第3章 お泊まり強襲①
「何にしましょう」
「お前が決めれば?」
そんなこんなで二人でスーパーに買い物にやってきました。
するとまたしてもニヤニヤとこちらをのぞいてくる。
「なに」
「たくさんもらってるじゃないですか」
「まぁ、うん」
「やっぱり普段から贅沢なさるんですか」
「さっきから思ってたけど、お前服装の割に俗っぽいな」
「まぁ、ごくごく普通の暮らしをしてましたからね、最近まで」
「よかったな、俺別に贅沢してないよ」
「んだと⁈」
「唐突に怒号⁈」
「なんですか……じゃあ全部外国産の食材なんですか」
「流石に肉とかは国産かなぁ」
「ブルジョア!」
「判定デカくない?」
「じゃあ肉食べましょう肉!肉らしい肉!」
「肉らしい肉ってなんだよ」
「骨がついて……なんかこう……貪るというのがピッタリな表現になる……」
「それを骨付き肉と言うんだよ」
「そうそうそれですそれ」
「どうしようかなぁ……まぁいいか、初日なんだから奮発してもいいだろう」
「骨付き霜降り肉?」
「んなもんあるかい」
「ケチ!悪魔!女たらし!」
「なぜ俺に言う?あと、最後のだけは否定させてくれよ」
「嘘おっしゃい」
「俺が何したってんだ?」
「鈴代紗奈」
「あ〜」
「あ〜ってなんですか、あ〜って」
「別に普通に会話するし」
「そういうところから発生するんでしょ」
「カップル?」
「繁殖」
「虫みたいな倫理観」
「実際どうなんですか?」
「いや、なんかね……好いてくれてるのは分かるんだけどね……」
「何か問題でも?」
「なんか重いんだよ……」
「体重?」
「それをひっそり伝えられるくらいにはね」
「ヒェア」
「なんか言葉ひとつひとつの発音に何やら重みを感じる」
「言霊みたいなもんですか」
「多分そんな感じだ」
「童貞だから重く捉えすぎなんじゃないですか」
「グフッ」
すると俺は突然吐血した。
「どうしたんですか⁈」
「いや、だいぶダメージが入った」
「そんな冷静に?」
「久しぶりに吐血した」
「変なとこで脆い身体」
「童貞だからとか言うんじゃなグハッ!」
「セルフダメージ⁈」
「まぁいいや、とにかく今から付き合うとか、そういうのはないよ。もうちょっと経ったらどうにかなるかもしれないけど」
「未来は否定しないんですね」
「龍宮寺の前でどうするかだ」
「他人みたいに言いますね」
「ほぼ別人みたいに演じてるからなぁ」
「確かに、力で見た限りは別人のようだ」
「考え方から何もかも違う人間だから、ある意味演じやすいんだよ」
「確かに、あっちは主人公って感じがしますね」
「ほんとにね」
「あなたはヘタレって感じがします」
「遠回しに主役って言ってんの?それ」
「自信過剰童貞!」
「グファッッッッ」
「うわぁなんだこれは!」
そうルルシアがそこそこ大きい骨付き肉を持ってはしゃいでいる。
「流石にこんなでかいのは初めて見ました」
「スペアリブって言うんだ。豚バラだな」
「へぇ、豚バラ……焼き鳥でしか見たことない」
「お前本当俗っぽいな」
「なんですかさっきから俗俗俗俗と……芋づるじゃないんですよ」
「逮捕されてんじゃん」
「私はですね、しっかりとした能力のある◯◯◯なんです!わかりますか!」
◯の部分は本当に無音だった。
なんと言ってるのか、聞き取れないような何かがかかっているのかもしれない。
「なんて?」
「呪いですね、まぁ、私の正体です。でも言えませんよ」
「紙に書いたら?」
「あぁ———」
彼女は適当なペンとメモ帳で何かを書いた。
「こうなりますね」
彼女が見せたものには、文字というのには怪しいもつれた線があった。
「文字として記すのもダメなんです」
「あんたかわいそうだね」
「それはあなたの方じゃないですか?」
「いや、俺は君とかヒメがいるから、相談できるし色々言える。でも君自身は」
「別にそこまで。だって私は普通に話せますし普通に食べれますからね」
「君はそれなら悲しくないのか」
「生きてりゃ丸儲けですよ。こんなにも世界は豊かなのに、それを理解できるだけで金脈を持ったみたいなもんでしょう」
ヒメはこれをどう思うんだろう。
「これとかね」
ルルシアはスペアリブを俺の眼前に出した。
「食べたことのないものを好きな時に好きに食べれるのも、知能と記憶のなせる技です」
「お前が嬉しいなら、それでよかった」
「どう調理するんです」
「しっかり焼けるグリルはないから、トマト煮込みかな。野菜もしっかり摂れる」
「ブヘェ」
なんかすごく嫌そうな顔をしている。
「食えよ」
「なんで肉と一緒に野菜も食わなきゃいけないんですか!」
「肉から摂れるビタミンには限界がある!」
「すごい真面目に返された」
「まぁその方があっさりするし」
「へぇ」
「その方が飯とも合わせやすいしね」
「そういうとこはしっかり男の子〜」
「飯食わんと日本男児やなか!」
「親どこ出身なんですか?」
「父が宮崎」
「どこ?」
「サボテンとマンゴーの国」
「わけわからん」
「俺も帰るたびそう思う」
「これ買いましょう!これ!」
そう彼女の手に握られていたのは、カップのアイスだった。
濃厚バニラ味。この場合どっちが濃厚なんだ?バニラが濃いのか?ミルクが濃いのか?
