第2話 地龍だってお腹が減る
さて、状況を整理しようか。
ありのまま、今起こったことを話すぜ。
俺はその日、家で寝ていたと思ったら、いつの間にか龍になっていて、卵から孵ったばっかりなんだぜ。
うん。
自分で言ってて、本当に訳が分からない。
着ぐるみを着ている訳でも無い。
もちろん背中にチャックなんてついてない。
人間離れした手足は、すべて俺の意志の通りに動く。
つまりこれは間違いなく俺の体だ。
俺の体が龍の体で、龍の体が俺なんだ。
何言ってんのか、わからない……。
とりあえず、どうしよう?
周囲を見渡す。
あるのは岩と枯れかけた木とどこまでも続くような砂漠。
アメリカのグランドキャニオンのような光景だ。
まさに絶景。
自然文化遺産に登録されてもおかしくない雄大な光景だ。
んー、景色は悪くないな。
場違いな感想を抱く。
いや、だって社会人やってた頃は忙しくて旅行なんていけなかったし。
ぐぅぅぅぅぅ~。
腹が鳴った。
お腹減ったな。
とりあえず、何か食べよう。
腹が減ってはなんとやらだ。
でも、この体って何を食べればいいんだろう?
あ、そういえばこれ食えるのかな?
俺は自分の足元にある卵の殻を見る。
なんかの動物は生まれたばかりの自分の卵の殻を栄養にするんだったけ?
あれ?虫だったっけか?
まあ、いっか。とりあえず食ってみよう。
不味かったら、吐き出せばいいし。
見渡す限り岩ばかりで、果物が生ってそうな木も、魚が泳いでそうな川も見当たらない。
と言う訳で、頂きます。
ぱりぱりぱり。
あら、意外。スナックみたいで案外美味しいじゃないの。
俺は夢中になって卵の殻を食べた。
そして、あっという間に無くなった。
量が足りない。
中途半端に食べたせいで、余計に腹が減ってきた。
………移動するか。
いつまでも此処に居るわけにはいかないし。
ここがどこかわ分からないが、周囲を探索すれば何か情報が得られるかもしれない。
とりあえず周囲を警戒しつつ、移動。
初めての四足歩行。
カサカサカサカサカサ。
シャカシャカと足を動かし、岩場を移動する。
音だけ聞くとGみたいだな。
う~ん、四足歩行ってやったことなかったけど、自然に出来たな。
なんだろうか?本能のようなものか。
人は生まれながらに歩こうとするし、魚は泳ごうとする。
となればこれも、一種の本能なのだろう。
とりあえず何か食べ物を見つけないと。
なにかなにか、ないかな~。
辺りをきょろきょろ見渡していた俺は不意にある物体に目を留める。
黒い岩があった。
鉱物でも混じっているのだろうか、黒いまだら模様の変わった岩。
ごくり……。
あれ?
俺は今なんで、唾をのんだ?
いや、というか、もしかして今俺……あの岩が、美味しそうだって思ったのか?
自分でも信じられないと思いつつ、岩に近づく。
ペタペタとその岩の表面を触る。
うん、どう見てもただの岩だ。
なのにどうしてこんなにも、食欲をそそるのだろうか?
おためしに一舐め。
ぺろり。
ガリッ!
ゴリゴリゴリ!
ごくんっ!
………美味しい。
俺は無我夢中で岩を食べた。
岩が美味しいなんて、それもこの体の所為なのだろうか?
龍って石を食うのか!
初めて知ったわ!
気づいた時には、周囲にあった黒い岩はすべてなくなっていた。
全部俺が食べたからだ。
美味かった。予想以上にうまかった。
前世でもこんなに夢中で食ったことはなかった。
というか食事なんて栄養補給程度の意味合いしか無かった。
コンビニ弁当にサプリメントで栄養を補給してたしな。
美味いって感覚自体久々に味わったわ。
あー、満足。
腹も膨れたし、とりあえず寝よ。
寝てそれからまた考えるとしよう。
そんじゃ、おやすみー。
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