ガブリエルの物語 第1話

八百三十二年十月三日




 十七歳のヴォルテールはレス・ディマスの飛行船博覧会場の中心にいた。

 彼は巨大な飛行船の前でしばらく身動きができなかった。

 ヴォルテールは商人として成功した父のおかげで

 ジャンバルソーで何不自由なく過ごしていた。

 しかし、初めて訪れたレス・ディマスの飛行船は......

 少年ヴォルテールの経験を凌駕するものだった。


 一体全体、このとてつもない差はどこから来るのだろうか。


 ここでは人々が投票をして指導者を選ぶと聞いた。

 指導者をそんな風に選んでいいのだろうか。


 そんな混沌とした状況で大きな国が運営できるのだろうか。

 国中の人が少しずつ作り上げた権力が強くなるのだろうか。


 しかし、レス・ディマスは強国だった。

 少し前に発明された飛行船が飛行に成功すると、

 たった数か月で数多くのバージョンの機体が出現した。


 おそらくジャンバルソーではただの一台も作ることができないだろう。

 いや、作ろうとさえ考えていなかった。


 島国であるレス・ディマスは商業的には優勢だった。


 それだけだろうか? 

 産業革命以降、拡張主義を追求する国の中でも断然先頭に立っていた。


 この異文明に衝撃を受けた少年は長い間、飛行船の前から離れられずにいた。


 その後、ヴォルテールはレス・ディマスで教育を受けることになる。

 彼がまたジャンバルソーに戻り、

 市民たちを啓蒙するようになるのは遠い日の話だった。


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