第4話 カラスの巣って探そうと思っても中々見つからない

 あっちをうろうろ。

 こっちをうろうろ。

 とりあえず歩いてみたが、なーんにもないなこの世界。

 

 見渡す限り岩、岩、岩。時々砂漠。

 見渡す限りの褐色色。

 緑なんてありはしない。

 

 鳥や龍は飛んでるけど、地上には全然生物なんて見えない。

 飛んでるあいつらが襲ってくるんじゃないかとも思ったが、その心配はなかった。

 旋回はしているが、襲ってくる気配はない。


 理由はおそらく俺の体色だ。

 地面の色そっくりの褐色の肌。

 多分保護色みたいになって、上から見れば地面と一つになって見えているのだろう。

 自然で生き抜く知恵だね。

 名も知らぬ母(龍)に感謝。

 とりあえず、襲われる心配はないと判断した俺はのんびりと散策をしていた。


 当面の目的は寝床になりそうな洞穴ないし洞窟の確保。

 さすがに龍になったといっても、寝床くらいはほしい。

 そこら辺の岩をつまみつつ、周囲を散策。

 ぼりぼりぼり。旨い。

 うーん。

 なんもねぇなぁ。


 キンキンと照らす二つの太陽光が肌に突き刺さる。

 でも不思議と熱さは感じない。

 まあ龍だしな。

 皮とかきっと分厚いんだろう。

 龍って便利。


 


 それから数時間。

 歩き続けた俺はあるものを発見した。


 あれは……?


 前世でもたまに電柱や木の上に見たことがある。

 木の枝を寄せ集めて作った丼のような形。

 

 ……鳥の巣、か?


 ひときわ大きな岩の頂点にあった鳥の巣は、まるで周囲全てを見渡しているように見えた。

 何よりもそのサイズがデカい。

 遠近法が狂ってるんじゃないかと思えるほどだ。

 多分目算でも十メートルくらいはあるんじゃないだろうか。 

 うーん、でけぇなぁ……。


 周囲をきょろきょろ。

 ……うん、親鳥はいないな。

 あんなデカい鳥の巣だ。

 親鳥もデカいに決まってる。

 ていうか、多分ここに来る途中にデッカイ白い龍と争ってた馬鹿でかい黒い鳥。

 多分、アレの巣なんじゃないかなぁ……。


 近づいてみるか。

 俺は好奇心から、その巣に近づいてみることにした。



 しゃかしゃかと岩を登る。

 とがった爪と、吸い付くような掌のおかげで難なく登れる。

 そういえば、テレビで見たけどヤモリとかって掌にある繊毛のおかげで吸い付くようにガラスケースとかを登ってたんだっけ?

 詳しいことはわからんけど。

 あれと同じだろうか?

 まあ、いいか。

 登れるんだし。

 難しいことは考えない。

 

 頂上到着。

 周囲をうかがいつつ、お邪魔します。


 「ぴぃぃぃぃぃッ!ぴぃぃぃッ!」

 「ぴちゅううううううう!ぴぃぃぃちゅううううう!」

 「ぴー!ぴー!」


 うるせぇっ!

 耳をつんざくような、鳥の鳴き声。

 うん。まあ登ってる途中からしてたけど、声でけーな。

 くっそ五月蠅い。

 

 目の前にいるのは俺と同じくらいの大きさのでっかい黒い鳥。外見はまるでカラスだな。

 羽もまだ小さいし、多分雛だろう。

 体長が一メートル近くある雛何んて聞いたことないけど。


 それが、三匹。

 それにまだ生まれていない卵が……ひい、ふう……六つか。

 合計九匹。

 まあ、生まれてない卵はカウントする必要ないか。

 向こうはこちらに気づいた様子もなく、何やら騒ぎながら、卵を転がしている。

 何やってんだあいつら……?


 気になってつい見てしまう。

 一匹の雛がゆっくりゆっくり卵を転がし、ついにそれを巣のふちまで持ってきた。


 ……おいおいまさか。


 雛鳥はその短い前足を振りかぶり―――


 「ぴいいいいいぃぃぃ!ぴぃっ!」


 そのまさかだった。

 蹴った!卵を蹴落とした!

 まだ生まれてもいない、自分の兄弟を!


 重力に従い、卵はまっさかさまに落ちてゆく。

 バキャッ!

 地面に激突し割れた卵の中から、ドロリと白身と黄身があふれだす。


 「ぴっぴっぴ!」

 「ぴいぃぃ!ぴぃぃぃ!」

 「ぴちゅんっ!ぴっちゅ!」

 

 それを雛たちは嬉しそうに眺めていた。

 

 あいつら……なんてことをしやがるっ!


 俺は湧き上がる激情を抑えつつ、奴らに気づかれることなくゆっくりと岩を降りた。

 出来うる限りの最高速度で。

 しかし誰にも気づかれることなく。

 そして、地上に降り、われた卵に近づく。

 生まれるはずだったであろう新たな命。

 しかし、もう永遠に叶うことのない無残に割れたそれを眺め、


 ひゃっほぉぉぉぉぉい!タンパク質ゲットォォォォォォッッ!!


 俺昔から生卵大好きだったんだよね。

 ご飯にかけてしょうゆを一匙、それを吞みこむように貪り食う。

 これすなわちジャスティス。

 まあ、米はないけどまあいい。

 俺は無我夢中で卵を舐めた。


 ぺろぺろぺろ。

 めっちゃうめぇ!

 

 え?かわいそう?

 そんなこと思うわけないじゃんか。

 だって俺、龍だし。

 

 その後も、いくつも卵が落ちてきたけど全て美味しく頂きました。

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