第2章 わたしは山田⑤

 というところでひとまず回想は終わりにさせていただきたい。

 残りもあるが、それはまた次の機会にさせてほしい。

 そうしないと二章同じ内容繰り返してるだけになるからね。

 分割商法みたいなもんだ。

 だって紗奈めんどくさいんだもん!


         ◉

 

 「———語り終えましたけど」

 「んー、いいんじゃない?」

 「何様やねんなあんた」

 彼女はなんか耳をほじりながら聞いていた。

 確かに人が話しているときの心構えとしては正しい。

 しかしなんだ?何がしたいのこの人?

 「そもそもあんた何者なんだよ!怖いよ!」

 「え?昨日言いませんでしたっけ」

 「催眠学習!!!」

 「そうだったそうだった」  

 彼女はゆっくりと立ち上がる。 


 「私の名前はルルシア・パッチヤード———あなたの監視人として、参りました」


 「それはわかった」

 「理解が早くて嬉しいですね」

 「でも聞きたいことをひとつひとつつぶさなきゃいけない」  

 「へぇそれはそれは」

 「監視人ってなんだよ」

 「あなた、イレギュラーな存在なんです。ある大きな計画にとって」

 「へぇ」

 「なのでその対策専門の私がやってきたというわけです」

 「ふーん」

 「別に危害を加えるわけでもございません。ただ、どうするのかを、眺めているだけです」  

 「変な仕事だね」

 「でしょう」

 「じゃあ次にさ。『親』って、何?」

 「かっこおやでしょう」

 「あぁそこ読むんだ……じゃない!なんだ!それは俺の親なのか⁈」

 「あなたの中にいる親ですね」

 「……俺の中にいる、人」

 「なんとなく知ってるはずですよ、あなたはあの子と接触したでしょう」

 「あの子?」

 「気になるあの子」

 ———ヒメ?

 「知っているのか⁈」

 俺はつい立ち上がってしまった。

 そりゃ気になりもする。

 「えぇ———可愛いおチビちゃん」

 「そういうこと言うからあんな捻くれたんじゃないのかね」

 「それはそうかもしれません」

 「なんだ?お前は、ヒメの同類なのか?」

 「そりゃそうでしょう、知ってる時点で」

 「なんなんだ、全部決まっていたのか、俺の運命は」

 「まぁ決まってましたよ、数年前から」

 「まじかよ」

 「でも、いくつかの案の中でこれはねーだろってやつでしたね」

 「ほぼ没案じゃねーか」

 「それで?何かまだ聞きたいですか?」

 「いや何もわかってないと思うの」

 「へぇ」

 「その人の名前くらい教えてくれない?」

 「ダメダメダメダメ」

 「なんで」

 「私縛りがあるんです」

 「縛り」

 「そういう同類の名前を言うとですね」  

 「はい」

 「偏頭痛がするんです」

 「今すぐ吐け!!!!!!」

 「そんな豹変せんでも」

 「今すぐ全容を理解したくなるだろ!そんななんかいろいろ開示されたら!」

 「耐えなさい」

 「なんか代替案出せよその時は……」

 「何も出せない」

 「じゃあどうすんだあんた」  

 「ほれほれ〜」

 そう言うと彼女は肩の衣服を少しずらした。

 「いや、そういう気分じゃない」

 「冷静になりやがって……」

 「流石に朝から不審者がいたら全身縮こまるよ……」

 「どうしましょう!もう何もできない!」

 「宿に困るなら一泊くらいはさせてやるよ」

 「やだ!!!!!!」

 「善意はちゃんと受け取れよ⁈」


 「もう後は長官に真実を言うしか……」


 「あるじゃん最終兵器!!!!!!」


 さすがに焦ります。

 こんな切り札予期してない。

 「ヘェ……」

 するとルルシアがニチャアとした笑みを浮かべた。

 「電話しちゃおっかな〜」

 すると何処からかスマホを取り出した。

 「てかさ!なんであんた俺のいろんなこと知ってんだ!なんなんだ!」 


 「それがさっきの縛りの効果だからですよ」


 「なんだと?」

 「起こった全てに対する答えを得られる代わりに、それを他人に伝えるには制限がある。それが私の力であり、呪いです」

 「つまりお前、いろいろ知ってるけど話せないわけか」

 「どうすればいいかくらいは言えますかねー」

 「なるほどなぁ……」

 「それで交渉を遅らせられるとでも?」

 「いきなり強気になるな!」

 「言っちゃおっかなーッ!今ーッ!読者にィー!色々!」

 「いや読者には言ったれよ」

 「読者に優しい作品は受けませんよ」

 「捻くれたオタクみたいなことを言う」

 「そうですねぇ……なんでこんなとこに住んでるか、とか?」

 その時俺は手を挙げた。

 「それは俺が白状したほうがいい」

 「口を割ったか……ざぁこ」

 「どういう方向性なんだよその口調!」

 「へいへい言え言え」

 ナナナナーみたいな動きをする。

 うぜぇ!

 「えー、この家は、僕が家出先として、長官の持ってるアパートを貸してもらったものです!」

 「居候?」

 「家賃はしっかり報酬から払ってるよ」

 「家族には?」

 「家族にはねぇ……」


 あの後俺は一旦家に帰った。

 入り口を開けると、ちゃんと笑顔の母さんが仁王立ちで立っていてくれた。

 母の愛を感じる。

 無論、全身ズタボロにはなったが。

 なんとか許していただけました。

 

 しかし!俺はそれだけでは済まない!あんなこと言ってしまったのだ!

