第116話 ペルナの帰還


 「ブルルルルッ!」


 「プヒヒヒヒン」 (これまた荒れてるな…)


 実家に帰って来たペルナがかなり荒れている。


 どうやらこの前大阪杯? とかいうレースに出たらしいけど…。


 「プヒヒヒヒン?」 (2着だったんだろ? 頑張ったじゃないか)


 「ブルルルルッ」


 俺の飼い主兄さんに聞いた話では1着とは1馬身差が離れてたらしいけど、2着に食い込んだらしい。


 しかも雨が降ってたのに。

 これは良く頑張った方でしょうよ。


 大阪杯が始まる直前にゲリラ豪雨が来て、レースが終わったらピタって止んだらしい。


 こいつは間違いなく雨男だな。


 「ブルルルルッ」


 「プヒヒヒヒン?」 (雨じゃなきゃ勝ってた? それは言い訳だよ)


 雰囲気で言いたい事は理解出来る。本当なら自分が勝ってたって言いたいんだろう。


 でもそれは言い訳だ。レースは序盤からやる気無さそうに走ってたみたいじゃないか。


 で、最終の直線だけ頑張って2着になったのは凄いけど、それなら最初から頑張ってたら1着になれてたかもしれないだろう。


 そんな『俺は本気を出してないから負けたんだ』みたいなスタンスはただただダサいだけだぞ? 敗者の見苦しい言い訳にしか過ぎない。


 ペルナがレースで走る日は高確率で雨になるんだから、もう諦めて雨と上手く向き合う事を覚えないとな。


 「プヒヒヒヒン」 (ってか、最終直線で本気で走れるなら最初からやれば良いのに)


 「ブルルルル…」


 大方、乗ってる真冬ちゃんに走りながら必死に説得でもされたんだろ。ペルナはなんだかんだ真冬ちゃん大好きだからな。


 なんでそれを最初からやらないのか。


 「プヒヒヒヒン」 (まあ、やる気が出ない日があるのは分かるけど)


 俺だって走りたくないレースはこれまでにあった。アイアイサーがいないレースとか、今度のイギリスのレースとか。


 でもねぇ。

 競走馬に生まれちゃった以上、走らないと仕方ないのよ。頑張らないと待ってるのは悲惨な末路だぞ?


 ついこの間までわざと負けてやろうかって思ってた俺が言えた事じゃないけどね。


 「あーペルナ帰って来てるー!!」


 俺がやんややんやとお説教してると、放牧場に学校帰りのちびっ子がやって来た。


 初めて会った時は舌足らずな幼児だったのに、今では小学生だぜ? 確か今年で二年生になるんじゃなかったかな。


 ランドセル姿を見せに来てくれた時はとっても可愛かったです。


 「ペルナー。また雨だったねぇ」


 「ブルルルルッ」


 俺がお説教してる時はちょっと不貞腐れ気味だったのに、ちびっ子に鼻先を撫でられると滅茶苦茶甘えてやがる。


 こいつ、これをしてもらうためにわざと負けたんじゃなかろうな?


 「プヒヒヒヒン」 (ちびっ子、甘やかし過ぎは良くないぞ)


 「エンマもただいまー。わっ! いっぱい来た!」


 俺が甘やかすなよと言いながら、ちびっ子とコミュニケーションをとってると、ちびっ子が帰って来た事に気付いたのか、放牧場にいる馬達が駆け寄って来る。


 「プヒヒヒヒン」 (ちびっ子は全員覚えてるのが凄いよな)


 既に名前が付いてる奴は名前で呼んでるし、まだの奴は誰々の子って分かって接してる。正直俺ですら仔馬は見分けが付かないんだが。


 全員懐いてるし。


 「ちゃんと走れるようにエンマが面倒見てあげるんだよー」


 「プヒヒヒヒン」 (よく寝て良く食べて良く走るを徹底させてますよ)


 肉にならない程度に頑張れとは言ってます。通じてるかは分からないけどね。

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