第112話 ドバイシーマクラシック 前編


 『さあ、ドバイターフでのアイアイサーの圧勝の興奮が冷めやまない中、ドバイシーマクラシックでも日本馬の登場です。現在、現役最強馬と言っても差し支えないでしょう。日本の悲願だった凱旋門賞制覇を含め、未だに無敗を貫き続ける『地獄からの刺客』エンマダイオウが5歳になって初のレースに挑みます』


 滝さんを背に乗せて、ゲートの近くでぐるぐるする。アイアイサーが勝ったという事を聞いて、やる気は充分。


 ふんすふんすと気合いを入れてると、周りの馬から結構避けられる。そんなに鼻息荒かったですかね? 失礼しました。アイアイサーのドヤ顔だけはなんとしても阻止せねばならんのですよ。


 『圧倒的1番人気に支持されているエンマダイオウ。今年で引退を表明し、ラストイヤーでの大事な初戦。鞍上はお馴染みの滝宇鷹騎手。こちらもエンマダイオウと共に引退を表明し、最後まで無敗で引退の花道を綺麗に飾りたいところ。華麗なレース展開を期待しましょう』


 続々とゲートに入って行くのを眺める。俺の枠順って、結構外側が多いよね。今回も外側だ。まあ、俺的にはどこでも大して変わらんから気にしてないんだけど。


 「よし、エンマ。行くぞ」


 「プヒヒヒン」 (はいはい)


 滝さんに促されてゲートイン。右隣のお馬さんは落ち着きがないけど、大丈夫かな? まあ、こんな狭い所に閉じ込められるのって結構キツいもんなぁ。


 閉所恐怖症な馬とか居ないんだろうか? 間違いなく発狂しそうなシチュエーションである。


 『さあ、各馬ゲートイン完了。体勢整いました。第××回ドバイシーマクラシック、今スタートしました! おおっと! これは大丈夫か!? 6番人気のメルウィングが立ち上がった! 騎手が振り落とされたぞ!』


 びっくりした。ゲートが開いた瞬間、お隣の馬が立ち上がるんだもん。騎手さんが振り落とされてたけど、大丈夫かな? 


 俺の方はスパッとゲートから出たから、特に被害はない。滝さんも一瞬びっくりしてたっぽいけど、冷静に手綱を操作して、俺を操縦してくれている。


 そう言えば日本でなんかのレースをした時も隣の馬が立ち上がった事があったような気がする。何のレースか忘れたけど、その時は靴も脱げて大変だったんだ。


 今回は大丈夫そう。しっかりと靴は履いたままだ。


 『スタート直後にアクシデントはあったものの、レースは進みます。先手を取ったのは、5番人気のミコルセンス。そのすぐ後ろに2番人気、ドイツのレーヴェが続きます。エンマダイオウはいつも通り最後尾からのスタートです』


 俺がいつも通りの定位置に収まると、びっくり。なんかちょっと前の方で車が並走してカメラで撮ってるのだ。


 日本でもこんなのあったっけ? いつも周りを気にしてないだけであったのかもしれん。でも、いざカメラを意識してしまうと、カッコよく撮って欲しいというのが、人間というもの。


 まあ、俺は馬なんだけど、それはさておき。


 もうちょっと前の方に行かないと、ベストポジションで撮ってもらえないなぁなんて思いながら、少しペースを上げてみる。


 滝さんに止められるかなと思ったけど、手綱で引っ張られる事もないし、なんか気付けばベストポジションに付けてた。


 さあ、思う存分撮りやがれい!


 『レースは向こう正面に入った所。先頭から最後方まで10馬身差といったところか。珍しくエンマダイオウがこの時点で中団に位置しています。これは何かの作戦か? これからのレース展開に期待です』

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