第5章 混乱!大デート④

 「———残念だったわね、何もわかんなくて」

 残念そうに夏子さんが励ましてくる!!!

 大丈夫です!!!あなたのおかげで収穫はえらいこっちゃですよ!!!!!!

 「夏子さん、もう無理そうですか?」

 「そーねぇ……しっかり運動しとくから、またの機会にしてほしいかも」

 「なら仕方ないですね」

 「僕もそう思います」

 ———あまり痩せてほしくないんだ……今すぐあなたはそのままでいいと言いたい……だが駄目だ!!!!!!

 

 「また来てね〜〜〜!」

 夏子さんが元気いっぱいに手を振ってくれる!!!!!!

 こっちも飛んで返したかったが駄目だ!あくまで上品に手を振って店を後にする。

 「———つまり、ああいうことです」

 庵野さんの右手にはゆで卵が入った袋があった。しっかりジップロックに入れてくれたぜ!

 俺の手にも同じ。潰してポテトサラダに混ぜよう!

 「なるほど……」

 一応理解したような表情をとる。

 だが頭では理解が追いつかない!!!

 結局どういうことなんだよ⁈

 てか実験の意味はあんのかよ⁈

 夏子さんがいたわ!!!!!!

 「やはり実験で分かることではありませんでしたね」

 庵野さんが舌をぺろっと出して、失敗したことをアピールする。

 俺も舌を出し返す。口内炎あったけどまぁいいや。

 「どうしましょう……もう古書店を巡るしかありませんね」

 あれ?

 なんか話が進んでいる!

 いや元々そういう予定だけども!!!

 「それとも……カフェでお茶でもしますか?私いい店知ってるんですよ、よく来るので」

 ちょっと待て!

 なんかすごい勧めてくる!待ってくれ!頼むから!!!!!!

 並んで歩いているので顔は見えない……そこで彼女の方を向いてみる!


 ———何か裏がある眼!!!

 ———別に結果はどうあれ、それを勧めてみようという意志を感じる眼!

 ———余裕と、深慮!!!!!!

 ———大人だあ!!!!!!!!


 ということで、まずはカフェにやってきました。

 夏子さんの素晴らしい店のような、少し薄暗い雰囲気に、洒落たBGM。

 そこでコーヒーにこだわっているときた。豆が二十種類もあるんだって!NiziUもびっくりだよ!(?)

 いやぁ雰囲気がいいな!!!!!!大人っぽいぜ!!!!!!!

 ちょっと錯乱している……なんだ?俺は何がどうなってしまっているんだ……?

 夏子さんに何かを感じるのは分かる……男としての本能だ。読者の皆さんわかるはず。

 だが、なんだ?この胸のざわめきは……俺は庵野さんに何をされている?

 弄ばれているのか⁈

 「山田くん、決めました?」

 「あ、いえ、すみませんまだです」

 「私は普段から決まったものしか頼まないので。まぁ、いくらでも待ちますけどね」

 なんだこの……上から目線だけど、優しさを感じる発言。

 なんだ⁈

 逆に急かされるよ!!!やめてよ!!!

 メニューをパラパラめくる。

 なんか名前も聞いたことのないもんばっか出てくる!いい店だここ!!!心の底から納得できた!!!

 まともに頭が働かない状態なので、もう勘で決めることにした。

 『プロシュートとセミドライトマトのガレット』。

 横文字だらけだから美味いだろ!

 しかしコーヒーも決めなければならない。え???まだ???

 仕方がないので女王と名の付いた『ゲイシャ』という豆を選んだ。

 女王ってくらいだから美味いだろ!

 「———決まりました」

 「じゃあ呼びましょうか」

 庵野さんが手を挙げると店員が来た。髪もじゃもじゃ、メガネが似合う優男さんだ。お洒落!!!!!!

 「ご注文は」

 「ローストビーフのサンドイッチ、それと、この深煎りマンデリン」

 肉⁈

 ゴリゴリの肉だ!!!

 でも俺も同じか!!!

 両成敗!あと深煎りってなんだ?お洒落だな。

 「あ、このプロシュートのやつ、それと、ゲイシャで」

 「お待ちください」

 そのまんま兄さんは消えてった。

 「ゲイシャとか、よく知ってますね」

 「ははは」

 「知りませんでしたね」

 「ギク」

 「……分かってますよ、こんな店に行ってないことくらい」

 「やっぱり?」

 「君に新しい経験を、させたいですからね」

 ちょっと上目遣い。

 俺に冒険させたいのか?なんだそれ?

 弄びやがって!

 嬉しいぜ!

 「———山田くんは、普段暇なとき、何してるんです?」

 「え、普段ですか?」

 「そう」

 普段ねぇ……?何してんだ俺?

