第2章 わたしは山田④

 すたっと着陸。

 真っ赤なウサギが目の前に数匹。

 なんとなく殺し方はわかるが、どうすればいいのだろう。

 そもそも首を落とすって言ったって、どんな時でも地面に置いて固定して切ってるはずだ。

 それを!今ここで!立ってる生き物の首を!落とせというのか?

 できるんだろうか、そんなこと。

 しかしウサギたちは前進を続ける。

 それに女の子だって後ろからやってくる。

 時間がない!

 イメージが大事。

 どうやったら首をすぐに飛ばせるか?

 ———なんか平べったい刃を、なんたらカッターみたいに飛ばす、みたいな。


 すると俺の両手は瞬時に折り重なった薄い刃に変わっていった!


 ———これを、飛ばせということか?

 ウサギがちょうど一匹飛びかかってきた!

 仕方ない!俺は発車をイメージする!


 すると刃が飛び出し、ウサギの首は宙を舞ったのち、ぼとっと地面に落ちた!

 ———要領は掴んだ。

 あとはお遊びに近いぜ!

 バズンバズン刃が飛んでいき、ウサギの首たちはどんどん宙を埋めていく!

 いやぁ絶景かな!

 さて、あとはここからとっとと立ち去るだけだ———翼を広げて———。

 

 と思ったらなんか翼がやけに重い!


 「なんだ?」

 そう思って後ろを見てみると、なにやらウサギがひっついている!

 さらに前方から足音がしたので振り返ると、なんとまだまだウサギの大群が、隙間なくこちらに向かってきていた!

 「ヒェー!」

 逃げようにもウサギは思った以上に力があるのか、なかなか翼から離れない!

 なんとかそのウサギを引っ剥がすものの、しかし前方のウサギの大群はもはや眼前まできている!

 いやこれ後ろの子も大丈夫か⁈

 一体どうすりゃいいんだよ———!!!


 すると、革靴の音がコツコツ響く。

 

 どうする?ここはそれなりに冷静にいた方がいいのか?いいよな。

 俺は振り返ってみた。

 

 ———なんかでかい刃物を背にした少女がそこにいた。

 

 え?待って?そんなん持ってたっけ?

 てかなにそれ———俺よりも確実に殺意が上!!!

 怖!!!

 だが冷静さも大事だ!とにかくコミュニケーションが取れることは証明しなければ!

 

 「だ、だだだだだだだ、誰だ!」

 「———貴様こそ誰だ」


 なんかすごい美人だ。目つきは鋭いが、しかしそれ以外の全てが可憐だ。というか目つきの鋭さがいいアクセントになっている。

 それによりただの美少女から、何かしらの個性のある、より上のランクにある気がする。

 なんか白い軍服じみたものを着込んでいる。

 やっぱり激しい組織なのか?

 手にした刃物は見事な曲線を持った、巨大なナイフともいうべきものだ。

 それだけで芸術作品として完成しているほど、美しい表面と形状をしている。

 あそこまで研ぎ澄まされてるなら、よく切れるんだろう。

 しかしそれはそれとしてあんなもの振り回すのは怖い。

 とりあえずどうしょうもないので凝視していると。

 

 「退け、私が仕留める」

 

 というのでそそくさと彼女の後ろに移動した。

 情けない気がする。

 

 ———すると彼女がその刃物を振るい———一瞬ウサギたちの動きが止まると、そのまま音もなく滑るように、首がぽとぽととこぼれるように落ちていく。

 まるで元々繋がっていなかったかのように。

 

 いやぁ見事だなぁ!と言って拍手をしてやりたかったが、しかし俺は謎の存在。

 流石にここで陽気な真似をすれば、新たな刺客だと考えられかねない。

 「———な、なんだお前らは」

 「お前らとはなんだ———我々は聖銀教会、吸血獣を狩る組織だ」

 「へ、へぇ———こいつらは、吸血獣というのか」

 「貴様、知らずにこんなとこにいたのか、早く帰れ」


 んん?

 

 まずいぞこれは!

 全く見られてなかった!

 どうしよう、また待つことになるのか?

 というか家に帰らないとダメか?このままだと。

 うーん、どうしよう……と思った矢先。


 彼女の背後にウサギが襲いかかっていた!


 これは好都合!

 神様はやはり僕を見捨てなかった!

 俺は刃を瞬時に生成し、ウサギに飛ばす!

 ———ウサギの首はちゃんと空を飛んだ。


 「———お、俺もこいつらを狩っている」

 「なるほど———どうやら同志というわけか、貴様、ついて来い」

 あれ?

 なんか随分と話が早い。

 予定変更した方がいいのか?

 まぁこの人はいい人だろう。多分。


 ———よし!予定変更!今から着いていきます!


 しかし、ここで警戒心を解いてはいけない。しっかりと、まだ何者かは伏せる!

 「な、何のつもりだ」

 

 「———貴様が何者か、聞かせてもらおうじゃないか———異形の同志よ」


 やった!

 やったよ!

 うまくことが進んだ!

 ———でも、これからどうしよう。


 こんな真面目な子の前で———土手のスライムとか、親から逃げてきたとか、言えるのかしら⁈


 そのままなんか小さなビルに案内された。

 ほんとに小さい。3階建ての、なんか細々した事務所とかが入ってるやつ。

 一応何か言っていた方がいいのかな?

