第113話 ドバイシーマクラシック 後編
『早めに上がってきたエンマダイオウ。これは予定通りなのか。それとも珍しく折り合いが合っていないのか。レースは変わらずミコルセンスが先頭でまもなく3コーナーに差し掛かろうというところ。ここで早くもドイツのレーヴェが動いてきた! ジョッキーの手が激しく動く! エンマダイオウも更に上がってきたか!?』
カメラの前というベストポジションを取って、少しカメラ目線を意識して走っていたのも束の間。
気持ち良く走ってたら、なんと車が遠ざかって行こうとするじゃありませんか。
なにくそと俺もペースを上げようとすると、前の馬が邪魔でこれ以上先に進めない。ほなら一旦、横から追い抜いてやりましょうかねと思ったら、横にも別の馬が。
どうやら、カメラに集中するあまりいつの間にか囲まれていたみたいである。
でもこういう時はどうするかってのは、フランスに行った時に、滝さんや牧瀬さんに叩き込まれてるんだ。万が一馬に囲まれた場合どうするかってのをね。
あの人達、もう俺が説明すればなんでもすると思ってる節がある。まあ、実際その通りだからなんとも言えないんだけど。
俺は若干ペースを落とす。すると、後ろの馬もぶつからない為にペースを下げざるを得ない訳で。横の馬が邪魔にならないぐらいのポジションまで下がったら、後は被せて追い抜くだけ。
滝さんも俺の意図に気付いたのか、絶妙な手綱捌きでひょいひょいとアシストしてくれて、あっという間に外に出られた。
そこからまたカメラを目指して位置を上げていく。
走ってるうちにカーブがあったり、他の馬も慌ただしく動き始めてたものの、俺の目標は変わらずカメラ。
この時、最早俺はアイアイサーの4馬身差勝利とか、倍の8馬身差で勝つとかいう目標を忘れていた。
今考えているのはいかにカメラにカッコよく映るかのみ。
『鞍上の滝宇鷹は持ったまま! 持ったままスーッと上がってくる! まもなく長い直線に入るところで、早くもエンマダイオウが先頭を捉える勢いだ! まだスパートを掛けている様子もないのに、圧倒的な脚力!! これがエンマダイオウだ!!』
気付けばいつの間にか直線に。なんかいつもよりちょっと長いような気がしないでもない。ゴール板が遠いような? 気のせいか?
そういえば滝さんから鞭も入らないな? いつもは直線辺りでビシバシと良いのをくれるんだけど。今日のレースは最低限の操縦のみで好きなように走らせてくれてる。
滝さんの操縦で走るのも良いけど、たまには好き勝手にレースで走るのもアリだな。なんか全てを支配してるって感じがする。
俺の今日の原動力はカメラに支配されてる訳だけども。それはさておきだ。
『ミコルセンスはここでいっぱいか!? エンマダイオウがあっさり躱して先頭に立つ! レーヴェも必死に追いかけてくるが届かない! エンマダイオウがノーステッキでドバイの地を駆け抜ける!! 強い強すぎる! 果たしてこの馬に勝てる馬は存在するのか!? 漆黒の馬体で今ゴール板が駆け抜けたー!! そこから4馬身離れてレーヴェが2着、フォトンソードが3着で! エンマダイオウが最終年を占う大事な初戦を見事圧勝で飾りました!! そしてこれでG110勝目! また新たな記録を打ち立てました!!』
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