 「お菓子作り……とかですかね」

 気分転換にお菓子作ったりするのだ。メレンゲとか割と簡単だから、みんなもやってみよう。

 「ふふ、割とちゃんとした趣味」

 「……庵野さんは?」

 「私ですか?本読んでばっかりです」

 そりゃあんたはそうだろ。

 「あんま本読まないんですよね、何読んだらいいかわかんなくて」

 「今度貸しましょうか?山田くんにぴったりの本があるんです」

 なんかバックから本を取り出してきた。

 なんか段取り決まってない?でも僕はそれに照らされ焼かれてるような気分。

 段取りーチキン?

 ヘタレだからね、仕方ないね。

 本のタイトルを見る。

 『若きウェルテルの悩み』だって!

 僕知ってる!主人公が最後死ぬんだ!逆にそれしか知らん!

 「ゲーテ?」

 「ドイツの詩人です」

 「へぇ〜」

 「言葉が綺麗ですし、それに若者には刺さると思いますよ、恋とか、死生観とか」

 まるで自分が若者でないように言う。

 早くから枯れるな。若者らしく生きろ。

 「読んでみます」

 「いつ返してくれてもいいですよ、なんなら読まずに返しても怒りませんから」

 ということで今返そうとしてみた。


 膨れっ面で平手打ちされた!

 

 そんな時に注文の品が来た。グッドタイミング!兄さんの目線は冷たい!モテるんだろうな。すまない俺は童貞なんだ。

 「……」

 すごく怒ってる。

 「……ごめんなさい」

 「礼儀ってものを知らないんですか?」

 「あ、あぁ、なるほど……」

 つまらないものですが理論だ。

 相手が下げてもそれを上げる!大事なことです。

 「……冷めますよ」

 縮こまってるのを見かねられた。許してくれたのかな!

 皿を見ると、なんか緑色の野菜とドライトマトが、四角形に折られたクレープの上に乗っけられている。

 でもなんか色が変だよ〜⁈黒っぽ〜い!

 「……黒炭?」

 「蕎麦粉ですよ、そばこ」

 平仮名のイントネーションがかわいい。

 「そばこ」

 「小麦粉のクレープよりも深みがあって、いいですよ」

 なんか歳食ったみたいな言い方なんだよな。

 ほんと何歳?

 「いただきます」

 ナイフとフォークを使って切り分けてみる。

 ちゃんと具材を乗せる。

 口に入れると、野菜の爽やかさ、ドライトマトの甘味、生ハムの塩味。それを蕎麦粉のクレープがまとめている。コクがあるのか、旨味があるのか?

 確かに、これは小麦粉には無理だろう。蕎麦粉だから成り立つのだ。

 パスタの全否定みたいになるな、これ。

 「美味しいです」

 「でしょ、マスター、イタリアで修行してるんですよ」

 「へぇ」

 厨房の方を覗いてみると、なんかすごいマッチョが果物を切り分けていた。

 あれ⁈

 「コーヒーも飲んでみてください」

 「あ、あぁはい」

 ゲイシャ!なんで女王なのに名前は没落した後みたいなんだ⁈謎!

 口に含むと、何やらいい香りが花に抜ける!コーヒーとか全部焦げ臭いと思ってたけど、違うぞ!

 そして酸味が心地よい!胃に来ないぞ!多分腹にもの入れてるだけだと思う!

 結論!コーヒーみたいじゃないぞ!すげぇ!

 ゲイシャはしっかり今も女王だ!でもやっぱ名前が不憫すぎる!

 「普段飲んでるのとは、全然違います」

 「でしょう」

 庵野さんさっきから嬉しそうに見つめてくる。

 なんだ……籠の中の小鳥でも見つめるような目で俺を見て。

 全く出されたものに手をつけていないぞ⁈

 「……食べないんですか?」

 「あ、あぁ、すみません」

 立場逆転した。

 「……すみません、舞い上がっちゃって。お恥ずかしい」

 「……そりゃまたどうして?」

 「いつも一人だから、ですかね」

 「あぁ……」

 「……納得しないでもらえます?」

 釘を刺すような視線。既に心ははりつけにあってるんですけどね。

 「でも、誰かと好きなものを食べるのは、嬉しいです」

 「そうですか……よかったです」

 別々のもんだけど……まぁいいか!

 

 そして飯が終わった!

 店の前に出た!

 「それじゃ、古書店に向かいましょうか」

 「なんの本なんです?」

 「なんの本だと思います?」

 ノーヒント!

 どこにもアタックチャンスがないぜ!

 「えーと、化け物!」

 「正解です」

 微笑まれた。

 他人には正面からぶつかるもんだ!

 「それじゃ、行きましょうか」

 先に歩き出される。

 「ほらほら、こっちですよ〜」

 ちょっと前でおいでおいでされる。

 俺は犬か⁈

 犬だな!!!!!!

 

 

 「———龍宮寺?」


 ———ん?


 ———おい?待て待て待て待て———!!!


 またまた出やがった!

 紗奈がそこにいたのだ!!!!!!

 

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