第289話 ギジー、分体を手に入れる


 へルミスから依頼されたこと。


 それはギジーのサポート迷宮核を元にしたゴーレムホムンクスルを作る事だ。

 というか、なんで俺がゴーレム・ホムンクルスを作れることも知ってたのかといえば、ウナとドスを一目見た時から気付いていたかららしい。

 本当にとんでもない観察眼である。


 依頼されたのは四体で、それぞれ人型、植物型、虫型、動物型だ。

 曰く人型は『自我と欲望』を、植物型は『環境適応と共存』を、虫型は『繁殖と統率』を、動物型は『野生と本能』を、それぞれギジーに学習させるためのギミックだそうだ。


 なんで迷宮核であるギジーにそんなものをと思ったが、それこそがギジーを今以上に成長させるための因子になるらしい。


『本来必要ない機能。でもそれが逆回転の歯車のように、本来の機能と噛み合わさる事で共鳴し、より大きな歯車を回すことが出来るのにゃ』


 というのが、ヘルミスの言だ。これにはエリベルも興味深そうに唸っていた。

 そんな訳で、久々のゴーレムホムンクルス作成である。


『ふっふっふ、久々に腕が鳴るぜ……』


 というか、ここ最近こういう作業してなかったから、純粋に楽しみだ。

 アジルとの戦いの後、傷を癒して休んでる間に、脱皮を三回もしたため、素材は十分に余っている。

 土は深層で俺が寝床で耕しているふかふかの土を持ってきた。

 水も深層の森に湧いている極上の水だ。

 これを混ぜ混ぜして粘土を作る。そして形を整える。たまにアクセントとして魔石を粉末にして混ぜたり、形を整えてパーツにしたりする。


 ああ、やっぱり良いな。こうやって作業に没頭するのって。

 俺はこういう風に毎日のんびり暮らせればそれで満足なんだよ。


 人型はエリベルの強い要望――というか、命令でトレスと同じ子供型に。虫型はアンやキラー・アントたちを真似て作るつもりだ。動物型は犬……いや、猫かな? なんとなく猫の方がギジーのイメージに合ってる。


『あとは植物型か。モデルは何が良いかな……?』


 考えてみれば植物型のゴーレム・ホムンクルスを作るのって初めてだな。

 環境適応と共存、か。ブナの木とかが良いかな? それとも虫や他の生物とも共存するなら花や実を付けるタイプ?


