台を想像してみて頂戴、軽トラだけどね。



 馬車が動き出して小一時間過ぎたと思う、二人がやっと泣きやんで話が出来た、歳上の子はビアンカ、髪は緑色で瞳はターコイスブルー、

“ああ、やっぱり異世界に来たんだ”

「ビアンカは何歳なの?」

「15歳です」

 こちらの世界の常識は知らないけどまだ中高生の歳だよね、泣きまくって目元が真っ赤で鼻水まで出ているわよ、


 小さい子にも話しかける、

「お名前教えてくれないかな?」

「カタリーナ」

「カタリーナちゃんは何歳かな?」

「10歳」

 オレンジ色の髪の子はエッグエッグと鼻を鳴らしながら答えてくれた、

“まだ義務教育の年齢よ”

 もっとも二人の話を聞くと田舎にはそもそも学校すらない、街の裕福な子が通う場所と言う認識らしい。


「わたし娼館に売られて娼婦になるんだ……」

 そう言って再び泣き出したビアンカ、そんな時に荷台から罵声が飛ぶ、

「うるせー娘だ、ピーピー泣いているんじゃねぇ」

「そうだぞ、娼館に行けばパンも食えるし、綺麗な服も着せてもらえる、こんな泥臭い田舎に比べたら天国みたいな場所だぞ」


「ちょっとあんた達、わたしとビアンカを娼館に売るのは良いわよ、カタリーナはどうするの?」

「カタリーナ?」

「ああ、あのチビか、あれは注文が入ってな、小さい方が良いって言う物好きなお得意様がいるんだよ」

「違うぜ、狭いから良いんだよ」

「ちげーねぇ」

 二人の人買いは下品に笑う、

“サイテーな男達ね”


 こんな二人には天罰でも当たれば良いんだ、そう思った瞬間にそれはやって来た、黒い塊が物凄い速度でやって来て一人の男を連れ去る、

 一拍置いた後もう一人が悲鳴を上げる

「魔物だぁ」

 わたし達を置いて逃げ出した男、

「ちょっと、わたし達を助けなさいよ!」


「ジャバーリよ!」

 ビアンカが叫ぶ、二人の大人よりも美味しそうな獲物を見つけたジャバーリ達はわたし達の馬車を囲んで体当りをしてくる、


 乗せられている間は恨めしいと思っていた鉄格子だけど、今では心強い味方、狼の様なイノシシの様な魔物のタックルでギシギシ音を立てている、

 三人は荷台の真ん中に集まってガチガチ震えている、

“ヴェヌウス、もう少し優しい世界に転移させてよ”

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