第5話 マイホームって男の夢だよね?

 ……ふぅ。

 堪能しました、卵。

 うん。実にうまかった。

 生前食った卵よりも、濃厚かつまろやかで胃にズシッとくる感じが堪らなかった。

 まさしく絶品。

 加えてあのボリューム。

 ダチョウの卵の何倍もある大きさだ。堪らないね。

 まあ、岩を美味いと思うこの味覚だし、人間だった頃と比べるのは間違ってるかもしれないけれど。

 ともかく、美味しかった。

  

 あの後、あのアホ雛共はさらに三つ卵を落とした。

 もちろんそれは全て美味しく頂きました。


 ふう、ごちそう様と


 やっぱり、岩と違って栄養価がいいのか、体中に活力が漲っているような気がする。

 また、卵落とさねーかなーと、巣を見張っていたら、親鳥が帰ってきたので、即座に退散した。

 だって親鳥超こえーんだもん。

 何アレ?

 そこら辺の岩山くらい楽々超えそうなデカさの黒い鳥。

 カラスを数十倍のデカさにして、目を真っ赤にしたらきっとあんな感じになる。


 おまけにあの親鳥、火を噴いた。

 もう一度言おう。火を噴いた。


 巣に帰ってきたときに、割れた卵を見て怒り狂って、雄叫びを上げた挙句、口から火を噴いて周りを威嚇していた。


 でも親鳥さん、犯人はあなたの息子ですよ?

 喰ったのは俺だけど。

 まあ、親鳥が離れたあたりにもう一回行ってみよう。

 また、バカが兄弟を落としているかもしれないし。

 出来れば醤油をかけて食いたいけど、この世界にあるわけないしな。

 仮にあったとしても、龍の俺じゃ手に入れることもできないだろう。

 自分で作る事も出来ないだろうし。そこまで手間かけるっていうのもアレだしな。


 

 さて、それはそうとして、寝床を探さなければ。

 衣食住は基本。大事。

 とはいっても、全然洞窟も見つからないしなー。

 見渡す限りに荒野と岩山。

 洞窟や洞穴なんて全然ない。

 さすがに地面にそのままはまずいだろう。

 万が一あの鳥とかに見つかったら勝てる気がしない。

 

 

 ………いっその事、自分で作っちゃうか?


 よく考えてみれば、今の俺は岩でも土でも美味しく頂ける上に、喰い続ければそれがそのまま、穴になる。

 エコな上に安上がり。

 ローンの必要もなし。現金一括。

 いや、組まんけどさ。ていうか金ないし。

 うん、そうするか。自分で作っちゃおう。

 

 よし、そうと決まれば即実行だ。

 卵を食ってから、結構時間経ってるし、お腹にも余裕が生まれている。

 ていうか、この体燃費悪いな。

 すぐに腹が減るし。でもまだ赤ん坊だしな。成長期かもしれない。


 まあ、いいか。

 それじゃあ、イタダキマース。

 ぼりぼりぼり。

 手短な壁から食べていく。

 ふむ、このあたりの岩は比較的あっさりとした味わいだな。

 魚で言えば白身魚のような淡泊であっさりとした味わい。

 飽きが来ないし、これはいい。

 食べ始めてから数分。

 自分の頭が隠れる位になった。


 ……足りんな。

 全然足りんよ、こんなんじゃ。


 せめて、体全部がすっぽり入るくらいにはしなくては。

 最低限それくらいにすれば、後は少しずつ、周りを食べながら拡張していけばいい。


 理想は3LDK。

 風呂、キッチン、トイレ付の三部屋だ。

 うーん、男の夢だね。

 人間だったころは1Lの風呂なし、トイレ共通だったしな。

 家賃は安かったけど、その分住み心地は最悪だった。

 せっかく生まれ変わったんだし、妥協はしたくない。

 まあ、龍の体で部屋もったって意味ないかもしれないけど、どうせなら夢はでっかく持たないとな。

 よく考えなくてもキッチンどころか風呂もトイレも必要ないか。

 いや、トイレは必要だな。お尻の付け根に肛門っぽいのがあったし、ちゃんと排泄機能はついているんだろう。

 まだ一回も使ってないけどね。


 というわけで、俺は食い続ける。

 夢のマイホームのために。

 ぼりぼりぼり。


 けふっ。

 結構お腹がいっぱいになってきた。

 ぽこんと膨れた我がお腹。


 ちょっと運動。

 お腹も膨れてきたので、その辺を動き回る。

 だばだばだばだー。エリマキトカゲの真似して走ってみたぜー。二足歩行いえーい。

 

 ………虚しい。

 精神年齢いい年のおっさんが何やってんだよ……。

 身体に引っ張られてるのか、なんか思考が幼くなってるのかな?

 いや、まあ元々一人遊びとか好きだったけどね。

 別に寂しくなんて、ないんだからっ!


 んで周囲をきょろきょろ。

 異常なーし。

 かさかさと動き回ってたら、またお腹がすいてきた。


 マジでこの体すぐに腹減るな。

 燃費がいいんだか、悪いんだか。


 まあ、いいか。

 ていうか、なんか体がかゆいな。

 体を掻くと、皮膚が簡単にめくれた。なにこれ!?

 日焼けした皮みたいだな。

 あ、脱皮か?

 爬虫類だからな。ん?龍って爬虫類か?


 べりべりべり。

 ふぅ、きれいに剥がれた。

 確かトカゲや蟹とかの脱皮って成長するためのものだよな?

 あ、よく見たら少し大きくなってるわ、カラダ。


 やっぱ龍は成長早いね。そりゃ腹も空くわ。

 皮はとりあえずその辺に捨ててと、さて頂きますかな。

 あ、成長した分、余計に掘るスペースが大きくなったな。

 畜生。

 

 ぼりぼりぼり、あっ、味が変わった。

 ちょっとマイルドな味。

 見ると地層が褐色色から黄土色が混じった粘土質の地層に変化していた。

 ふーむ、味わいはまるでクリームシチュー。

 これはこれでイケるね。 

 て、ちょっと待てよ。

 粘土質のこの地層なら、わざわざ食わなくても、手で掘れるんじゃないか。

 さっきの地層は、岩盤が硬くて噛み砕くしかなかったけど、この位なら手で掘った方が早い。

 よし、掘るか。

 ざくざくざく。

 前足で土をかき分け、後ろ足で土を掻き出す。

 気分はモグラだな。

 あ、モグラって漢字だと土竜って書くんだっけ。

 まんま今の俺だな。はっはー。

 食べて食べて食べて、掘る掘る掘る。

 空腹を満たしつつ、土をかき分け掘り進める。

 おお、なんとか体の上半身が隠れるくらいまでは掘り進めたぞ。

 

 できれば日が暮れるまでにマイホームを作りたいね。

 俺は夢中で地面を掘り続けた。

 単純作業って俺の性に合ってるかもしれん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る