第119話 イギリスへ


 「プヒン」 (ふむ)


 俺は軽くタッタカと走ってみる。

 若干重いか? フランスよりはマシな気がするけど、結構力がいるっぽいな。


 まあ、ここがレース場と同じ感じの馬場かは分からないけど。どうせ似たようなもんでしょ。知らんけど。




 はい。って事でエンマ君はイギリスにやって来ました。日本で何回かマーシャルキャットと一緒に調教して、長い時間飛行機ビューンとひとっ飛び。


 もう飛行機に乗るのも三回目だし慣れたものである。


 で、肝心の俺が気にしてたご飯だけど、普通に美味しかった。ってか、日本と変わった印象がなかった。もしかしたら日本から同じものを持って来てくれたりしたのかもしれん。


 食べもんの輸送って色々面倒らしいけど。お金も掛かるって聞くし。まあ、その辺は金持ちの飼い主兄さんがいるからなんとでもなるか。


 それからお世話になってる厩舎。

 フランス語と違って、英語は多少分かるからそこまでストレスになってない。牧瀬さんがずっとこっちに居てくれるしね。


 それにここの厩舎の人達は、なんか良い人が多そうな感じがする。滅茶苦茶丁寧にお世話してくれるし。あくまでも勘だけど。


 ただ牧瀬さんを口説こうとしてる奴らは見逃せない。はっきり聞き取れないけど、口説こうとしてるのは分かる。自称恋愛経験豊富の俺が言うんだから間違いない。


 そいつとは仲良くしないようにしてるし、牧瀬さんを口説こうとしたら邪魔するようにしてる。


 牧瀬さんが満更でもない雰囲気なら俺も断腸の思いで我慢するけど、ちょっと迷惑そうにしてるし、牧瀬さんは確か日本に彼氏が居たはずである。


 ここは俺がボディガードしてやらんといけん。


 そんな感じで概ね問題なく過ごせてるイギリス。


 「プヒン?」 (ん?)


 だが、今日はちょっと雰囲気が違った。


 いつも通り広い牧場を走り回って馬場に慣れつつ自分を鍛えてると、柵の向こうに黒服の集団が。


 明らかにSPでございって感じの人達がいて、そのSPに守られてる女性。


 「プヒヒヒン?」 (どこかのお偉いさんかな?)


 興味があったからテクテクとそっち方面に歩いていくと、女性は滅茶苦茶嬉しそうに、キラキラした表情で俺を見てくる。


 なんかこの人見た事があるような…。


 「プヒヒヒヒヒン」 (まあいいか。多分お偉いさんだろうし、媚び売っとこ)


 ガチガチに緊張した表情をしている牧瀬さんが俺に紐を付けて、その女性にゆっくりと近付いていく。


 その女性、もう結構お年を召してらっしゃるけど、まだまだ元気なのか、俺が近付くとアグレッシブルに、それでいて馬をびっくりさせない妙技を見せて近付いて撫でてきた。


 「プヒン」 (ほう)


 中々良い撫で方だ。決して不快にならず、それでいて安心出来る感じ。周りのSPさんはちょっとヒヤヒヤしてるっぽいけど、この女性はお構いなしだ。


 「プヒン」 (あ、思い出した)


 この人、女王様じゃない?

 競馬好きで日本にも来た事があるとかニュースで見た気がする。確か自分でも馬を所有するぐらいには好きなんじゃなかったっけかな。


 はえー。この国で一番偉い人か。

 人間だった頃は絶対に会う事がなかった人なのに、馬に転生して会う事になるとは。


 なんかありがたい気持ちになってくるよね。


 でもレースでは手を抜かないぞ? 俺が走るレースに女王様が所有する馬が出てくるかは知らないけど、俺は生涯負けなしを貫くつもりなんだから。


 それよりこの撫で撫でタイムはいつまで続くのかな? 牧瀬さんがガチガチになり過ぎて可哀想になってきたよ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る