第6話 調子に乗ると大抵碌な事が無い

 出来た―!

 湧き上がる達成感。

 掘り進めること数時間。

 ついに俺の体がすっぽり入るほどの、穴が完成した。

 

 ついに手に入れた念願のマイホーム。

 まあ、マイホームというよりかはただの横穴って感じかな。

 完全に野生動物の巣穴って感じだ。

 でも気持ち的には大満足。

 マイホームなんて、たとえ前世ではローン組んでも手に入れられ無かっただろうしなー。薄給だったし。

 五年間働いても給料なんて全然上がらなかったよ!

 残業代は固定されてるし、手当はつかないし!昇給もしねぇ!

 仕事量は増える一方だったけどね。


 うん。思い出すと虚しくなってくるから止めよう。

 今は、そんなことはどうでもいいか。

 ともかく、これで寝るところには困らない。

 あとは少しずつ、この寝床を大きくしていけばいい。

 

 どうせだし、いくつか部屋を作ってもいいな。

 あ、卵とか木の枝とか、いろいろ物を置く部屋も作りたいな。

 ふっふっふ、夢が膨らむぜ。

 

 でも明日からだな。


 とりあえず、腹もいっぱいだし、体も動かして疲れたから、とりあえず今日は寝よう。

 出来たての穴に、体を丸める。

 念のために入口の部分を崩し、外から見えない様にカモフラージュ。

 空気穴を少し開けて、これでオッケー。

 

 さて、お休みなさい。




 さて、朝が来ました。

 どれくらい寝てたのかわからないけど、とりあえず日が昇ってるし、朝なのだろう。

 太陽が中天に差し掛かってる気がするが、まあ朝なのだろう。

 

 とりあえず一言。

 出れない。

 いや、なんか体がぎゅうぎゅうになってるんですけど、寝てる間に。

 寝る前は、体丸めて余裕の広さだったのに、朝起きると穴一杯にぎちぎちに詰まっているんだもん。

 寝苦しさで目が覚めたわ。

 なんだこれ?


 あれか、成長期か。

 多分そうだ。だって俺生まれてまだ数日だしね。

 赤ん坊だし、体もどんどん成長しているのだろう。

 とりあえず、なんとかしてマイホームから脱出。

 

 ふう、すっきり。

 

 見るとあちこちに、びりびりに破けた俺の皮。

 成るほど、寝てる間に成長して脱皮してたのか。

 にしても成長スピードはえーな。


 わずか一日で、マイホームの増築をしなければいけないとは。

 これは予想外だな。

 仕方ない。

 周囲の探索はとりあえず後回しだな。

 まずはマイホームの増築だ。

 お腹も減ってるしね。


 とりあえず、マイホーム増築も兼て朝食。

 いただきます。

 むしゃむしゃ。

 食べているのは、昨日掘っていた粘土質の地層。

 手で掘ってもいいけど、お腹すいてるし、食べよう。

 うーん、マイルドな味わいとねっとりとした舌触りがたまりませんな。

 俺そのうち土ソムリエとかになれるんじゃないだろうか?

 前世でも土ソムリエとかあったっけ?

 ないか。


 周辺を掘り広げる形で食べてゆく。

 食べ広げているうちに、また違った地層にあたった。

 これは……赤い土?

 次に出てきたのは赤い地層だった。

 さらにその地層から、ゴロゴロと赤い宝石のような石も大量に出てきた。

 しかも結構でかいのが一杯出てくる。

 掘っても掘ってもどんどん出てくる。

 ちょっと楽しい。

 キラキラと光る赤い石を眺める。

 綺麗だなー。

 ほぇー、これってあれかな?

 宝石とかの原石なんじゃないかね?

 売れば高いんじゃないか?売らんけど。

 人間にとっちゃ高価なものかもしれないけど、今の俺にとっちゃ無価値だしな。

 

 と言う訳でいただきまーす。

 龍の俺が持っていても意味ないしね。

 土もおいしく頂けるこの体。きっと宝石だって美味しい筈さ。

 というか、むしろ食べたいって欲求が出てきてる。

 まるで俺の体が求めているかのように。


 ひょい、ぱく。

 ぼりぼりぼり。

 ごっくん。


 …………………うーん。

 

 これは、なんというか、この味は…………滅茶苦茶美味い!!

 なんだこれ!?

 信じられないくらい美味いぞこの石!

 見た目からは想像もつかないほどのすごくいい味わい!

 極上のビーフシチューでも食ってるような、芳醇でそれでいて深いコク。

 すげーうめー。

 しかも、いくら食ってもまるで飽きない!

 なんだこれ?マジでうめーんだけど。

 

 俺の手も口も止まらない。

 掘っても掘っても、どんどん出てくる。

 出てきた端から食べまくる。

 

 しかも、なんだろうか?

