第5章 混乱!大デート⑤
「———それって」
庵野さんが何かを勘づき始めている!
まずい!気づかれてしまう!
「誰だお前!俺知らねぇぞ!」
「何言ってるの!」
クソッ!割と紗奈がマシな状態だ!
ここでブチギレて飛んできたら誤魔化しようがあったのに!
「———山田くん?」
庵野さんがじっと見つめてくる。
「てゆーかさ、龍宮寺、その人誰?」
紗奈も少し笑顔で見つめてくる。
困ったな!
生命の危機だ!
「いや、そのですね、あのですね……」
「———あなたは、誰なんですか?」
庵野さんが尋ねる!
私は一体何者なんだろう……思春期の少年にそんなこと言うもんじゃないよ!
「僕は山田太郎ですよ!」
「じゃあ、誰なの?龍宮寺」
「俺は龍宮寺暁だ」
「「どっちだよ」」
ついに意見が一致してしまった。
「紗奈!俺は今忙しい!何がどうした!」
「近くに服買いに来たんだけど……それで見えたから声かけただけだけど」
「そうか。帰れ」
「聞くだけ聞いて⁈」
ついに紗奈からツッコまれてしまった。なんか追い詰められてるって感じがする!
「———山田くん、騙してたんですね?」
庵野さんが冷たい瞳で見つめてくる。
やめてくれ……そんな眼で見つめないでくれ……!!!
踵を返した!
「———本は貸しておきますね、墓にでも持っていってくださいよ」
———一生許さない宣言⁈
「ま、待ってください!許してください!ねぇ!待って!」
庵野さんは一瞬でその場から消えてしまった。
———あぁ、あ、あぁ。全てがチリに帰ってしまった。いや元々正しい理由で行動していたのではないけれど。
積み重ねたものがこうも簡単に瓦解するのか!!!
「———龍宮寺?詳しく説明してもらえるかな?」
あぁ紗奈まで迫ってきた!
収まる気配がどこにも感じられない!
「待て、一旦説明をさせろ」
「———わかった。聞いてあげる」
よかった首の皮一枚残してくれた。
「彼女は化け物の専門家で、スペードの能力の解明を手伝ってくれてたんだ」
「———それで?」
「それを試す実験のために、今日その場まで案内してくれていたんだ」
「———でもさ、じゃあなんで、あんなに着飾った格好してたの?あの人」
「それは、彼女が———」
「———いいよ、言わなくても。あの人が例の人って、私わかってるから」
———あ!そうだった!
しまった〜!大ミス!
「ね。それってさ、ちょっとおかしくないかな?」
さっきから語気は優しいのが逆に怖い!
一度ぶっ壊したから強くなったのか?
クソッ!あのままにしておけばよかったのに!
「結局さ。あの人にいいように言いくるめられてデートしてたんじゃないの?」
そうですよ!
悪いかよ!!!!!!
「———無駄骨を折ることを恐れたら、何もできないはずだ」
「ふぅん」
「最後はお前の元に帰ると言ったはずだ」
「知ってるよ、それは」
お前が勝手に来たんだろうが!
と言いたかったが、まぁ、はい。
「でもね、龍宮寺。私、あの人が少し気に入らないんだ」
なんかくるんと回転する。雪は降っていないぞ。
「———余裕そうに振る舞うのに、本当の奥底では、私と同じ。それが嫌」
「そうか」
さすがの観察力だ。
そして女性だからわかることもあるだろう。しかし悲しきかな、俺はただの童貞なのだ!
「だからさ。私としてはしっかり牽制したいわけ、わかる?」
「牽制」
なんだろう。盛り塩でもするのか?
———するとその瞬間。
———唇に、柔らかい感触が来た!!!!!!
紗奈が目を瞑ったまま、俺から身を離した。
「———ね、牽制」
「確かに、な」
「じゃあ私、用事あるから。またね」
そう手を振りながらゆっくり歩いて去っていった。
———ほんとに心強くなっちゃった!!!
てかどうしようこれ!!!やば!!!
「———くんずほぐれつだね」
———気づいたら背後には、赤みがかった瞳の少女がいた!!!
———お前まで来るのかよ!!!
「ヒメ……」
「見てたよ。全部ね」
「見てましたか……」
「うん!最低だね!」
「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
なんか胸に激痛が来た!そりゃそうだこんな状況下!
「———随分と面白いことをする」
彼女の目はどこか睨んでいるような……いや普段に比べると瞳孔が小さいんだ!日中の猫じゃないんだから!
「———怒ってる?」
「いや?別に?」
しかし言葉は震えていた。
酷いことをした。こんな小さな子に!