『いや、待てよ……? そもそも既存のモデルに寄せる必要はないじゃん……』


 そうか。そうだよ。

 それならいろんな植物の特徴を捉えた俺だけの最高の植物を作ればいいじゃんか。

 でっかい樹木に、色んな花が咲いて、上手い果実をたっぷりと成らす、そんな最高の植物。


『よーし! やってやんぜー!』


 こうして俺は三日三晩、久々にゴーレム作りに没頭するのであった。




◇◆◇◆◇



 ――三日後、ヘルミスから迷宮核が届いた。


 向こうの研究室に、エリベルが直接、輸送用の転移門を開設したのだ。

 これで移動の手間もいらないし、なにより物資を安全にダンジョンに運ぶことが出来る。


「にゃはは、それじゃあ起動の瞬間を見せてもらうにゃ」


 最後の取り付けを行う為、ヘルミスも再びダンジョンを訪れている。

 お付のペルシアも一緒だ。


『――疑問。サポート迷宮核を取り付ける事には賛同しますが、肉体を付随させる意味が理解出来ません。不要な機能と推測します』


 ギジーからアナウンスが届く。


「にゃはは、ギジーちゃんからしたらそう思うのも当然にゃ。でもいずれ分かるにゃ。あらゆる出来事は効率と計算だけで成り立ってる訳じゃにゃいってことを」


 ヘルミスは笑いながら、俺が用意した四つのゴーレム・ホムンクルスに迷宮核を取り付けてゆく。

 おぉー、やっぱ手際良いな。

 そういえば、エリベルが参考にしたいからって、エンデュミオンから魔道具のジャンクパーツ大量に取り寄せてたんだよな。あとでちょっと俺も見せてもらおう。


「植物型は……根の部分にゃね。こりゃまたずいぶん立派なのを作ったにゃぁ……」


『ああ、自信作だ』


 髙さとしては三メートル程度の若木だが、細部にかなりこだわった。特に葉っぱに関しては渾身の出来だと思う。

 稼働すればいずれ成長して深層の森なんて比較にならない大樹に成長してくれる筈だ。

 勿論、他の虫型、動物型、人型も手を抜いていない。


「あぁ、早くギジーちゃんの人型が起動するところを見たいわ……ハァ、ハァ」


 エリベルはギジーの人型を見てすでに興奮している。

 ギジーの人型はトレスやツムギと見た目の区別がつくように、ツインテールの髪型にしてみた。

 割とかわいく出来たと思う。


『……アン、いざとなったらすぐにエリベルを捕獲できるよう準備しておいてくれ』


『アース様、既に準備は万端済んでおります』


 念の為、アンに念話を飛ばすと既に準備は終わっていた。うん、頼りになる。


『ところでアース様。あの虫型、キラー・アントですよね? どこか見覚えが……』


『お、気付いたか? 初めて会った時のアンを参考に作ってみたんだ』


『成程、道理で。少し、昔の自分を眺めているようでムズムズします。……やっぱり、あの頃の私ちょっと太ってるよ。恥ずかしい』


 アンはなんかごにょごにょ言ってるけど、どうしたんだろうか?

 そうこうしている内に、それぞれ四体へ迷宮核の取り付けが完了した。


「あとは魔力を注ぎ込めばオッケーにゃ」


『分かった』


 俺はそれぞれのゴーレムに魔力を注ぎ込む。

 同時に、ギジーの本体とリンクが繋がった感覚があった。

 というか、ちょっと待って? なんかすっごい魔力が持っていかれてる感じがする。

 体感で一気に七割近く魔力が減った感じがした。

 こんなに減ったのは初めてだ。


『お父様、大丈夫ですか?』


 ぱちりと、人型のギジーが俺を見ていた。


『みゃぅ?』『キシ?』『……』


 他の三体。猫、蟻、植物型からも同じように視線を感じる。

 植物型は話せないから視線だけだけど。


『えっと、ギジー、だよな?』


『はい、ギジーです。まだ感覚がつかめませんが、これが“肉体”ですか……。なんとも奇妙な感覚です』


 ウナ達と同じアオザイ風の衣装をひらひらさせながら、ギジーはくるりとその場を一回転する。

 ちなみに衣装を用意したのはアンとトレスだ。エリベルも加わりたかったようだが、二人の強い要望により却下されたらしい。うん、正しい判断だと思う。


「かっ……可愛いいいいいいいいいいいいいい! ギジーちゃん可愛い! 可愛い可愛い可愛いわああああああああああああああ! ほら、私がアナタのお母さ――へぶっ!?」


 奇声を上げながら抱きつこうとしたエリベルを、ギジーは障壁を張ってガードした。


「近づかないで下さいお母様。造っていただいた事には感謝していますが、だからといって体に接触することまで許可は致しません。親しき仲にも礼儀ありです」


『……ギジー? なんか、その、口調が違わない?』


「肉体に思考が引っ張られているようです。どうやらこの体では、この口調になってしまうようですね。煩わしいのであれば今すぐこの肉体を解除いたします」


 すると、変態二人がくわっと表情を変える。


「だ、駄目よ! せっかくそんな可愛い姿になったのに解除するなんて許さないわ!」


「そうにゃ! そんな可愛い姿ににゃったんだし、もっと色々データを取りたいにゃ!」


 この二人、欲望がまったく隠しきれていない。

 口元のよだれ拭けよ。

 俺はさりげなくアンに合図を送っておく。

 アンも僅かに頷いた。いつでも捕縛できる。変態二匹。


「冗談です。この体と新たな機能を使い、ダンジョンとお父様の役に立つこと。それが私の存在意義ですから」


 人型のギジーは猫の分身を抱えると、蟻、植物型と共に並ぶ。


「ダンジョンの修復と並行して、この分体とのリンクを強化します。お父様、アン様、そしてダンジョンの皆々様、今後ともよろしくお願いします」


 こうしてギジーは新たな機能――サポート迷宮核と分体を手に入れた。

 これによってダンジョンの修繕と改良は飛躍的に進むことになる。

 当然、その影響は他の眷属達にも。


「というか、ちょっと待って! なんでこの馬鹿とアンちゃんは名指しなのに私はその他で括られてるの!? 私、生みの親なのに!」


「それならアタチだってそうにゃ!サポート迷宮核作ったのアタチにゃ!アタチは第二のお母さんにゃ!」


 ……それはご自身の胸に手を当てて聞いてみるのが一番いいと思います。

 その後、二人は予想通り暴走し、無事に捕縛され、エリベルは別室に連行、ヘルミスはエンデュミオンに強制送還された。

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