 この石を食べていると、まるで力が漲ってくるかのような感覚になる。

 そうだ。昨日、あの化け物カラスの卵を食った時の感覚に近い。

 食べると体に力が漲ってくるんだ。

 

 これはつまり、あれだな。

 きっとこの石や土は栄養価がすごく高いんだ!

 そうに違いない。

 それに、喰っても食っても、力がたぎるし、消化吸収もいい。

 これは素晴らしいな。

 俺は夢中になって食べ続けた。

 

 ちなみにその後二回ほど脱皮をした。

 体は最初のころに比べて一回りくらい大きくなっていた。


 しかし、この赤い石を食べ進めていると体がどんどん熱くなってくる。

 うーん。血行増進作用でもあるのかな。

 熔岩とか遠赤外線効果とか、そんな感じのヤツ。

 ふいー、あ、思わずげっぷが出そうになった。

 でもマイホームでするのは嫌だな。

 外に向いてやろう。


 ゲェェェエェェェップッッ!!


 次の瞬間、荒れ狂う炎の塊が俺の口から放出された。


 へぁ……?


 ごうごうと燃え盛る炎は、周囲の岩や土を溶かし、溶けた岩の熱気で周囲の景色がまるで陽炎のように揺らいで見えた。


 へ?なんなんこれ?

 今のって、間違いなく俺の口から出たよな?

 これはいわゆる、『竜の息吹ブレス』ってやつか?

 俺はゲームとかはやらんから分からんが、多分そうだ。

 映画とかで何度も見た。

 すげぇ、これが息吹ブレス


 おおぅ……改めて自分が人間辞めた実感が湧いてきた。

 

 正直に言おう。

 かっこいい!

 なんというか、社会人になって捨て去ってしまった男心をすごいくすぐる。

 あの懐かしい感覚がよみがえってきたようだ。

 よし!もう一回やってみよう。

 さっきの感覚を思い出して、頭の中で反芻する。

 うん、体が熱くなってきた。

 肺が熱を帯びる。血が熱い。体に力が滾る感覚だ。

 よし、イケる!

 せっかくだし、もう少し派手にいきたい。

 今度はもっと大きく息を吸って

 すうううううううううううううううううううううう………

 

 熱い、体中が熱い。

 どくどくとなんかエネルギーみたいなのが血とともに体中を駆け巡ってゆく。

 そして、それは凝縮されて、一点に集中してゆく。

 

 …………………。

 ………。

 

 があああああああああああああああああああああっっっ!!

 

 俺は思いっきりブレスを吐いた。


 しかしてそれは、成功した。

 先ほどの数倍の大きさの炎の塊が発射され周囲の岩をなぎ倒し大爆発を起こした。

 土煙が舞い、周囲を覆い隠す。

 うおーすげー!


 ゴウゴウとおこる熱風と砂嵐。

 すぐに俺のいた場所も、巻き込まれる。

 だが、この程度の豪風、龍である俺には屁でもないらしい。

 石ころが鱗にあたっているが全然痛くないもん。

 

 そして撃った後で、ふと気づく。

 あれ?すんごい爆発だったけど、だれか巻き込まれてないよね、と。


 ………周囲に人いなさそうだし、大丈夫だよね?


 昨日このあたりを見て回ったときは、化け物カラスと飛竜しかいなかったし、多分大丈夫だよね。

 うん。深く考えるのはやめよう。

 大丈夫、きっと大丈夫だ。

 

 それにしても、なんだろうこの感覚。

 すんごいエネルギー使ったはずなのに、まるで疲れてない。

 いや、腹は減ってるんだけど、体に力は漲ってるような……?

 どういうことだこれ?

 ぐっぐっと手を握っては開き、その感覚を確かめる。

 うーん、なんかさっきよりも力が上がってる感じがする。

 もしかして龍ってブレス撃つたびに力が上がるのかな?

 それならもっと撃ちまくれば………と、そう考えたころで俺がその声を聴いた。

 

 「ギュガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


 雄叫び。

 耳を、鼓膜を打ち破るような咆哮。

 同時に湧き起こる寒気。

 なんだこれは?

 ヤバい、何かは知らんがなんかヤバいのが近づいている。

 声のしたのは上。

 つまり上空。

 上を見上げる。

 煙に紛れて見えないが、うっすらと何かの影のようなものが見えた。

 あのシルエット。

 あれは龍だ。間違いない。昨日見たドデカい飛龍。

 それが雄叫びを上げて、上空を旋回している。

 あれはヤバい。

 本能が告げてる。

 あれは危険だ。あれは絶対に勝てないと。 

 次の瞬間、煙に紛れて、一瞬何かが光った。

 

 爆発。


 先ほどの数十倍の熱風と爆音、衝撃波が俺を襲った。

 それが飛龍の放ったブレスだと気付いたのは、ずいぶん後になってからだ。

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