第5章 混乱!大デート②

 そんなこんなで当日がやってきた!

 『知り合いのいるとこの駅で集合しましょう』とのことで、駅までノロノロ向かうことにしたのだ。

 「大丈夫ですか?ハンカチは?水筒は?」

 そうルルシアが心配そうに言ってくる。

 「お前はお母さんか?」

 「導く人という意味ではそうですね」

 「全ての先生がお母さんになるだろそれ!」

 「まぁ頑張ってきなさいな」

 「なんとかね」


 ということで電車に乗るのだが。

 目的地と最寄駅が結構離れているので、一時間くらいかかる。

 ———スマホを触ろうにもソシャゲのデイリーも終わらせてしまったし、別に追っているアニメもない。

 かなり暇な時間だ。

 この区間はあまり人がいないということなのだろうか、両隣どころか一列俺一人。もしかして少し避けられてる?

 周囲をキョロキョロ見回したり、手鏡で髪のチェックとかしていたら。

 この辺りでは大きな駅に停まった。ドカッと人がなだれ込んでくる。

 ちゃんとそうでなかったことの証明のように、俺の列にもどんどん人が座っていく。

 

 ———すると、俺の隣に男が座る。

 ———彼の風貌には見覚えがあった。

 ———片目を隠した、バンドマン風の男。


 「———よぉ」


 そうスペードは馴れ馴れしく話しかけた。


 「———何のつもりだ」

 「最後の忠告をしにきたのさ」

 「最後の忠告だと?」

 「まぁまぁ、生憎俺も目的地までは結構時間があるんだ、ゆっくり話すさ」

 「聞いてやろう」

 何かいいこと話すかもしれないからね。

 「まずさ、お前の目的ってなんだ?」

 「俺の目的?決まってるだろ!中の人の能力を知って、そして———」

 

 ———あれ?


 ———何をどうするんだ?


 「その顔は何もないって感じだな」

 「いや、いや、そんなはずは……」

 「そもそもお前はさ、別に何か理由があって力を手に入れたわけでもない。偶発的なもんだ」

 「それはそうだけど……」

 「だから理由が発生するはずもないんだよ」

 ———たしかに!そりゃそうだ!

 でもそのままじゃダメだ!

 「だがそれでも!俺は協会のために———」

 「別に放っておいてもいいんじゃねぇか?」

 ———なんだと?

 「———何故そんなことが言える」

 「別に吸血獣は飲み込むだけさ。そしてこちらで保管される。取り込まれた人は死ぬことはない」

 やはりそうか。

 「———でも!」

 「まぁお前の言いたいこともわかる。でもこっちも使命なんでね」

 「使命だと……?そんなことのために人の時間を奪うというのか⁈」

 「……俺たちはある程度ルールを決めて使役している。月に一桁に収まるようにな」

 「それはそれでも!」

 「———それくらいの人間は一月に簡単な消えてると思うぜ、俺らが何もしなくてもな」

 「……」

 「あちらで十中八九死んでるのに比べたら、こっちはまだ優しいと思うけどね。いつか帰すんだから」

 何も返せない。

 元々人は何かを起こす。それは仕方ない。

 ———答えは、どこだ?

 「人間の善性をそんな信じるもんでもないさ」

 「だけど!……だけど……」

 「だんだん自分の信条に疑問が出てきたな」

 「……」


 ———確かに、俺が絶対的に戦う必要はない。

 ———だが———!


 「俺には紗奈や庵野さんがいる。あの場所を守るという意味では、理由があるはずだ」

 「でもそれもほぼ押し付けられたものだ」

 「押し付け⁈」

 「押しつけというか———お前に力があるからついてきたもんだろ、それはよ」

 「何?」

 「お前がもし大した力のない一般構成員だとしてみろ———紗奈や庵野さん?とかの関係はあるのかよ」

 「……」

 確かに———全ては俺に力があるからだ。

 「力がある人間は、その力を人のために使わないといけない!」

 「はぁ、大層な思想だ。ノブレスオブリージュ、とか言ったっけな?」

 「そうだ!」

 「でもよぉ、それって疲れるだろ?」

 「———」

 言い返すことができない。

 「なまじ龍宮寺とか名乗ってよ、他人のふりして大丈夫なの?」

 「それは俺の問題だろ」

 「お前も最初はあれだけ自分のために使っていたのに」

 「あれは……」

 消したい過去突かれた!

