第2章 わたしは山田②

 果たして一体何が起こったのだろう。

 と思いながら飯を終えて自室に戻った。

 

 自室に着いたらみんな何をすると思う?


 ———そう!!!自家発電だね!!!


 ベッドに飛び乗り、あぐらをかく。

 ということで俺はスマホでエロ画像を調べる。今日は黒ギャルの気分だった。

 右手で息子をしごく。


 しかし、そこにあるのは何よりも得難い幸福のはずなのに、俺の中に渦巻くのはひとつのさらなる欲望。


 ———オナホールがあればいいのになぁ。


 正直俺は形状と使い方しか知らない———どんな感触なのかも、それで何倍の快感が得られるのかも、まったく知らない。

 ひたすらに憧れは尽きない。

 あぁ———今まさに、それがこの手にあれば———。


 そんなこと思ってると、何やら右手がプルンプルンした感触を帯び始めた。

 ———というかしごけてさえいない。


 ———なんだ???まさかこれは!!!


 ———今度は、右手が真っ赤なオナホールになっていた!!!


 いやいやこんなことあるのか?と思ったが、しかし先ほどのスライサーの件と合わせて考えると、よくよくわかる。


 ———望んだ形に、体を変えられるようになっているのか?


 その疑問が体を貫く———しかし、それよりも気持ち良くなりたいのでオナホールを息子に通してみることにした。


 ———その瞬間俺は絶頂した!!!


 

 ———手を元に戻して洗ったあと、俺は今度はしっかりベッドに仰向けに寝っ転がる。


 どうやら本当に俺の身体は人間ではなくなってしまったらしい。

 だが———今のところ、何かを必要とした時でないと、その証は出てこない。

 体が化け物に変わって戻れない、とかいう悲劇的状況ではないのだ、別にちょっとしたことで変わるくらいだ。

 

 ———だがしかし。

 まだまだ疑問点はある。


 真っ赤に変化する理由。


 そういえばあのスライムみたいな何かも真っ赤だった気がする———あれがやっぱり原因か!

 しかし、この時点で俺に何がわかる⁈


 ———わからん!


 ということでその日は寝ることにした。


 面倒ごとが始まる瞬間というのは、いつも注目されないものだ。

 それを俺は後々嫌というほど理解させられることになる。



 それから一週間。


 俺はずっと右手のオナホールで自家発電していた!!!


 ついに本物がどんな構造なのかを真面目に調べ始めたので、いろんな形を再現できるようになったのだ。

 柔らかいのから固いのまで。

 俺はオナホマスターになった。

 

 しかしやっぱり力というものは独占するものではない———というのをその最後の日に痛感することになる。


 その日———日曜の夜———俺は普通にオナホールを使って自家発電していた。

 清楚系AV女優で抜いた。

 顔は童顔だが身体はsexy!俺は惹かれに惹かれていた!

 ああ!右手が動く!動く!

 うぉぉぉぉおぉぉぉぉぉお!!!


 

 ———高みが見える———!!!


 

 「ねぇちょっと太郎ー!!!」

 ———そのとき突然ドアが蹴り破られた!

 振り向くとそこには母親がいた!俺の母は元々空手やってたからすごい強いのだ!

 「なに⁈なんですか⁈」

 急いで何かもを直す!右手は元に戻り下半身はしっかり隠します。

 「あんたこれ見てよ」

 そう母親にスマホの画面を見せられる。

 

 なにやら履歴のようなものが写っている。

 数字の羅列だ。俺は文系だからそんなに数学ができないはずなんですけど?

 「———まずあんたさ、私のIC勝手に使ったでしょ」

 「ギク!!!」

 「使ったね!!!」

 「つかってない!!!」

 「口にもう出てるんだよバカ!」

 クソ!ついにバレたか!

 母親は定期を裏返しケースに入れてで使う変な癖がある。

 そして俺はそれをうまく突き、深夜に時々自分のものと入れ替えていたのだ!

 俺の方が通学先が遠いので、母は特に心配もなく使っていた!

 さらに歩きスマホの常習犯なので改札に出る残高もそこまで気にしていない!

 俺はそれを使って時々エッチなものを買っていた———色々と都合が良かったからだ———だが、なんでいきなり———⁈

 

 「ガム買おうと思ったら何も入ってなかったんだよ!あんたミスしたね!」


 しまったぁ〜!

 その前日コンビニで友達と豪遊したんだったぁ〜!

 数十円しか残ってなかったから変えたんだったあ〜!!!

 「許してください」

 俺は大急ぎで土下座の姿勢に移る!!!

 「———別にお母さんもね、息子がそういうものに手を出すことには怒ってないし、むしろ健全で嬉しいまであるの」

 「———本当ですか!!!」

 「でも限度はあるだろ!!!!!!」

 「ひっ!」

 「一旦あんたを縛って家族会議に出すから」

 そのまま母が俺ににじり寄ってくる———母は容赦なく男を殴り倒せるくらいには強い!果たして俺に勝てるのか———いや俺がほぼ悪いからな———どうしようかなぁ!!!

