第7話:はじめての戦闘

 広く続く地下のジャングル。

 あっちこっちで蔓がぶら下がり、木にはよくわからない木のみが生え揃う。

 そして光源は一切ないというのに視界は良好。


 少し蒸し蒸ししているが、自然に囲まれていてそう悪い場所でないと感じてしまう。

 猫だからだろうか。


 ……多分、関係ないな。



「しかしなぁ……まさか生き残り戦とは」



 エレナは同じ買い主同士の奴隷が戦うことはない、みたいなことを言っていた。

 だがこうなるとそれが発生してしまう。


 まぁ……そもそも、エレナの情報がどこのものかわからない以上、信憑性も微妙なんだが。

 いつも百発百中の情報を持ってくるから、信じないわけがないという。


 とは言え、思い当たる節はある。

 それは多分、この戦いで勝ち残った者たちで戦う、ということだ。


 いくつかに分けて、適当にトーナメントでも組んで戦わせる。

 そしてそのトーナメントでチャンピオンになった数人が勝者、自由杯への参加切符を手にする。

 と言うのが俺の予想だが。


 所詮は予想だ、当たるとは限らない。


 なんなら会場がエリアごとに区分けされていて、それで当たらないようになってる、とかの可能性もあるわけだしな。

 ……そうなると、俺はぼっちになって……まずいな。



「とっとと急いで、武器の獲得と現状の把握するしかないか……」



 一先ずこの地下がどうなっているのか、それを把握するために走り出す。


 長い労働生活で体はある程度なら鍛えられている。

 しかもそこに獣人の能力、猫であるためちょっとパワー不足ではあるが、俊敏で言えばそんじょそこらの大人よりも速い。


 だから行動と言う点では俺には利がある。




 ──……そのはずだったんだが。


 ふと、俺の猫耳が何かの音を捉える。

 激しい衝突音……それに加えて、金属音だろうか。


 と、言うことは。



「誰か戦っている?」



 足を止めて周囲をキョロキョロ。

 本能的なもので気配はある程度感じ取れる、だがどこにいるかまではイマイチ。


 ここは静かに離れるべきだろうか、そんなことを考えていた時だった。


 一瞬、音が消えた。



「……嫌な予感がッ……!」



 する、と言い切る前に、それは起こった。


 轟音が辺りに響き渡り、衝撃波と共に大地の裂けたことによる土が俺に覆い被さる。

 俺はその強大な衝撃波による、少し遠くに吹き飛ばされる。



「うわあぁあああッ!!?」



 思わず声を出しながら吹き飛ばされるも、近くに生えていた木に全身をぶつけたことでなんとか止まる。

 そのままずるずると落ちて倒れるも、急いで起き上がり何が起きたか確認しに行く。



「これ、は……」



 吹き飛ばされた地点に行くと、そこには床に刻まれた大きな一線。

 そしてその先端で倒れ、青白い光と共に消滅する男。


 あれが転移、と言う奴だろうか。


 で、その消滅する男の反対方向には、剣を手にした別の男が立っていた。


 ……何が起きたのか、完全に把握できていない。


 戦いの跡にはしては大きすぎる気がするが、そもそもこの世界の平均というものを知らない。

 エレナとの訓練でしか戦いを知らないからな。


 周りの奴隷たちも軽く振っているような奴らばっかだったし。


 だからこれはどう考えるべきか──



「そこにいる獣人の娘、出てこい」



 ここから考えようとしたのも束の間、剣を持つ男が剣でこちらを指してそう言い放った。

 獣人の娘……俺、だよな。俺しかいないよな、うん。



「っ……」



 仕方なく木の陰から表に出て、剣を持つ男の前に立った。



「覗き見か? 悪い趣味だな」

「これ、おじさんがやったの?」

「……ん? ああ、この跡か。確かに俺がやったが?」



 どうやったらこうなるんだよ。

 一撃……ってわけじゃないよな、そうであってくれ。


 と言うか、俺が剣を持ったところで、まともに対応できるのか少し怪しくなってきたぞ。



「まぁ、そんなことはどうでもいいだろう。兎にも角にも、 ここで出会った以上は殺し合いだ、獣人の娘」



 そう言うと男は、剣を両手に天に向けて掲げた。

 ただ真っ直ぐ、振り下ろせる構え方だ。


 俺はその構えを見て、本能的に危機感を感じ取る。

 今すぐこの場を離れて逃げないとまずいことになる、と。


 だが……どこに逃げると言うのか。


 俺があたふたしている合間に、やつは力強く剣を握って小さく言葉を呟いた。



天剛てんごう流『斬打ざんだ』」



 猫耳が微かに捉えたその言葉。

 その言葉に俺は酷い悪寒を感じて、急いで横方向へと駆け出す。


 それとほぼ同時に撃ち放たれる、真っ直ぐ一直線の振り下ろし。


 その一撃はその直線上にあるもの、その全てを飲み込み破壊した。



「間違い、ないッ……!! さっきのやつ、これだぁッ!!」



 俺はギリギリ、当たる寸前のところでなんとか近くの木の陰に着地。

 靴裏が少し掠ったのか、一部分が削れて無くなっていった。


 いや……おかしくね? 


 剣術ってなんだよ、ビーム撃つのが剣術かよ。


 飛距離はそこまでないし、幅もそこまで大きいわけじゃない。

 ただ不可視の真空波のようなものが一直線に飛んで行く。


 ……うん、無茶苦茶だな。



「避けたか。やはりこの技では上手くいかんな」

「上手くいかないって……」

「構えから見破られやすく、放つまでに時間がある。通用しても素人の奴隷程度だ。所詮は初級の技、と言ったところか」



 マジかよ。

 初級ってことは、天剛流ってやつを齧ってれば誰でも使える、ってことだろ。


 一奴隷がこれだとしたら……剣闘士の戦闘は一体どうなってるんだ? 

 しっかり見たことがないからわからないが、こんなド派手な技をバンバン撃ち合っているのだろうか。

 だとすれば人気なのも納得しかない。



「それで終わり……ってことにしてほしいなー……なんちゃって」

「まさか。天剛流はこれからだぞ」



 男はそう言い放つと剣を再度、天に向けて掲げた。

 次はどんな攻撃だ……どんな攻撃にしろ、当たれば終了、負け。

 ならば今は、とにかく、何が何でも! 避ける!! 



「行くぞ」

「くっ……こ、来いッ!」



 奴が剣を振り下ろす。

 それと同時に俺も奴の隙を見出すべく、走り出すのだった。

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