 「結局はさ、あのチビに出会ったのが全部きっかけってわけ?」

 「———あぁ」

 「じゃあ組織にいるのも元々ヒメのおかげってことだ」

 「———何が言いたいんだよ!」

 「ヒメがいなけりゃお前は初めのまんまだったっけことだろ?」

 「それはそうだ」


 「別に組織にあいつが関係してんのかよ?」


 「———それは」

 「あいつに動かされて組織に入るなら、そこに組織に対する情はあるのか?ないだろ?理由は?ヒメが言ったから。それだけだ」

 「———!」

 「別にあいつといるだけなら、組織に属する必要はないはずだ」

 「……」

 唇を噛む。

 ぐうの音も出ない。

 「俺は顔も見てないけどよ———何やらお前の前には度々現れてるらしいな。あの人嫌いがな」

 「———そう、なのか?」

 「あぁ。無口さんでこっちが困ってるくらいさ。仲間があいつの動きを説明した時は驚いたよ」

 「……そんな」

 「ショックだろうな。お前の前だとベラベラ得意げに喋って。可愛いやつだぜ」

 「だがそれもそれ、という話じゃないのか」

 「あぁそうだ。どんどん組織にいる理由が削れてるって話だ」

 「削れる?」

 「そりゃ理由なんてひとつだけのことがあるか?どんなことにも複数の理由がある。だがお前の場合はそれがあやふやすぎるって話だ」

 「あやふや、だと」

 「結論を言ってやろう。お前は『なんとなく』組織に属して、そしてその『なんとなく』続く日々を続けようとしているだけだ。」

 「だがちゃんと自分のために動いている!」

 「本当に自分のためか?あれだけ金をもらってもケチケチした生活続けてよ、あんな金もらっても本当は迷惑なんだろ?」

 「それは、ルルシアが来たから」

 「ほれみろまた外部要因だ!全部他人任せ!元々はお前自身の問題なのに!気づけば他人に軸がぶれている!」

 ———軸がブレている、だと⁈

 否定できねぇ!!!!!!

 確かに俺はブレブレの実のブレブレ人間だ!!!

 「俺としては、立派な人材が大したモチベなく、そんな状態なのは悲しいんだよ」

 「俺を評価しているのか」

 「お前はレアケースだから気づいてないけどさ、お前も作れんだよ、吸血獣」

 「何⁈」

 そんな力が———俺に⁈

 いや常識的に考えたらそうだよ。

 「嫌いな奴を合法的に消せる。デスノートと違ってリスクもない」

 「流石にそこまではしないぞ」

 「だが立派なメリットだ」

 「ぬ」

 「———それに俺たちなら色々教えてやれる。あのチビと一緒にな」

 「ん?」

 スペードは顔をこちらに向けてきた。

 

 「だからさ———俺らと組もうぜ」


 「……何だと⁈」

 まさかのお誘い!!!

 「あんたが来りゃあよ、ヒメがこっちに近づいてくれんだよ」

 「———そっちにいないのか⁈」

 「あぁ、嫌ってんのかしらねぇけどよ。でもお前がいりゃあ心配なしだ」

 「———なんだ、ヒメには秘密があるのか?」

 「俺たちよか上ってことは、何かしら重要な可能性があるのさ、こちらとしてはな」

 ———何かしらの役目があるのか?

 ———詳しいことはわからないが。

 「お前がいれば、吸血獣がいなくなるかもしれないぜ?」

 

 「———どうしてそうなるんだ?」


 「俺らにもしっかり行動理由があるのさ。意味もなくあんなことすると思ってんのかよ」

 「今教えてくれる、はずはないな」

 「あぁそりゃそうさ。こっちにつくなら言うが、そうでないなら敵対したほうがいい」

 「そりゃどうして」

 「死ぬ気で向かってきてもらった方が、お前を追い詰められる」

 「裏方に回るか、正面衝突か」

 「そういうことだ」

 

 ———どうする?

 そもそもヒメの案内で組織に入ったのだから———これまでの一連の話の俺の入り方は、いわば裏道だ。スタートからして少し俯瞰的だった。

 だから今吸血鬼側についても———なんらおかしなことはない。

 だがしかし。


 「———今回は断ることにするよ」

 「『今回は』ってなんだよ」

 「俺はな、お前をボコボコにするために手伝ってもらってる人がいるんだよ、その人に報いて、それでもダメなら考えるさ」

 「他人にある程度成果を渡して、それからか?」

 「そうさ。だからお前と戦うのは俺の中では避けられないものだった。よく考えたらな」

 「———俺の説得は響かなかったか」

 「いや。響いたさ」

 「そりゃまたどうして?」

 「ヒメを初めて自分から呼ぼうって気になったらからな」

 「———じゃあ呼ぶ時は、俺がきっかけだって言ってやってくれよ。面白いからさ」

 「ハッ」

 駅は目的地の一つ前に停まった。

 「それじゃあ俺は降りるとするよ」

 スペードがゆっくり立ち上がった。

 「———お前に対抗できるよう頑張るよ」

 「———なら俺もそれに対抗するまでだ」

 スペードは手を振りながら降りていった。


 乗るはずのない誘いではあるが、しかし言葉は割と胸に刺さっていた。


 ———目的がない。


 それは———ずっとそうだ。薄々自分でもわかっていた。

 吸血鬼になったとしても、別にただ組織の言うままに動いたまでだ。

 何ならヒメの言う通りでもある。

 だが———やはりそれではいけないのだろうか?

 何か大きな目的を、持つべきか⁈

 それはそれとして。


 ヒメ、お前……だからあんなに気取った感じなのか⁈どうなんだ⁈

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