「今度ここに連れて行ってやるよ。もちろん俺の奢りだ!」
「———ダメ」
「なんでさ?」
「……別の女の人と行ったのなら、もうそこに顔写真はられたみたいなもんだもん!」
「時々ある野菜じゃないんだから」
てか行っただけだろ!別になんもしてないだろ!単なる客だろ!
「わかったよ……何したらいいんだよ?」
「———私も今から連れてって。別の店に」
「今からっすか⁈」
僕もうご飯食べた!
まぁいいか!仕方ねぇな!
「お待たせしました。リブロースステーキです」
ということで小学生くらいの子をステーキ屋に連れてきました。
割と安く食えるんだって!最近の赤身肉は美味しいからね!しっかり食べよう!
「でかいね」
「300グラムだぞ」
成人男性の食べる量らしい。しかしこいつは未成年の少女だ。
明らかにオーバーサイズだと思うんだけど、その辺どうなんだろう?
「食い切れんのかよ」
「え?」
もう既に半分が消えていた。
どうして?
「お前そんな食べるのかよ」
「そうかなぁ」
なんかそう言う間に切って口の中にするっと吸い込むように食べるので、こっちは落ち着いて話ができない!
「そこまでパクパク食われるとその話ができないだろ」
「じゃあ止めてみなよ」
なんか両手を挙げてきた。なんだ⁈お前⁈
———そういえば彼女に触れたことが無かったような気がしてきた。
それか⁈いやどうなんだ⁈
とりあえず両手首を両手で握ってみる。
「ふふ」
なんか鼻で笑われた。
「止めましたけど」
「それが男の人なのかな?」
「世の中には9キロしか握力ない人もいるんだぞ!」
「でも山田くんは手を抜いている」
「……なに?どうしたいの?」
「もっと強く握ってよ」
「え?」
「跡が残るくらいね」
残すの⁈
えぇ〜。
「……こうか?」
「うん。痛い痛い」
なんだ痛がってないように言いやがって……目的はなんだ⁈
ということで手を離しました。
「へへ。ミサンガ」
彼女の手首には真っ赤な輪っかがついてるように見える。
罪悪感が襲い来る!
「やだ!見れない!ごめんなさい!許して!」
「———許してあげる」
「本当ですか!」
「傷を残してくれたから」
「そっち⁈」
卒倒しそうになった。
「てかさ、何も食べないの?」
俺の前には水しか置かれていない。
「少食なんだ。さっきガレットを食べた」
「へぇ、そんな洒落たもの食べるんだ」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「ラーメンとファミレスとファーストフード……」
「確かに男子高校生って感じだけども」
「違うの?」
「外食は誰かと出かける時とかしかしないよ」
「なんで?」
「いや、高いからさ。なら自炊したほうがいいよ」
「へー、へー」
なんか覗き込むように見てくる。
「なに?お前そういう業界の回し者?」
「私基本外食なんだ」
肩をガッと掴んだ。
「んっ?」
下手したらさっきより強いかもしれない!
「———それは、しっかり栄養を考えているのか?」
「いやぁ、別にィ……」
「今すぐ、辞めなさい」
「……そ、そんな力込めないでよ……」
「俺は!お前のことを思って言ってる!少しは作りなさい!!!全部作れとまでは言わないから!!!」
「やだ!!!」
「なんでだ!!!」
———瞬間、眼から光が消えた気がした。
「———自分のために、なんでそこまでするの?」
なんだと?
こいつ……。
「自分のために飯炊くから自炊だろ!言葉の成り立ちの話だ!」
「自分に時間をかける理由がわからない」
当たり前のように言う。これまでで一番不気味だ。淡々と、持論を述べている。
「……んだと、コラ」
「怒ってる?」
「怒ってるとも!!!!!!」
店内の意識がこっちに向いた気がした!
まぁいいや!!!!!!
「いいか!大人になってそんなんなら、百歩譲っていいんだ!いつ死ぬかわかりもしないからな!でもな!なんで子供のうちからそんな食生活をする!子供には、ある程度はちゃんと栄養のあるものを食べて、成長する義務がある!」
「うちのステーキはサラダメインだよ」
どっかから声が聞こえた。みなさんステーキならこの店に行きましょう。
「———じゃあさ、私のために、何かしてくれる?」
なんだ———なんだ?
そんなことか!
「そりゃあするさ」
「じゃあさ、私のために、ご飯作ってくれる?」
「呼んだら作るよ、暇だから」
「そっか」
「なんだその反応は」
「言質がとれた」
「ならいいじゃないか」
「じゃ、よろしくね。今から」
———パッとその場から消えた。
「缶コーヒーにしては理不尽なお返しだ」
しっかり付け合わせまで食べてある。
それだけで褒める気になれますか?
なれる!!!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます