第3話:突然のお知らせ
今日も今日とて朝から荷物運び。
大小様々な荷物、重かったり軽かったりするが、中身の事は一切知らない。
エレナに、なんなんだろう、と聞いてみたこともあったが、どうやらエレナは知っているようで言葉を濁していた。
まぁ、つまり……知らない方がいい、と言うことなんだろう。
「休憩だ! 早急に休憩場へ迎え!!」
突然、監視の声が廊下中に響き渡る。
それを聞いて周りの奴隷たちは荷物を端に置き、休憩場へと足早に向かって行く。
俺もエレナの隣に並んで休憩場へと向かった。
「はぁ、疲れたぁ……」
「あんま大声で言わないで。目をつけられるわよ」
「知ってるよ。流石に私だって、そのぐらい」
近くで突っ立っている監視に聞こえていたのか、ジロジロとこっちをみてきた。
睨みつけるような視線に、俺の足が少し速くなる。
身長差から少し怖くなってエレナのすぐ近くに寄る。
元男として見るとめちゃくちゃ格好悪いが、ここ数年で男の視線が些か苦手になってしまっている。
特にああいう睨みつけるような、突き刺すような視線は。
道を曲がったところで監視の視線から外れ、俺も少し安心して目の前に見えた部屋に入る。
部屋の中には乱雑に置かれた二段ベッドが大量に。
ほとんど鉄枠のみで、その上に硬めのマットが置かれているだけのため、寝る時は結構痛い。
奴隷たちはそんな硬いベッドの上に、それぞれ腰掛けたりしている。
それ以外にも、一部の奴隷は部屋の隅っこに溜まっている水で、体を流したりしていた。
かなり冷たくはあるが一応、体の汚れは取ることができる。
「変だよね」
「何が?」
「体は洗えるのに、格好はこんなボロ布でさ」
俺たちは自分たちのベッドに行き、腰掛ける。
エレナは隣のベッドに座り、向き合うような形に。
「奴隷法第12号。『奴隷に上等な服を着せてはならない。奴隷は着てはならない。ただし催しなどに限っては例外とする』……って言うのがあるのよ。それのせいね」
「なにそれ。なんでそんな法律が?」
「古の悪法……昔、偉い人たちが作ったらしいけど、よく知らないわ」
「破ったらどうなるの?」
「……さぁ? 知らないわ」
「ふーん……エレナはなんでそんなこと知ってるの?」
「そりゃあ、生まれた時から奴隷だったわけじゃないし」
どの世界にもよくわからない法律というのはあるものだ。
しかしそんな法律があるとは。
目覚めた時から奴隷だったわけだから、知ることもないのは当然の話なんだが。
「奴隷だって財産なんだからさ、もう少し優しく──」
するべき、と言う前に。
突然入ってきた監視が声を張り上げる。
「今から読み上げる奴隷は全員外に出よ!! DR-331、DR-545──……」
奴隷たちは驚きつつも、視線を移したり会話に戻ったり。
俺もエレナとともに少し驚きつつ、監視の方に視線を向けながら会話を続けた。
「急にどうしたんだろ」
「さぁ?」
訝しげに見ていると、監視が声を張り上げる。
「RE-2241、RE-2245!! 以上だ!」
「あ、呼ばれた」
「はぁ……行くわよ」
エレナは嫌そうな顔とともに、深いため息をついて立ち上がる。
俺もめんどくさくはあったがエレナとともに立ち上がった。
ちなみに俺が2241で、エレナが2245だ。
どう言う基準でつけられた番号かは知らない。
なにかしらのルールはあるんだろうけど。
休憩所の外に出てみると結構な数の奴隷がいた。
ぱっと見だけでも百人以上はいそうだ。
男も女もいるが全員若いし、体つきはしっかりしている。
荷物運びの賜物だな、うん。
「よし、全員出てきたな」
監視の一人が奴隷たちの前に立つ。
カンペを懐から取り出すと、一瞬困惑したような表情を見せて、口を開く。
俺たちも後ろの方でその言葉に耳を傾けた。
「あー……貴様らに朗報だ。一週間後、コロシアムにて『奴隷杯』が行われる。参加条件は奴隷であること。ただそれだけだ」
え……? 今なんて……?
『奴隷杯』……奴隷だけが参加できる。
つまりそれは……奴隷が『剣闘士』として戦える、ってことか?
エレナの方に視線を移してみると、驚愕の表情で監視の方を見ていた。
監視は騒めき出す奴隷たちを気にも留めず、言葉を続ける。
「そして貴様らは、その『奴隷杯』への参加を認められた者たちだ。オーナーと貴様らの所有者によってな」
しかも買い主公認の……!
冗談……って感じじゃないな、これは……!
「あ、あのぅ」
奴隷の一人が恐る恐る手を挙げる。
周囲の奴隷たちの視線がそっちに集まる。
監視は些かめんどくさそうにしつつも、手を挙げたところを見て聞いた。
「なんだ」
「か、勝ったら、なんかあったりするんですかねぇ……と思いまして」
オドオドしつつもそう言った。
確かに勝ったら何があるのかは気になる。
ああ、と監視が呟くと、一瞬黙ってカンペを見つめる。
そして少ししてから口を開いた。
「勝ったら、貴様らにはコロシアムへの参加権が与えられるようになる。一般での参加としてな。『自由杯』のみだが、まぁ……その後の結果次第では、と言ったところだ」
その言葉を聞いて、奴隷たちは一斉に騒めき出す。
当然だろう、これで勝てれば未来への道が拓けると言うのだから。
杯とかよくわからないけど、参加できるようになるだけでも、人目に晒されるチャンスがあるということ。
そこで戦えることを証明し、実際に勝ち進めれば……!
「エレナ……!」
「え、えぇ……まさか、こんなことになるなんて……」
かなり驚いていて、未だ飲み込めていない様子。
俺もまだこれが現実だと飲み込めていない。
そのぐらいありえないことなのだ、本来は。
「参加する者は前に出て、奴隷番号を申し出た上で血判を押せ。参加中は業務活動は免除。開始一週間前……つまり今日からだが、修練場が開放される。参加者のみは、そこの使用が許可されるからな」
決まっている。
当然、参加一択だ。
俺が求めていたもの、まさかこんなに早く来るなんて……!
周りが悩んだりしつつ前に出る中、俺もエレナを呼びかけて前に出ようとする、
「行こう、エレナ!」
「…………」
だがエレナは黙りこくって、前の方を見つめていた。
何か考え事しているようだが。
「……エレナ?」
「え……あっ。そ、そうね。行くわよ!」
我に帰ったエレナは返事をして、列に向かって歩き出す。
一体何を考えていたのだろうか。
……別に今、気にするようなことでもないか。
どうせ、考えたところでわかるわけでもないしな。
それよりも。
「番号を言え」
「RE-2241です!」
「RE-2245です」
そうして俺たちは書かれた番号の上から、指先をナイフで切って血判を押す。
こうして参加を認められた俺たちは、早速エレナとともに一週間後に向けて練習すべく、修練場への向かっていったのだった。
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