ザグマルマン七世の物語 第1話
八百三十九年三月十七日
「まさか、ふざけてるんじゃあるまいな」
「滅相もございません」
「本当にこれが全てなのか? 本当の本当に?」
「左様でございます」
「ああ!畜生!」
ザグマルマン七世は持っていた文書の束を床に叩きつけた。
父は時々ザグマルマン七世を連れて道路や港湾の建設現場を訪れていた。 王と王子の来訪なので当然行く先々で盛大な歓待を受けた。
その度に父はひと際威厳を込めた声でこう話した。
「息子よ、見なさい。この全ての者たちがお前の民だ。お前は全力で彼らを抱き しめなくてはならない」
その時は瞳を輝かせて「はい。父上」と答えた。
ところが、父はあれこれとたくさん手を出すだけ出して、
まともな成果は一つも出せていなかった。
そうして、息子の自分には何も言わずに逝ってしまった。
全ての称賛を独り占めしておいて!
「ことがここまで悪くなるまで貴君は一体何をしていたんだ。歳を取る以外に何 をしていたんだ!」
ザグマルマン七世の怒号に宰相であるグルノーブルは
何か返事をしよう思ったが、ただ口をつぐむことを選んだ。
ザグマルマン六世もそれほど性根がいい王ではなかった。
我が強く、虚栄心も強かった。
何より自分の能力を知らない人物だった。
彼と瓜二つの息子が父とは違ったとしても、どれほどの違いがあるのだろうか。 その上、ザグマルマン七世はまだ未成年だ。
普通、王子たちは王位を譲り受ける前に王と政事を共にし政治感覚を養う。
幼い頃から訓練を受けている王子もいたが、
ザグマルマン七世はそうではなかった。
そのため、父が繰り広げていたあらゆる政策の裏側を
今になって初めて知ったのだ。
「まずは財政を充当しなくてはなりません。このままでは三年も持ちません」
「父が貴君には何かを言っただろう。これからのことについて何か言ってたんだ ろ。うん?」
ザグマルマン七世はすがるようにグルノーブルを見つめたが
彼は溜息をつきながら首を振るだけだった。
「何も聞いておりません。それに既にお亡くなりになり訊くこともできません」 「うわあああ!」
ザグマルマン七世は癇癪を起こして地団太を踏んだ。
これでは、王なんてお飾りではないか。
どうしてほこり一粒も残さずに全て売り払うことができたのだ!
急を要することから片付けようとしても、
お金を捻出できる手段は一つもなかった。
「どう設計したら港湾を三度も建設し直さなければならないんだ」 「殿下、過ぎたことを追及している場合ではありません」
「呆れてどうしようもないからだ!」
ザグマルマン七世はずっと怒りが収まらない様子だったが、
グルノーブルをあごで指し話を続けるよう促した。
彼の言う通り既に過ぎたことなので、これからの対策を立てなければいけない。
「まず合理的で目立たないところから増税しなくてはなりません」 「待て。それはもう少し考えてみよう」
王位に就くや否や増税しろだと?
父が生涯一度もしなかったことを?
ザグマルマン七世は首を振った。
そんなことはできない。
最初から自分の前に敷かれた道に糞を撒くわけにはいかない。
グルノーブルは、
どうせこれといった手段もないのに爪をかじりながら悩む王を見つめた。
我も強いし虚栄心も強い、
しかし自分自身の把握は限りなくできなかった父とそっくりの息子。 グルノーブルは溜息をつきながら首を横に振った。
ザグマルマン七世は最後の最後まで悩みに悩んだ。
そして、自身の父のように突然、全く体系的ではない租税項目を追加した。 施行日も急に決まった。
何か起きて収拾しなくてはならない時は、一から十までグルノーブルを探して 意見を聞いていたが、施行する時は迷いなく発表してしまった。
グルノーブルはザグマルマン七世が生まれた時から彼を見守っていた。 ザグマルマン六世の時も宰相だった彼は行く末を充分に予想できた。 しかし、正確に予想しても何の意味もなかった。
血族で受け継がれる王位の継承を彼に止める術はなかった。
グルノーブルはこの租税政策が必ず大きな問題を惹き起こすとわかっていた。
彼にできることは問題が起きた時に
どうにかして状況を早く収拾できるようにあらかじめ準備することだけだった。
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