第109話 衝撃の真実
「プヒヒヒン!!」 (なんやて!!)
消毒液臭い検疫が終わって厩舎に。
そろそろ思いっ切り走りたくてうずうずしてた頃。
なんか重装備でやって来る調教師の兄ちゃんと、苦笑いしてる牧瀬さん。そして何故かテレビカメラの様なものまで。
そして調教師の兄ちゃんから衝撃の真実が告げられた。
アイアイサーと一緒に走れないと。
それを聞いた瞬間驚きの嘶きと共に、耳を後ろにペタン。エンマ君怒髪天である。なんか分からないけど怒ると耳が後ろにペタンってなる。不思議。
俺は調教師の兄ちゃんをジッと睨み付ける。なんか重装備をしてるから怪しいと思ってたんだ。俺のストレス発散の為にわざわざ蹴られに来てくれたのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
俺が怒ると事前に予想して守備を固めてきたのだ。
俺が睨み付けてると、兄ちゃんはジリジリとゆっくり下がっていく。ここで俺が思い通りに行動をすると、なんか思考を読まれた気分で負けた気になる。
俺を鼻息をフスンと浴びせてやり、そっぽを向いた。何故か周りの人達からは驚きの声が。
調教師の兄ちゃんも俺が何もしない事に、びっくりしてる様子。
「お、おい。どうしたエンマ。アイアイサーと一緒に走れないんだぞ?」
「そうだよ、エンマ。どうしちゃったの?」
何故か兄ちゃんと牧瀬さんが焦ったように声を掛けてくる。
なんだなんだ。蹴られたいのか? エンマ君が堪えてあげたというのに。堪えたというか、思い通りの行動をするのが癪に触っただけだけど。
それに今は我慢したってだけで、蹴らない訳じゃない。予想してないタイミングで絶対良い一撃を入れてやる。
それにしてもアイアイサーと一緒に走れないのか…。まさか、俺が嫌がる海外遠征のモチベーションを上げるためだけに連れて来たって訳じゃないよね?
確かに飛行機に乗ってる時はテンションが高かったけど。今は最底辺ですよ。
一緒に走れはしないけど、アイアイサーも別のレースに出るとかそんな感じなのかな? 競馬って一日で何回もレースするもんね。
「プヒン」 (はぁ…)
俺は厩舎の中で横になった。牧瀬さんと調教師の兄ちゃんが心配そうにしてるけど、ただの不貞寝である。
あーアイアイサーと一緒に走れると思ったのになぁ。
俺はプヒプヒ言いながら、寝床に敷いてある藁をわしゃわしゃする。一気にテンションが下がったぜ。
今レースで走ったら負けちゃうかも。
全然走る気がないもん。
……………待てよ? もしアイアイサーもドバイで何かしらのレースを走るとして、俺が負けてあいつが勝ったら…。
ぽわぽわーとそうなった時の事を頭の中で想像する。負けた俺を見てアイアイサーがドヤ顔して鼻で笑ってるんだ。
「プヒヒヒン!」 (そりゃいかんですよ!)
俺は慌てて起き上がる。そんな展開あってはならない。断固拒否である。
こうはしてられねぇ!
「プヒヒヒン!」 (調教行くぞ!)
俺が急に起き上がってびっくりしてる調教師の兄ちゃんに早く調教をと急かす。
「これは…どういう事だ?」
「分かりません…」
「プヒヒヒン!」 (良いから! 早く調教!)
あいつにドヤ顔だけはさせんぞ!
むしろ、あいつが負けて俺が勝ってドヤ顔してやる。
でも、アイアイサーが俺以外の馬に負けるのはなんか嫌だし、頑張ってほしいな。
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