第4章 専門家を呼べ①
「まさかお前に呼ばれる日が来るとはな」
「俺も驚いてる」
ヒメとの再会から数日。
あいにく俺は何もわからず、紗奈はあの有様のため、どうしょうもないということで澄川を呼ぶことにした。
場所はちょっとしたカフェである。
パンケーキが有名らしいです。
「お前そんなもん食うのか」
俺の側にはチョコレートパフェがあった。
「最近脳を使いすぎた」
「まぁそれもそっか———そこまで甘党とはな」
「そうか?」
「で、わざわざ俺を呼ぶほどだ、何かよっぽどのことがあってと見える」
澄川はハムなどがついたおかずクレープらしきものと、コーヒーを頼んでいた。
甘党ではないらしい。むしろ嫌いなのか?
「———あぁ」
あまりにも変なことが起き続けたので、何が重くて軽いのかの判断ができなくなっている気がする。
ただし水カレー、お前はクソだ。
「———吸血獣の『親』に遭遇した」
「———ッ」
さすがの澄川も戦慄した表情を浮かべる。
そりゃいきなり土下座されたら驚くよね。
「大丈夫だった———って見ていいのか?」
「いや、厄介なことになった」
「なんか起こったのかよ」
「———奴は時を止める能力を持っていた———俺でさえ意識を保つのが精一杯だ」
「———そりゃ、まずいことになったな」
「その内にやられてしまえばおしまいだ。何か対抗策が欲しいところだ」
「どうすりゃいいんだろうな……」
頭をかく澄川。
「俺も紗奈もそうだけどよ、あくまで複数の吸血獣をサクッと倒す傾向の方が強いわけ」
「———つまり、タイマンについてはあまり期待するな、ということか」
「残念なことだけどな———第四位が姿を見せたらいいんだけどな」
「どんな奴だ」
「前話したと思うんだけど?」
「忘れた」
「一切名前も姿も知られてなくてな、組織としては複数人で対応しないといけない個体とかを瞬時に一人で殺せるらしい」
「———暗殺者」
「まぁそんなイメージだわな、暗殺ってのは基本的には一対一だからな、今回探してる意見を聞けるんじゃないか?」
「だが姿は見せない」
「そこがネックだ。お前でさえ月の日は基本的に顔を出しているのに、そいつは本当にいるのかいないのかさえわかんないからな」
「人を幽霊みたいに言うな」
「まぁ情報が入ったら連絡するよ」
「今すぐ欲しいんだが」
「せっかちな奴だな……もう資料室にでも行ったほうがいいんじゃねぇか」
「資料室?」
倉庫みたいなもんだろうか?
「本当に何も知らなさそうな顔をするな」
「聞いたこともない」
「まぁ完全に別働隊だからな———でも、吸血獣以外の化け物についての研究資料とかもあるんだっけか」
「なるほど」
「そう、そこにいけば、時を止めることへの対策のヒントがわかるかもしれない」
澄川にありがとう。
ヒメにもありがとう。
「ありがとう」
「礼ならいいよ」
澄川はコーヒーを飲み干した。
「なんか他にないか?面白い話」
「紗奈をうちに泊めた」
コーヒーを含んでもないのに澄川は吹き出した。
「マジ⁈」
「あぁ」
「なんかあったのかよ」
「あいつが家に押しかけてきた」
「そりゃまたなんで」
「家に遠い親戚の女が来てな、一緒に住むことになった」
またまた吹き出した。
「何がどうなってんだよ⁈」
「俺が聞きたい」
「いやすげーな、まるで本当にラブコメみたいだ」
「俺には愛も笑いもいらん」
「その割には面白い話ってのに乗りやがって」
「ぬ」
「なんならちょっと顔つきが和らいだ気もする」
「そんな馬鹿な」
「———やっぱり、なんかあったんじゃないのか?紗奈とよ」
なんか詰めてくる!
「お前、あれだけ遊んでるならやってるかどうかすぐ分かるんじゃないのか」
「———俺だって未経験だ」
「なんだと?」
じゃあこれ童貞同士の悲しい会話ってことじゃないですか!
やだー!
てかなんだこいつ、こんなピアス開けまくってるのに童貞とは。
エロ漫画に出てくるギャルじゃないんだから。
「あいつは夜になったらすぐに寝た。子供と同じだ、そんなことするまでではない」
「へー、言うじゃない」
「俺は年上の方が好みだ。三十代ならなお良い」
「———そ、そうか……」
なんかすごくドン引きしてる!
何これ!
「お前、俺が熟女とかが好きだと思ったな」
「いやぁ……別にィ……」
確実に何かがある!
クソッ!こんなとこで性癖を露出するんじゃなかった!
「もう俺帰るね……会計は俺が済ませておくからさ」
なんかすごい乾いた笑みを浮かべている。
「おい!」
そんなこんなで先に帰られてしまった。
皆さんも性癖の暴露には気をつけよう。
「資料室は……」
ということで、俺は珍しく本部に月が出てもいないのにやってきた。
「あ、こんにちは!」
なんか俺と同い年くらいの小さい男子が頭を下げてきた。
「あぁ」
そうとだけ言っておく。
龍宮寺はこんな奴なのだ。
しかしこんなんで大丈夫なのかこいつ?
