第290話 分体ギジーの成長 その1



 さて、無事にギジーの強化も終わったことだし、俺はまた俺のやるべき事をやるとしよう。


 そう――新たなゴーレム・ホムンクスルの作成である。


 ギジーの為に四体のゴーレム・ホムンクスルを作ったのだが、それでもまだ脱皮した皮が余っているのだ。


 それに今回は他にも素材が手に入った。


 エリベルがヘルミスを通じて、エンデュミオンから輸入した大量の魔道具やそのジャンクパーツだ。

 魔道具や使えそうなパーツはエリベルが殆ど持っていったので、俺の手元にあるのは余りや本来なら使えないようなパーツばかりだが、これが逆に好奇心をそそられた。


 だってジャンクパーツ使って、オリジナルのプラモデルとか男の子なら誰でも一度はやったことあるだろ?


 この大量のジャンクパーツを俺の『錬金』を使って改良し、それを新たなゴーレム・ホムンクルスに組み込めば、とんでもない奴が生まれそうな気がする。

 俺としては趣味に没頭できるし、これはダンジョンの戦力強化にも繋がる。

 誰も損をしない。素晴らしいじゃないか。


『……ギブルとの決戦が控えてる最中で、そこまで呑気にしていられるのはマジですげぇと思うけど、それが結果的にプラスに働いてるんだよなぁ、相棒は』


 おっともう一人の俺からなにやら愚痴のような思念が。


『いいだろ別に。焦ったって状況は変わらないんだから。出来ることを一つ一つこなしていくことが、問題解決の糸口になるかもしれないじゃんか』


『……もっともらしい事言ってるが、お前ただ趣味に没頭したいだけだろ?』


 おっとばれてる。


『まあ、別に止はしないよ。実際、新しいゴーレム・ホムンクスルを作る事は賛成だし、戦力はあるに越したことはないからな』


 だろ?

 んじゃ、まずはジャンクパーツの改良から始めるとするか。


『お、これってサイコガンっぽい形してるな……。魔力を込めて撃つ武器になりそう。こっちは背中に取り付けて魔力を放出すれば、かっこいい翼っぽくなりそうだな……』


『……相棒の知識って前世のもんだよな? 俺も知識としては共有してるけど、本当にこっちの世界とは全然違うな』


『そりゃ、そもそも魔法やモンスターなんて居ない世界だからな。こっちとは発展してきた経緯がまるで違うし』


『……だよな』


『なんだよ? どうかしたのか?』


『いや、相棒が向こうの世界から転生したってのは分かってるし、レーナロイドみたいに肉体ごと転移した例もある。こんなに全く異なる発展を遂げた世界同士なのに、どうして転移や転生なんてことがおこるのかなと思ってよ』


『そりゃあ……なんでだろうな?』


 考えてみれば確かになんでだろう?

 こっちの世界と、俺が元々いた世界にも何かしらの繋がりがあるってことなんだろうか?

 まあ、考えても答えは出ない。

 ひとまずその辺の疑問は棚上げし、俺は目の前の作業に集中するのだった。

 傑作を作ってやるぜ!



◇◆◇◆◇



 ――一方その頃、アンは蟻型ギジーと共にダンジョンを移動していた。


『――私達の群れの数や指揮系統は以上になります。参考になりましたか?』


『はい。とても参考になりました。アン様、ありがとうございます』


 蟻型のギジーは喋れないので、念話での会話だ。

 実際には「キシッ」と鳴く程度のリアクションはとれるのだが。

 分体を与えられたギジーはそれぞれが別々に行動している。

 蟻型のギジーはアンと共に行動し、インペリアル・アントやキラー・アントの生態を学習している最中だ。


 無論、ギジー本体にはダンジョンからフィードバックされた情報が蓄積されており、それを分体とも共有する事も出来る。だがせっかく肉体を手に入れたのだから、実際にその眼で見て、体験する事も大事だと考え、ギジーはこうしてアンと行動を共にしているのである。


 その効果は如実に現れていた。

 それまでギジーはあくまでダンジョン内のあらゆる事象を蓄積しているが、それはあくまでも記録に過ぎない。

 自身が『体験』するという経験は、これ以上ない程に新鮮な情報、刺激をギジーに与えていた。


『――情報を共有。キラー・アントのネットワークとダンジョンのリンクを強化……成功』


 バチンッと、次の瞬間、アンの頭に強い電流のような刺激が走った。


『ッ……』


 アンは一瞬、表情を歪めるが、痛みはほんの一瞬だけだった。


『……今のは?』


『アン様とその群れ、ダンジョンのリンクを強化しました。アン様はこれより群れの経験、視覚、情報全てを完璧な状態で把握することが出来ます』


『把握……? こ、これは――』


 その瞬間、アンの頭の中に凄まじい量の情報が流れ込んできた。

 キラー・アントたちの見ている景色、感じている思考、それまでの記憶と経験――数万匹に及ぶそれら全てが頭の中に流れ込んできたのだ。


 だが、その莫大な情報に対して、頭や体の負担はまったく感じない。

 全ての子蟻たちの視覚を共有しながらも、一方でいつもと同じように考え、体を動かすことが出来る。


『アン様の脳が受ける演算、情報負担を私の方で肩代わりしました。アン様への負荷は一切ありません』


『……これは凄まじいですね。ですが、ギジー。これではあなたの受ける負担は相当なモノなのでは?』


『問題ありません。本体及びサポート迷宮核で情報処理のネットワークの高速化に成功しました。現状、演算機能に対する負担は5.8%ほど増加しましたが、約30時間後には通常速度へ移行完了します』


『……』


 アンは開いた口が塞がらなかった。

 自分達が今まで行っていた群れの強化。それをより理想的な形で、それもこんな短時間で行うなど、余りにも桁外れの能力だ。

 しかも、これでまだ成長中なのだ。

 もしこれが完成すれば、いったいどれほどの――。


『……まったくうかうかしていられませんね、私も』


 アンは蟻型ギジーの頭に手を添えると優しく撫でる。


『……不思議な感覚です。アン様にこうして触れられているととてもスムーズに演算処理を行うことが出来ます』


『それが『安心感』というものですよ』


『安心感……? 生物の持つ感情の一種ですね。とても勉強になりました』


『きっとこれからもまだまだ覚えますよ。ああ、そうだ。これから次世代の女王種たちと実戦訓練を行うのですが、見学しませんか?』


『是非、お付き合いしたいです。アン様や群れのことをもっと直接この目でみたいです』


『ふふ、では退屈させないよう張り切らないといけませんね』


 アンは微笑むと、ギジーと共に訓練場に向かった。

 その日の訓練は、いつもの数倍厳しく、次世代の女王種たちは悲鳴を上げるのだった。



 他の分体もダンジョン内で活動を開始する。


 植物型は深層の森に根を張り、地中から情報を吸収し、更に森にすむ魔物や動植物の生態を学習する。


 動物型は猫の特性を強く受け継ぎ、ダンジョン内を気ままに散策する。


 人型はトレスやツムギ、他の眷属と会話を重ねることで自我をより強固に。


『――全てはお父様とダンジョン、そしてそこに住む眷属かぞくの為に……』


 ギジーの成長は更に続いていくのだった。


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