第120話 レース説明
「ふわぁ…緊張したぁ…。まさか女王陛下に本当に会うなんて…」
「プヒヒヒン」 (やっぱり女王様なんだ)
そうかなと思ってたけど、やっぱり女王陛下だったみたい。あんまり詳しくないけど、日本で言うと天皇陛下に会ったみたいな感じになるのかな? そりゃ緊張するよね。
女王陛下は俺の事を三十分ぐらい撫で撫でしたりして帰って行った。お偉いさんだから、きっと予定もぎっちり詰まってるんだろう。
滅茶苦茶俺に乗りたそうにしてたけど。
牧瀬さんは緊張でヘナヘナになって俺に抱きついている。俺も多少緊張はしたけど、所詮馬だし。立ってるだけで良かったから、牧瀬さん程じゃない。
「プヒヒヒヒン?」 (もう走りに行ってええか?)
「だめ。もう少しこうさせて」
そろそろ走りに行きたいよーとアピールしても、牧瀬さんは俺からは離れない。
落ち着くまでは仕方ないか。
「プヒヒヒン」 (ふむ。おにぎり)
「ここは下りになってる。スピードが出過ぎないように注意が必要だ。ポジション争いはいつもより激化しないと思うけどね。まあ、エンマはいつも通り最後尾待機の予定だからあんまり関係ないか」
「プヒヒヒン」 (なるほどなるほど)
俺がイギリスに到着して、女王様と会うっていうちょっとしたイベントから少しして。
滝さんもイギリスにやって来た。
で、今は滝さんにコースの説明をされてる。
滝さんはいつからか、俺がこっちの言葉を完全に理解してると分かってから、こうやって次のレースの説明をするようになった。
側から見たら馬鹿やってるなとしか思われないだろう。俺は滅茶苦茶助かってるけどね。
滝さんが持ってる木の枝で地面に書かれた俺が走る予定のレース場。三角形でおにぎりみたいな形をしてて、なんか特殊っぽい。
今はスタート直後の直線が下りになってて、ここでスピードを出し過ぎるなよと説明を受けたところだ。
まあ、その辺は滝さんが上手く操縦して下さいって感じ。俺は自分でどれくらいスピードを出して良いかわからないし。
「で、だ。ここのコーナーを曲がると一転して坂道が続く。残り200mぐらいまでひたすら上り坂だぞ。高低差は約20m。スピードはもちろん、スタミナとパワーも必要になってくる」
「プヒヒヒヒン?」 (はあ? このコースを作った人性格悪過ぎない?)
おにぎりのてっぺん部分のコーナーを曲がってからひたすら坂道らしい。
あほかよ。そんなに競走馬を虐めて何が楽しいんだ。このコースを作った人は絶対にドSだ。間違いないね。
「これで雨なんて降ったら、かなりタフなレースになるのは間違いない」
「プヒヒヒヒン」 (フラグみたいな事は言わんでもろて)
ペルナ程じゃないけど、俺も雨のレースは好きじゃないんだ。馬群に囲まれたりしたら、泥だらけになるし。俺のピカピカの漆黒のボディを泥で汚されるなんて我慢ならん。
「ライバルはクルセイダーと、アンジュになりそうだな。アンジュは去年このレースを圧勝しているし、向こうはこれが引退レースだ。かなり気合いを入れてくるだろう」
「プヒヒヒヒン」 (アンジュ引退するんだ)
「凱旋門で引退かなと思ったが、ここで引退に決めたらしい。まあ、あれだけ実績を残した牝馬が6歳になっても走ってるのが異常なんだが」
「プヒン」 (ふーん)
6歳で引退なんだ。結構早いんだね。
滝さんの言い方的にはもっと早く引退すると思ってたみたいなニュアンスだけど。
6歳で走ってるのはおかしいのかな?
エンマ君は5歳ですけど…。
もしかして俺は今年で引退?
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