底辺職の風俗嬢は異世界に行って本気を出す

アイディンボー

第1話 恋愛は程々に

 わたしの名前はミヤビ、もちろん源氏名よ、本名は呼んでくれる人がずいぶん減っちゃったから、最近は源氏名の方がしっくりくるの、お仕事は風俗のお姉さん。


 仕事は“嬢”正確に言うとソープランド嬢、売春禁止の日本で唯一合法的に身体を重ねる事が出来る究極の風俗嬢よ、

 ここでソープの説明を少し、日本では売春は禁止されているの、法律で決まっているのよ、お客さんは個室のお風呂に入るだけ、ちょっと高めの貸し切り銭湯だと思ってちょうだい、

 わたし達嬢はお客様の背中を流すだけなのだけど、割と高い頻度でお客様と恋愛関係になって大人の関係にまで進んでしまうの、売春は禁止だけど恋愛は禁止されていないからね。


 ポイントは嬢とお客がどんな関係になろうとお店は知らない、と言う建前を貫く事なの、お店はただ個室のお風呂を貸しているだけですからね。

 嬢を従業員ではなく個人事業主扱いするお店もあるそうよ、

 ソープでは入浴料とサービス料を払うのはそう言う意味なんだけど、最近は一括で払うお店も多いわ。


 基本的に入浴料がお店に、サービス料が嬢の取り分なんだけど、実際の比率は業界の闇だから知らない方が良いかもね、

 それでもそれなりのお店に勤めているし、指名も多いから結構稼ぐわよ、

三桁万円超える月もあるの、みんなブランド品に変わってしまうけどね。

 底辺職とか究極の風俗嬢とか呼ばれているけど、流れ着いて来る娘達の経歴は様々、

 時々セックスが好きで仕方ない、そんな理由でこの仕事を選ぶ子もいるけど、ほとんどがお金の為、家庭が貧乏で生活費を稼ぐために仕方なく、なんて世知辛い理由の子がいるかと思えば、遊びで散在して仕方なくなんて子もいる、

 わたしもその口なんだけどね。


 地方のちょっとした小金持ちの娘だったわたし、恋愛とか浮いた話一つない地味な女だった、

 転機は大学進学、生まれて初めてワガママを言い東京の大学に進学した、バイトにサークル量産型女子大生だけど、それなりに充実したキャンパスライフだったと思う。

 二十歳の誕生日に友達と面白半分に入ったホストクラブ、お小遣いの範囲で楽しめるし、なによりも彼は優しかったわ、

 生まれて初めての恋愛体験は量産型娘をトリコにして、

 気がつけば学費を溶かし、デリヘルのバイトを始めていた、大学を辞めたから実家には帰れない、最後まで添い遂げるわ。


 恋愛の熱が冷めたのはソープの泡の中だった、落ちるところまで落ちた私を憐れんでくれなくても平気よ、天職を見つけたのだから。

 田舎のおぼこ娘だったわたしだけど、ホスト狂いは恋愛の駆け引きの勉強になったわ、おかげで短い時間の“恋愛”を覚えたわたしは気がつけば人気の若手ソープ嬢に。


 ◇


 今日は早番だったからちょっとおしゃれな店でカクテルを楽しんで来た、言い寄って来る男はいたけど、ダメね嬢をしていると男を見る目が肥えて来る、二軒目に行こうかタクシーに乗ろうか中途半端な気持ちで通りを歩いていたら、脇腹に冷たい感触、

 口の中に込み上がって来る鉄味は鼻腔まで満たし苦しくて息が出来ない、

 原色系の居酒屋の看板をバックに立っているのは一時の恋愛の相手だった、

「この女、俺がどれだけ貢いだと思っているん……」

“ダメよ、お水のお姉さんと本気の恋愛をしては”


 安っぽい油で汚れ、星も見えない立てこんだ雑居ビル群がわたしの最後の地だった、底辺職はそれなり場所でしか死ねないのね。



 ◇◇



「ミヤビよ、聞こえますか?」

 誰わたしを源氏名で呼ぶのは、油まみれのコンクリートに横たわっていたはずのわたしはいつの間にか真っ白な空間に立っている、

 目の前にはギリシャ神話みたいな白いケープをまとったお姉さん、なんと言うか非の打ちどころのない美人でスタイルも抜群、服の上からでも形の良い胸が分かる位。


「救急病院の看護婦さんじゃないわよね」

「はい、ミヤビさんあなたは病院に着く前に亡くなりました」

「つまりここは死後の世界と言う訳ね」

「物事に動じない性格ですね、ですがここはまだ死後の世界ではありません、次の世界に行く準備段階だと思ってください、

 そうそうわたしの名前はヴェヌウス、愛と快楽を司る神ですよ」


「そうなんだ、ヴェヌウスそれでわたしはどうなるの?」

「本来、人が亡くなると前の世界の記憶を消して、次の世界に魂だけ転生させるのですが、あなたは特別に私が指名しました、そのままの姿で次の世界に行って貰います」

「わたくしミヤビをご指名頂きありがとうございます、一生懸命ご奉仕致すからヴェヌウス様イッパイ気持ち良くなってくださいね」

 最後はあざとく首を傾ける、冗談半分皮肉半分で言ってみた嬢の挨拶だがヴェヌウスは満足そうな顔、


「それでこそわたしが選んだ娘です、次にあなたが行く世界、電気は無いけど魔法の有る世界です、色々大変でしょうから特別な能力を授けましょう」

「なに、魔法が有るの、ほうきで空を飛ぶ世界?」

 ヴェヌウスは手の平を振って否定の仕草、

「そんな物ありません」

 イギリス発祥、映画にまでなった魔法小説のファンだったのに残念、


「ミヤビよ、あなたには人の適正を見抜く力を授けます」

「う~ん、良く分からない」

「難しい物ではありません、相手の胸元をジッと目を凝らして見ていると色の付いた玉が浮かんできます、その色が相手の適正ですよ」


「へぇ~、それじゃ風俗嬢の適正とかも有ったりするの?」

「はい、ありますよ風俗向きの人は黄色です、風俗向きと言うよりは接客全般に適正が有る人ですけどね」


 その後ヴェヌウスは色々な色を教えてくれた、農民向きは緑色、戦士向きは赤、事務系は青、職人はグレー……


 それにしても風俗が接客と分っているとはこの神様は理解が深い、ただしソープ嬢は肉体労働の面もあるけどね。

「次の世界でも風俗を極めてみようか」

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