 ということで俺は諸々何とかなる策を考えた!


 「母さん!俺、ダンサーになる!」  

 そう家族を集めた中で宣言した。

 「……へぇ、なんで家族を集めたのよ?」

 「そうだぞー、パパ眠いんだぞー」

 「何か、家計にかかわる相談なわけ?」

 「そこでさ、あるダンススクールがあって、そこ授業も充実してるんだけどさ」

 「「「はぁ」」」

 「練習室をほぼ朝から夜まで使えるんだよ、だからしっかり練習できる」

 「「「勝手にしたら」」」

 「でもさ、そこ割と遠いんだよ、電車で一時間くらいかかって、学業のことも考えると、ちょっと無理なんだよ」

 「「「それで何さ」」」


 「———一人暮らしを、させてほしいんだ」


 「はぁ⁈」

 妹は驚く!

 「へぇ〜」

 父はよくわかってない!

 「……」

 母は黙る!


 「……それは、あんたが本当にやりたいことなのね?」

 「お母さん!」

 「……あぁ……」

 「はへぇ、そんなこと言うやつだったんだな」

 「……これまで、あんたが何かをしたい!って言ったことは、私聞いたことなかった」

 「「たしかに」」

 「だから、あんたがそうしたいって言うなら、私たち家族は応援してあげるべきなんだと思う」

 「「まぁまぁそれは」」

 「母さん……!」

 「……父さん、ウチそんな余裕ないわけでもないわよね?」

 「寧ろ収入の割に極貧生活だよ」

 「だから半額品しか食べない生活だったんだ!」

 妹の中で糸が繋がっていた。

 「……ただ、逃げることは許さない。たとえそれが無理だとしても、やり通しなさいよ」

 「———あぁ、任せてくれ」


 ということで。

 家を探す———というところなのですけど。


 「———俺は、あの家から離れたい」

 「へぇそりゃどうして?」

 長官室にて。

 俺はそう切り出した。

 「あそこにいれば、俺はずっと家族といた時を思い出してしまう———過去を、ずっと振り切れないままでいてしまう」

 「それはそれでいいんじゃないかな?」

 「だが、もう家族のことは切り捨てるべきだと思っている。奴らをこの世から、いち早く消すためには」

 「そうか……それもそうだな……」

 「そのために、部屋を貸してほしい」

 「———じゃあ僕がなんとかしよう!」

 そう長官が手を叩いて立ち上がった。

 「申し訳ない」

 「明るい未来のためさ。それに若者に対する投資は、多くて損はないからね」

 

 ということで案内されたのは、長官が持っているというアパートの一室だった。

 リビング、キッチン、風呂とトイレはしっかり別々!

 日当たりもいい!

 「———こんな感じで、よかったかな?」

 「むしろ良すぎるくらいだ、ありがとう」

 「いやいや別に〜」

 「だが、ここは俺が住んでいることにはしないでくれ」

 「あぁ———じゃあ、事故物件ってことにしとくか」

 「それはいい」


 そしてまたまた後日!

 「母さん、俺、先走って契約しちまった……」

 「へぇ……あんた18だっけ」  

 「嘘ついちまった……」

 「まったくしょーがないな!」

 ということでしっかり母親に仲介してもらい。

 事務所に向かったのだが。

 「事故物件⁈」

 母が血相変えて叫んだ。

 「安かったから……それに俺頑丈だし」

 「……たしかに、あんたなら大丈夫か……」 

 (よし!!!!!!)

 

 ということで。


 僕は部屋を手に入れました!



 「バカみたいですね」

 「ほんとにね」

 流石に呆れられた。不審者に。この状況そのものが理不尽だ!

 「なんで復讐者設定にしたんですかほんと」

 「いやぁ……なんか手っ取り早くて……」

 「おじいさん殺されたとかにしとけばよかったのに」

 「たしかに俺の爺さん死んでたわ!」 

 「そういうとこですよ多分」

 「だからこんなことに……あの夜逃げただけで……」

 「ダンススクールは行ってるんですか」

 「一応」

 「どうなりました?」

 「こないだ市大会で優勝したわ」

 「結果は出すんだ」

 「結果ないと親に迷惑が」

 「変なとこで真面目だなぁ」


 「———なんか色々話し終えたような気がするんだけど」


 「———私は⁈」


 彼女声を荒げて叫んだ。

 「え?いや、住むんなら住むでいいんじゃない?」

 「いやそこそんなスルッと決めますかね⁈」

 「だって僕金あるもんね」

 「金はこうも人を変えるのか」  

 「なんか変な余裕はついたなー」

 伸びをする。だいぶ話し疲れたのだ。

 回想の時も喋りっぱなしだった。

 「買い物行かないとな」

 「そんな何もないんですか」

 そう言いつつ彼女は冷蔵庫を開けていた!

 「ヴェ!」

 「引くほど何も入ってないですね」  

 「ちょうど色々使い果たしたんだ、少しずつ同じ量食材使うから、ある日途端に全部切れる」

 「なんかすごく意識高いなぁ」

 「作ってるのは肉じゃがとかだからバランスが取れてる」  

 「天秤みたいなライフスタイル」

 「どうする?あんたも行く?」

 「行く行く!他人の金で買い物したい!」

 「置いてきてぇ〜」

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