第6章 己の座標①
「ねぇ……龍宮寺、起きて……」
———目を覚ますと、何やら隣に誰かが寝ている———龍宮寺?
———裸の紗奈!
「な、なんだ!お前こんなところに!」
「何言ってるの?昨日あれだけめちゃくちゃしたくせに」
めちゃくちゃ?
おい待てよ?記憶がないぞ?
いやでもなんかある気もしてきたぞ?ジレンマが寝起きでやってきた!
「ね、忘れっぽい化け物の話を聞かせてあげましょうか」
あれ?
なんか違くね?
———気づけばそれは、裸の庵野さんに変わっていた!
「え⁈何⁈なんですか⁈どういう状態⁈」
「許してあげます。私も間違ってました」
「いや!俺が全部悪い!悪いです!」
「へぇ、そんなに責任感を持てたんだね」
———今度は裸のヒメ!
「なんだお前なら大丈夫だ……」
「あらやだ、そんなこと言って〜」
———は、裸の夏子さん!!!!!!
「お、お、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「来てくれる?」
———よく見たらヒメの顔!!!!!!
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
飛び起きた!
「はーっ、はーっ……」
呼吸がすごく荒い、まさに悪夢。こんな経験初めてだぜ……。
「うるさいですね」
なんかルルシアが起きてきた。
そうだ、俺はいつも寝袋で寝ているんだ……。
「朝⁈ねぇ朝⁈現実⁈」
「朝ですよ、学校行ってください」
「え⁈」
カーテンをルルシアが開けると、ピカーとお日様が照らしてくる。
そうだ……昨日は週末だ……。
学校に行かなきゃ……。
学校について席につく。ちゃんと遅刻なんてしませんよ。
「山田どーしたお前やつれてるぞ」
友人の重量挙げ日本一の松田が声をかけてきた。
「最近いつもそうだよ!不健康で生きてるよ!」
「抜いてないのか?」
今度は別の友達の、ボカロで小遣い稼ぎしてる竹田がやってきた。
「抜けるわけねぇだろ!」
「よほど大きなことがあったと見える」
さらにもう一人、何回か露出で補導された梅田までやってきた。
———こいつら濃いな、やっぱり。
「色々あるんだよ、俺も」
「「「一番何もないくせに」」」
「うるせぇな!」
言えねぇんだよ!しかも褒められたもんでもないしな!
「教えてくれよ、相談に乗れるかもしれないぜ」
実は淫乱だったぼっち陰キャと付き合っている松田が分厚い胸板を叩く。
「……女絡みなんだよ」
「ついに嘘つき始めた」
梅田が呆れる。
「全くお前って奴は」
竹田がため息をつく———お前一番何も言えねぇだろ!
「大人っぽい人と外で一緒にいたら、外部の知り合いに遭遇して、誰よその女って言い始めて……」
「「「昼ドラかな?」」」
「現実です」
「まずいな……範囲外だぞ?俺はラノベ恋愛だからな……」
松田が腕を組んで唸る。確かにそりゃそう。
「山田がこうなったことを考えるとな……」
「お前ぼっちでもゲーマーでも現実主義でもねぇからな……」
「なんで人をラノベに当てはめようとするの?」
「「「だめ?」」」
「……元々お前らには期待してねぇよ」
「ひどいわこの子」
「育てた恩を忘れて」
「誰に似たのかしら」
「いつから継母になったの君たち?」
「お前には親がいるだろ、立派な親がよ」
なんかすごいしゃがれ声が混ざってきた。
———ん⁈
「「「はぁお兄さん、知ってるの?」」」
「あぁ、立派な倹約家の空手使いのお母さんだ」
「「「まじかよ勝てねぇ」」」
「……ちょっと待て、おい⁈」
———気づくと片目隠しのバンドマン———スペードが話に混ざり始めていた!
「よぉ、山田太郎」
「———そうか、そういうことなんだな?ここにわざわざ顔出すってことはよ」
———中の人を呼ぶための、蹂躙。
「随分と喉が枯れているな」
「あぁ……見誤ったよ。切腹したい気分だ」
風邪ひくたびに切腹するのか……⁈
冬越せるのかコイツ……⁈
「まぁこっちは期待してるぜ?あれだけ時間を空けたんだ、手札はあるはずだ」
———やば!
ないよ!手札ないよぉ!!!
許してくれ!