「え〜」
「露骨に嫌な顔」
「お返しだよ」
「なんで嫌なんです」
「生活レベルってのはな、上げるのは簡単だが下げるのは難しい」
「ふんふん」
「俺は割と裕福だが生活レベルは極限まで抑えられていた」
「ひでぇな」
「いつか家に帰ると仮定すれば、報酬金で生活レベルを上げれば、そのとき俺は家族についていけなくなる可能性が出てくるんだ」
「元々家出してもおかしくなくないですか?そのレベル」
「だから、俺はカップアイスは買わん!箱にしろ!」
「やだやだやだ!!!!!!買いなさい」
「途端に落ち着くなよ……」
「別にね、一回買ったところでそんな人間変わるとは思えませんよ」
「———本当に、そう思うか」
「どうしたんです途端に声色変えて」
「俺はカップアイスをセットで大量に貰ったことがある」
「いいなぁ!」
「そしてそれをどうしたと思う?」
「何って……なんでしょう、もったいなくて賞味期限切らしたとか?」
「逆だ———うますぎて一時間で全部食い尽くしたんだ」
「腹壊しますよ」
「その時はまだ報酬金がドカッと入る前だったから更なる凶行に及ばなくて済んだ。だが、今は———」
「いいじゃないですかァ、金はあるんですよォ?」
「ニチャニチャ迫らないでくれ!」
「龍宮寺みたいな喋り方になって———そんな真剣にアイスが好きなんですか」
「箱アイスを十分で食い切るくらいには」
「そっちのが割高でしょうよ」
「でも、ダメだ!」
「その時に一旦舌に定着したんじゃないですか?今食べるとそうでもないかもしれませんよ」
「そんなもんかなぁ」
「ものは試しに買ってみたらどうです?」
「そうだな———」
ということで俺は十数個を手に取った。
「……量の話じゃないですよ?」
「え?」
ということで帰ってきた。
ひとまずスペアリブを焼く。
肉を焼く時は、その肉の油で焼くのが本当は一番良い。そのためにラードを買ってきた。
ラードを広げたフライパンで、スペアリブを二人前焼く。
「う〜んいい香り」
「なんであんた隣にいんのさ」
小学生かな?
「そして焼けたら肉を一旦取り出して冷蔵庫で寝かす」
「それっぽーい」
「その間に野菜を切っておく」
トマト、セロリ、ブロッコリー、ニンジン。
色が濃いから健康にいい。
「うへー」
「食べなさい」
「そしてこれらを炒める」
ジュージュー野菜から音が鳴る。
焦げ色がついてきた。
「ここにトマト缶、そして赤ワインを投入する」
「未成年!」
「長官に買ってきてもらった」
「ふへぇ」
「そして煮込んでぐつぐつしてきたらスペアリブを取り出す」
「へい」
ルルシアが取り出して、箸で丁寧にフライパンに入れた。
そんなふうにできるんだ。
「あとは弱火で蓋をして待つ」
「楽しみですね」
数分後。
「そろそろいいだろう」
「よし来た」
火を止めて蓋を開ける。
しっかりと煮込まれた、ゴロゴロした野菜と柔らかそうなスペアリブがそこにあった。
「いやぁいい匂いですね」
「野菜が効いたのかな」
「食べましょう食べましょう」
「寝かせるんだよまた」
「手間かけますねぇ」
———するとその時。
激しくドアがノックされる!
何回も何回も!
「なんですか⁈」
「今時乞食なんてくんのかよ」
どうやら出ないと止めてくれないようで、ドンドンドン、ドンドンドンと一定のリズムでノックは続けられる。
「見てきてくださいよ、知り合いだったらどうするんですか」
「そんな知り合いいるかなぁ……」
もはや恐怖に顔を引き攣らせながら、ドアにある覗き穴を見る。
———艶のあるストレートの黒髪はどこかパサついてあちこちがはねている。
鋭く光る目は、その輝きを失い、どこか濁っており、その上真っ赤に充血している。
薄い唇も、どこか青みがかったような印象を受ける。
「———紗奈だ」
「えぇ⁈」
「俺がえぇ⁈だよ」
———なんだ?どういう理由だ?
しかしこのまんまだと俺が追い出されかねない。
公共の福祉で揉める前に、身内の暴力で解決した方がマシだ!
「仕方ないな」
「あ!声が違う!」
しっかり龍宮寺モードで臨む。
「……俺が死んでも、強く生きろよ」
「顔つきも違う!」
「え?まじで?」
「いやほんとに」
手鏡で確認してみる。
———確かに、本当に復讐者ともいうべき、キリッとした目つきの、堅物そうな男がそこにいた。
「演技って人変えるんですね」
「そんな呑気にしてる場合じゃないぞ」
———ドアに手をかける。
死にた〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!
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