第110話 一緒に調教
「おいおい。もう少しペースを落とせって」
「アイアイも。張り切りすぎだぞ」
俺がやる気満々で調教に向かうと、アイアイサーもいた。どうやら一緒に調教するっぽい。
なんかアイアイサーの方の厩舎でも、俺と走れないって伝えると、やる気を無くしてたらしい。
でも何故か急にやる気を出したとか。アイアイサーの騎手のお兄さんが不思議そうに滝さんに言ってたのを盗み聞きしました。
多分アイアイサーも俺にドヤ顔されるって想像したんじゃなかろうか。自分が負けてライバルにドヤ顔されるって、かなり腹が立つからね。
俺は想像でも嫌だったもん。それを毎回アイアイサーと一緒に走ったらやってる訳だけどさ。
そんなこんなでやる気を出したんだろうなぁって思いながら、一緒に走って調教。
海外の馬場は日本と違って重いんだぜーとアイアイサーに先輩風を吹かしつつ、馬場を確かめながら走る。
すると、あら不思議。思ったより日本と馬場が変わらなくて恥ずかしい思いをしました。フランスの馬場は走りにくかったのに…。
で、俺とアイアイサーが並んで走って、普通に終わる筈がない。
最初はゆっくり慣らしながらだったのが、最終的に競い合うようになっていく。滝さんも、アイアイサーの騎手さんも、俺達を落ち着けようとするけど、例え練習でもこいつと一緒に走るなら、先着させる訳にはいかんのですよ。
レースさながらの調教になっちゃったぜ。
まあ、楽しかったから良いけど。
調教が終わって厩舎に戻ると、なんかカメラがいっぱい。最近どこに行ってもカメラを向けられるんだよね。ファンとかそんなんじゃなくて、多分テレビとかそっち系の。
トークも出来ない馬を撮って面白いのかね? 何か芸でもした方がよろしいか? 調教師の兄ちゃんを連れて来てくれたら、プロレスを披露するけど。
「プヒヒヒヒン」 (邪魔にならないならなんでも良いや)
せいぜい撮るならカッコよくお願いしますねって事くらいだな。
「これ、エンマだから気にしてないですけど、普通の馬ならストレスになりますよ。なんとかならないんですか?」
「今はエンマのお陰か、かなり競馬ブームが来てるみたいでね。JRAもこの機会にファンを取り込もうと必死になんだよ」
「だからって、馬に迷惑を掛けられたらたまったもんじゃないですよ」
「まあ、それは確かにそうだね…。俺からも程々にするように言っておくよ。花京院さんにも伝えておこう」
「お願いします」
牧瀬さんがマスコミに苦言を呈する。確かに繊細な馬ならストレスになるかもなぁ。
俺は自分で図太い方の性格だと思ってるけど、それでもフランスに行って、何言ってるから分からないってのはストレスだった。
たくさんの人に囲まれたり、カメラを向けられるのをストレスに感じる馬もいるだろう。
やれやれ。マスコミの皆さん。牧瀬さんを困らせるんじゃありませんよ。この人に何かあったら、前脚キックだけじゃ済みませんよ? 後ろ脚キックに体当たりもセットでお見舞いしてやるからな。
「プヒヒヒヒン」 (アイアイサーの方は大丈夫やろか)
あいつも中々図太い野郎だから、そこまで心配する必要もないだろうけど。こんなんのせいで調子を崩したりされたら、なんか嫌だし。
マスコミ禁止令とか出せないのかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます