第103話 温泉


 「プヒヒヒン」 (ふひゃー)


 どうもみなさん。いかがお過ごしでしょうか。エンマダイオウです。


 俺はと言いますと、レースが終わってから実家に戻るって事になったんですが、その前に寄り道をしています。


 あれは俺の飼い主のお兄さんの一言から始まりました。




 「エンマ、温泉行くか?」


 「プヒン!」 (温泉!)


 さっさと実家帰りたいなーと思ってたら、まさかの提案。馬も温泉に入れるんですかとびっくりしたもんだ。


 そりゃもう鼻息荒く行きたい行きたいとお兄さんにアピールしたよ。前世では特にお風呂とか温泉に思い入れはなかったけど、馬になってお風呂に入れないって思ったら、無性に入りたいって思う事が増えたんだよね。


 まあ、叶わない願いだなーって諦めてたんだけど。まさか温泉に入れるとは。


 で、帰り道の途中で連れて来られたのが馬用の温泉。


 「プヒヒヒン…」 (な、なんか思ってたのと違うな…)


 なんかちっさい。もっとこう、ゆったりしてるもんだと思ってたんだけど。お湯も足ぐらいまでしかないし。なんか色々理由はあるんだろうけど、ちょっと拍子抜けである。


 まあ、それでも温泉は温泉かと、促されるままに入ると、ちっさいとかそんなのどうでも良くなった。


 普通に滅茶苦茶気持ち良い。丁度良い湯加減で最高でやんす。こんなのすぐに蕩けちゃうぜ。


 俺が半身浴的なのを楽しんでると、上からシャワーみたいなやつでもお湯をかけてもらえる。毎日入りたいぐらい最高の気分だ。


 「おっさんみたいだな」


 「プヒヒヒン」 (うるさいやい)


 俺がプヒプヒと気持ち良く温泉を楽しんでると、お兄さんが呆れた顔をしてくる。俺だってもうちょっとで5歳だぞ? 馬が何年生きるか知らんけど、もう結構良い歳だろ。


 まだまだ身体は元気ですけどね。フランスに行ったり頑張ったんだから、これぐらいの休暇は許されると思うんです。


 「プヒヒヒン」 (実家にも作ってくれない?)


 家にもこれが欲しい。俺、結構稼いでるでしょ? 100億にはまだ届いてないだろうけど、お風呂を作るぐらいは稼いでると思うんですよ。


 「エンマ、そろそろ出るぞ」


 「プヒヒン」 (早いよ)


 俺がボケーっとしてると、お兄さんから出ろと言われた。これからが本番なんだが? 流石に早すぎるよ。


 紐をグイグイと引っ張ってくるけど、俺は嫌々と首を振る。


 「あんまり長く入り過ぎると、蹄が柔らかくなって怪我する事もあるんだぞ」


 「プヒヒヒン」 (それは困るな)


 怪我は困る。馬の怪我って、人間基準では大した事が無くても、馬だと死ぬぐらいやばいのもあるみたいだし。


 脚の骨折とかね。馬って歩けなくなったら死んじゃうみたいだから。なんとかって病気になるんだって。前に牧瀬さんが言ってた。


 俺も靴が脱げた時はちょっと怪我して不便だったしなぁ。………あれ? すぐ治ったっけ? 昔の事すぎて記憶がちょっと…。


 元から出来の良い頭じゃなかったけど、馬になってから興味のない事は全然覚えてられなくなってる。


 馬の記憶力ってどんなもんなんだろうね。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る