 「こんなチンケなところに、案内したかったのか?」

 「さっさと入れ」

 そのまんま彼女が一階から、エレベーターに向かって歩いていく。

 そしてそこで何やら秘密のコマンドでも入れているかのように、ボタンを何かしらの順序でカチカチ押していく。

 するとなんかガコン!とでかい音が響いて、一階から下に降りていく。

 普通に考えたら死にそうだけど、あんなことされたのである意味納得はした。

 そして地下———多分組織の基地———に着いた。

 

 ドアが開くと、そこはもうものすごい空間だった。

 地下なのにやたら高い天井!

 基地は黒を基調としているが、何やら光るラインがあちこちに通っている。

 多分そこから水とか電気とか通しているのだろう。

 地下鉄なんかよりもよっぽど近未来的な雰囲気だ。

 そしてとにかくあたりに散見されるのは、武器!

 なんか壁を見ると無数の銃が立てかけられている。火をつけられたらえらいこっちゃだ。

 なぜだかみんな銀色。そして輝いてる。

 さっきの刃物も銀色だったような。化け物ににはそれが本当は効くのだろうか。

 そしてとにかく人!人!人!

 たくさんの老若男女が、彼女と同じ服を着て、あたりを走り回っている。

 武器持ったり書類持ったりおにぎり持ったり。忙しいのが見てわかる。

 まぁ今日が化け物が出る日、というのもあるかもしれないが。


 「貴様を長官に紹介する」

 そう言うと彼女は俺を何やら一番奥の部屋に案内した。

 部屋には無数のモニターが存在しており、そして部屋の中央には先ほど同様、黒を基調としたメカニカルな机に、一人男性が座っていた。

 なんか胡散臭い印象を受ける人だ。

 微妙に顔がいいのも余計にそう。

 

 「紗奈ちゃん———誰だい?その殺気に満ちた少年は」


 そうおっさんはあくまで軽い喋り方で彼女に問う。

 しかし俺そんな殺気に満ちてるのか?

 多分もう緊張してすげぇ硬い顔になってるだけだと思う。ごめんなさいね。

 「我々の知り得ない方法で、吸血獣を殲滅しました。有益なものであると判断したので」

 彼女はあくまでクールに、事務的に答える。

 にしても人間ができている。

 働くんならこんな上司の元で働きたいね。

 「なるほど———少年、君何者?」


 山田太郎!なんか河川敷でスライム食ったら変な能力手に入れました!それでなんか、ちっちゃい女の子に組織を探せって言われたんで、来ました!オナシャース!


 ———と言おうかと思ったが、しかしダメだった。

 この場には、何やらシリアスオーラが流れている。

 このボスっぽいおっさんだって、飄々としながらも、俺を見つめる視線はどこかしっかりとした眼光を持っている。

 なんかシリアス作品の方が、組織のボスって軽い人な気がする!!!

 さぁどうしようどうしよう———どうすればここを切り抜けられるのか?

 いや本当これ大して考えてなかった!考えなしがすぎる!ヒメも大概だけども!

 

 仕方がない。


 嘘を話そう。


 「龍宮寺暁———吸血獣を喰って、奴らと同じ力を手に入れた。そして同時に家族を皆殺しにされた。だからあいつらはこの世から一匹残らず消す」


 ———二人して、驚愕している。


 ———なんか無理がないか⁈

 というか、なんかノリで言っちゃったけど、別に殺しはしないからなぁあいつら!

 失敗した!

 やば!

 まじで失敗した!

 どうしよう———まぁいいや、最悪土下座したら長官は庇ってくれるだろう!彼女は俺を切りつけるだろうけど!


 「おぉ———中々気合入ってるね」

 なんか就活で滑った時みたいなこと言われた。言わないでそんなこと。

 「———貴様、吸血獣を喰らった、だと?」

 「あぁ」

 食べたみたいなもんだ。

 「問題は、ないのか?」

 だんだんクールな表情が、ガチの心配に変わってきた。そうだね、なんか右手がよく形変わりますね。

 「———すでに俺の身は人間じゃない。だからもう俺には、奴らを倒すことでしかまともに生きる方法はない」

 いや別に好きに生きていけばいい気がするんだけど、知りたくて仕方がないように誘導されちゃったぁ!

 「———正義の怪物、とでも言いたいのか?」

 そんな大層なもんか?

 シコりたいだけのケダモノですよ。

 「いや———俺はただの復讐者だ。正義もクソもない」

 なんかちょっとカッコつけちゃった。

 こんな尖ってるの雇ってくれんのか?

 「———ちょうどよかった」

 

 ———えぇ、マジ?


 ただの殺戮集団なのかな?モラルもクソもないのかもしれん。たくさん末端は死んでるのかもしれん。

 「何がだ」


 「僕らのモットーはね、『信念なき殲滅』なんだ」


 信念なき殲滅。

 卑怯な手段もたくさん使う、ってことなのか?

 まぁまぁまぁ。

 それくらいはするか。変な規制がない方が俺もやりやすいとこはあるしな!


 「なるほど———気に入った」


 ———そして俺は、聖銀協会に入ることになったのだ。

 

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