第111話 当日


 ドバイでのレース当日。

 なんかあっという間に日々が過ぎていった。


 ほぼ毎日のようにアイアイサーと一緒に調教して競い合った。レースでは一緒に走れないけど、調教でいっぱい走れたから調教師の兄ちゃんの事は許してやろうと思う。


 まあ、油断してる時に後ろから鼻で小突いた事はあったが。可愛いエンマ君の戯れと思ってくれ。


 そう言えばちょっと邪魔だなぁって思ってたマスコミさんは、気付けばあんまり来なくなっていた。数が減って礼儀正しくなった感じがする。


 何かあったのかね? 俺の飼い主のお兄さんって凄い人っぽいし、圧力を掛けてくれたのかもしれん。


 まあ、それはさておき。


 「プヒヒヒン」 (アラビアーンって感じ)


 パドックを歩いてるんだけど、なんか日本と違って狭い場所にぎっしりって感じじゃなくて、広い場所でわちゃわちゃしてる感じが新鮮で面白い。


 それに俺が感動したのは、ドバイの偉い人なんだろうか、民族衣装みたいなのを着て、いかにもお金持ちって感じの人がいっぱいいた事だ。


 写真で見たりして知ってたけど、まさか生で見られるとはな。なんか得した気分だぜ。


 それに夜に走るってのもなんか新鮮で良い。いつもは明るいうちに走ってたけど、夜のこの感じも悪くない。日本でもやってくれないかな。


 「プヒヒヒン」 (あ、いつもの写真の人みっけ)


 マジでこの人どこにでも現れるな。有馬記念が終わって、実家でちびっ子と遊んでる時も定期的に来てたぞ。


 飼い主お兄さんと仲良さそうに喋ってたし、やっぱり知り合いか何かなんだろうな。写真を撮ってる時の目がキマッてるのが玉に瑕だけど。



 写真の人にポージングを決めつつ、ゆったりと歩く。周りの馬を見る感じ、目を引く馬がいない。海外に来たら新たなライバルと出会えるのはお約束だと思ってたけど、そういう事でもないっぽいな。


 せめてアイアイサークラスとまではいかなくても、アンジュくらいの馬と一緒に走りたいもんです。


 まあ、こんな余裕をかまして負けるのが一番恥ずかしいから、レースは真剣に走らせてもらうけど。


 パドックでしばらく歩いてると、いつも通り滝さんがやって来る。


 「さあ、アイアイサーに続くぞ」


 「プヒヒヒン?」 (え? 勝ったの?)


 ってか、もう走ってたの? まあ、勝ちについては疑ってなかったが。あいつが俺以外に負けるなんてあり得ないからな。


 「最初から最後まで一人旅だ。4馬身差の圧勝だったぞ」


 「プヒヒン」 (さすがだな)


 うむうむ。それでこそアイアイサーよ。やっぱりあいつに勝てるのは俺だけって事。よーく分かんだね。


 「プヒヒヒン」 (ほなら俺も頑張らなあかんか)


 アイアイサー以上の圧勝を見せてドバイの人の度肝を抜いてやらないと。4馬身差だっけ? なら、俺は倍の8馬身差で勝ってやろう。


 「プヒヒヒン」 (そんな感じの操縦で頼みますよ、滝さん)


 「ん? ああ、頑張ろうな」


 これは伝わってないですね…。最近は結構意思疎通出来てると思ってたのに。


 8馬身差ってどれくらい頑張れば良いんだろう。いつも通り走ってるだけでなんとかなるもんなのかな? 

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