演じてる身とは言え、なんか腹立ってくることもある。
そしてまた数人に挨拶されそれを淡々と返しながら、やがて廊下の隅っこにやたらでかい部屋を発見する。
「ここか」
コンコンコンとドアを三回ノックする。
「龍宮寺暁だ、開けろ」
「———いやです!!!」
なんかすごい大声で拒否された!
すごく柔らかい声だ。大声を出していることに驚かされるくらいには。
「え?」
「なになに?」
「龍宮寺さん?」
なんかゾロゾロヒラ隊員たちがやってくる!
余計なことすな!
「開けろと言っている」
「いやったらいやです!」
「何故だ」
「———話には聞いています、冷血で冷徹で、人に敬意を払うことのない最低人間!それがあなたです、龍宮寺暁!」
———天罰!!!
———早くね?
「……面倒な」
ドアノブを持って無理やり開けようとするが、鍵をかけられているのか押さえられているのか、全く動かない!
「帰ってください!あなたみたいな人とは、会話もしたくありません!」
「チッ……」
ぶっきらぼうに背を向けて、とっとと長官室に向かうことにした。
「ねぇあの背中見て」
「確かに曲がっている」
「凹んでるよ」
———心を見透かすな!バカ!
「はぁ、それは災難だねぇ!」
長官は相変わらず飄々としている———てか面白がっている!
「貴様、はっ倒すぞ」
「庵野さんは礼儀正しい人だからね」
「庵野?」
「資料室の室長をしている人だよ、可愛らしいお嬢さんなんだけどね」
それは声でわかる。
「可愛らしさなど、非効率だ」
「でも君はそれに追い返されている」
「ぐ」
図星!
龍宮寺、図星!
「紗奈から聞いているだろう、例の吸血鬼の話を」
「あぁあぁ、大変だよねぇ」
なんか他人事!
「貴様、捻り切るぞ」
「冗談だよ〜冗談!」
長官は両手を振る!振る!
煽りにしか見えませんけど?
「もう貴様が聞けばいい」
「いや、それは無理だね」
「何故だ」
「成長というものがある」
「突然どうした」
「君はいっつもそう、効率を突き詰めれば何もかも上手くいく、という考え方を人に押し付けているところがある」
確かに、そうですね。
「———それがどうした」
「信念を貫き通すことは生きる上で大切だ。だが人は人と関わって生きる以上、時にそれを捻じ曲げる柔軟さも大事になってくる」
「説教ならたくさんだが」
「僕はね!一人のおじさんとして君の将来が心配なわけ!だから、これを機に成長してもらいたいのさ!」
なんか立ち上がってすごい仰々しく身振り手振りを交えている。
おじさんらしいムーブありがとう。
「———一理あるな」
「わかってくれて嬉しいよ」
「ならば、どうすればいい」
「簡単な話さ」
そう言うと長官はパソコンを取り出して何やらカタカタとキーボードを叩き始める。
「どういうつもりだ?」
「こういうことさ」
長官がパソコンを回して画面を俺に見せる。
———そこに写っているのは、名前と写真が抜けた、履歴書だった。
経歴を見てみると、本当になんちゃないものが書かれている。普通の高校に通い、両親と妹の四人家族で、聖銀は簡単な両手剣。
別に何か大きな吸血獣を倒したわけではないが、かといって何も倒せていないわけでもない。
———まさしくモブ!
———まさしく普通!
あるべき未来の自分を見せられているようだ。いや俺はもっと下かもしれない。
「これが何だと言うんだ」
「———君には今から、全く別の人間になりきって、彼女と交流してもらう」
「なんだと⁈」
びっくり展開!すごく楽しそうだね!!!
いや、いつもやってるんですけどね。
「やりすぎかもしれないけど、こうでもしないと君は変わらなそうだからね」
「チッ……」
とりあえず嫌そうな顔。
「それじゃあ、まずは平凡な顔にしてみて。君いつも力んだみたいな顔してるでしょ」
「———こうか?」
「おお!」
———ただ単に普通の顔つきに戻ってるだけなんだけどな。
「それじゃ名前を決めようか。ごくごく普通の名前———」
「山田太郎、とかどうですか?」
ごくごく普通に聞いてみただけだ。
「———誰?君」
「俺だ」
「うわぁ一瞬で戻った」
「どうだ」
「いや、想像以上だね……元々こうしているかのようだ」
実際そう!
正直バレないかちょっと怖い!
「じゃあ、写真もさっさと撮ろう」
スマホをどこからか取り出す長官。
「はい、チーズ!」
普通の真顔で映ってみる。
「おお……本当になんちゃない、なんならちょっとバカそうな男の子だ」
馬鹿にされてる?
事実だけ述べるのは人を傷つけるんだぞ!
「早くしろ」
「わかったわかった、この写真をここに入れて、あとはこれを登録しておく———よし、これで大丈夫だ」
「なら俺はもう行くぞ」
「ダメだ!」
「何がだ」
「———もう交流は始まっている」
「わかりました!それじゃ行ってきます!ありがとうございました!」
笑顔で礼を言って部屋を後にする。
「いっつもあんなんならいいんだけどな〜」
ドアを閉める瞬間そんなぼやきが聞こえた。
———俺が一番そう思ってるよ!!!
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