「それじゃ俺もあったまってきたところだからな……」
あったまった?
ランニングでもしてから来たのか?ジジババみたいなことしやがって……!
「———クールタイムだ」
———決め台詞なのか⁈
しかしそんなこと思っているうちに、世界から音と色彩がどんどん失われていく———だがどうやら今回は進行が遅い!
どれくらい遅いかというと、松田が半分だけ止まっている!もう半分は唸り続けている!
お前いい奴だな!でももう休め!
「さぁどうする!誘発撃つなら今だぜ!」
手札誘発とか、遊戯王かよ!
そのワード、それなりにやりこんでいる!
相当な手練れだ……!(?)
———だが、この一瞬で、俺の中で完成されたひとつの答えがあった。
頭の中で上手くピースがはまってくれた……コンボを生み出すって、こういうことなんだなって、思いました。
「どうした?手札は」
「そう焦んなってッ!」
———全身を、グネグネと変形させる!!!
「うおっ……なるほど、そう来やがったか」
スペードも感心しているようだ。
———おそらく身体が変形する際———身体はかなり細分化されて動かされているはずだ。そうしなければ肉体を刃や銃に変形することはできない。
———そしてそれは———あの時を止める原因となっている粒子と同じくらいの細かさのはず!
———てかおそらく、それになっている!
———それが何かしらによって固められるために、身体を止められてしまう。
ならば話は簡単———身体が止められる前に動かし続ければいい。
そうすればただでは止まらないはずだ!
「だけど———それじゃあなあ———」
スペードが苦笑いしてくる!
確かにそうだ!この作戦にはある重大な欠点があった!
変形して伸びた部分がスペードに攻撃する———しかし、それはまるで紐が当たっているかのように、大したエネルギーは生み出せていないようだった!!!
———そう!細かい状態を保持し続けないといけないため、物質に固めて攻撃することが叶わないのだ!!!
———つまり———ふにゃふにゃの状態を保たないといけない!!!攻撃?無理!
「———それじゃあ、一ターン飛ばすみたいなもんだろう」
スペードがやたら速く移動し始める!
しかし———やろうとしていることはわかる。身体に回転をかけようとしている。糸車のように俺の身体を巻き取る作戦だろう。
その通り、俺は回転するスペードに少しずつ巻き取られていく!
だが!俺がここで終わるような男かと思えば大違いだぜ!
「おお?」
身体を完全に紐のようにし———編み物のように重ねる!
———やがて———俺は網のような身体になった!
これで巻き取ることは叶わないだろう———むしろ巻き取られるのはお前だ!
しかしそう上手くも行かない。
瞬時にスペードは逆回転を身体にかけ、俺から身を離した!
そしてそのまま———俺の身体を掴んで瞬時にぐちゃぐちゃにして、最後に変なとこで結びやがった!!!
「この手段に対しての対応はこれで終わりだが———お前はどうだ?」
「グッ……」
———こうなると何も対応ができない。
なんとか時が止まるのを遅らせるので精一杯だった!
しかも俺はヒメと違い、無機物にしか変形できない!ここでヘビになったりミミズになったりとかは不可能なのだ!
つまり———詰み。若さゆえの、過信!
「さて———この辺りで目覚めてもらいたいもんだが、これ以上しようにも刃も通らねぇからな———一旦リセットしてやるよ」
「———何だと⁈」
「これはあくまで第一段階だ———お前が飛ばされたあとが第二段階だ」
———飛ばす⁈
いや、それよりも———飛ばされたあと⁈
———まさか!!!
「お前ッ!協会に喧嘩を売るつもりか!!!」
「普段から売ってるだろ……まぁそうでもしないとお前は殺しに来ないからな。仕方ないことだ」
「この野郎!!!」
「それを最初から出せって話だ!まぁ待ってとけよ、後で殺されてやるからよ」
スペードは俺を持ち上げると、ひょいと空中に持ち上げた。
———そして———ボレーシュートのように蹴っ飛ばす!
窓ガラスを突き抜けて飛んでいく俺!
しかも恐ろしいことに全く減速する気配が見えない!
ビルを突き抜け、雲まで突き抜けて、俺は青い青い大空をほぼ直線上に飛ばされていく!
一体俺はどこへ行くんだ⁈
てかさ———着地の件はどうすんだ⁈
戻ってこれる前提で話されてたよな⁈
みんな大丈夫かしら⁈
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