 

 仕方ないので窓を開ける!

 「あんた何するつもり⁈」

 「俺は———鳥だ!!!」

 「何言ってんのあんた⁈」

 「逃げてやるからな!!!ガチで!!!」

 そう言い残して俺は窓からとびだした!

 

 ———頭のイメージ。


 ———夜の闇に溶けるほど真っ黒な翼を、俺の肩に!


 ———するとついに祈りは通じたのか、それとも元々そういうことなのか———俺は飛び出して数秒後、宙に浮いていた。

 肩の二つの黒い翼が、バサバサと音を立てている。

 「あんた!どうしたのそれ!」

 「うるせぇ〜!!!俺は逃げる!!!」

 「ちょ、あんた!!!」

 俺はそのままどこかに飛んでいった。


 ———一週間くらい行方不明になったら許されるだろう!!!


 そんなこと思ってたが、なんか思った以上に息切れが激しくなってきた。

 ということで俺は少しずつ高度を下げて、その結果何やら丘の上の広場に着陸する結果になった。

 街にある山の上だ。

 だが無駄に高い上に、日曜の夜にこんなとこに来る人間はいない。

 蛍光灯のオレンジ色の灯りに照らされながら、さぁ一体俺はどれだけ家族にチキンレースを仕掛ければいいのだろうと悩んでいた。

 どうやったらしっかり潜伏できるだろう?

 

 そんなこと考えながら伸びをしようとしたら、なぜだか腕がなにかに当たった。


 木か何かか?と思って見てみる。


 ———いや、なにかこう———変な柔らかさと生温かさがある!———俺は振り返った!!!


 ———真っ赤なクマだった!!!


 いやいや待ってくれよここはいくら何でもそんな田舎じゃないだろう!と思ったがしかしクマはクマだ。

 やれるか……?俺の力でどこまでやれるのか……?

 俺はとりあえずファイティングポーズとして腰を落として半身の体制をとる。

 母から習った。

 あぁもうすでに恋しい。

 さようなら母さん。

 とにかくやれるだけのことはやらねば!

 俺は右手をさすまたに変える。

 理由?まぁ小さくて可愛いやつがそれで勝ってたからかな。

 それでヤーッ!と叫びながら突撃する!

 クマも負けじと突進してくる!


 ———両者がぶつかる!!!


 なにやら食いつく感触。

 さすまたにしても、何やら感触が柔らかすぎる。餅でもつかんだのか⁈

 ———するとなぜだかクマはスルル、と俺のさすまたにどんどん吸収されていく!

 何でかわからないが、まぁ勝てたからよしとしよう!!!


 ———だが勝っただけでは終わらない!


 俺の頭の中に、何やらいろいろなことがなだれ込んでくる———まさか、本当の意味であのクマを吸収したというのか⁈


 瞬間的に理解したのはこんなところである。


 ・何かしらの細胞の集まり。そのためそこに命の価値を見出せるかは、人それぞれ。

 ・身体はほとんどが血液でできている。なぜ筋肉を保てているのかは不明。

 ・そもそもが生物というよりかは細胞のため、長時間生育はできない。

 ・太陽の光を浴びると、瞬時に身体が硬質化する。そのまんま動けないっぽい。


 ———そして何より。


 ・彼らの宿主と言えるべき存在がいる。

 ・人間を丸呑みして、宿主の元———おそらくその体内だろう———に送る。悲しいことに、その宿主だけは何やらぼやっとして、全容が全く掴めない。

 ・知能があるというか、そういう性質がある。プログラミングされた行動をおこなっている———細胞と同じだ。


 ———つまりこの真っ赤な動物たちは———何かしらの細胞なのだ。

 しかしそれがどこから来たのかは、なぜ人を飲み込もうとするのかは、俺には全くわからなかった。


 「何なんだ……俺を何に誘っている……⁈」

 もはや頭の中がそうグチャグチャになっていたその時!!!


 「———そこの人、人間じゃないでしょ」


 ———何やら少女の声が聞こえる。


 よく見てみると、そこに少女がいた———いやまぁ声がする時点で当たり前なのだが———しかしその少女も、人のこと言えない気がした。


 「何だその目⁈何だその目は⁈」

 どこか人とは違う輝きを持っていた———赤みがかっていたような気がする。


 「安心してよ———」

 すると、彼女の影がぐにゃぐにゃ変わっていく!


 耳が丸いクマみたいなシルエット———パンダ。

 なんかよちよち歩く小さい影———ペンギン。

 やたら長い脚———ダチョウ。

 立て髪を携えた重そうな身体———ライオン。

 ———そしてまた、少女の姿に戻る。


 「私もね、おんなじだから」

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