第100話 二度目の有馬記念 後編
『レースは慌ただしく動いていましたが、一瞬の膠着。先頭は変わらずアイアイサー。まもなく3コーナーに差し掛かろうというところ。珍しくエンマダイオウが好位に付けていますが、一体どこで動くのか? そしてアイアイサーは最後まで持つのか? そして各馬もどこで仕掛けるのか? 一瞬も目が離せません』
いつもより速いペースでレースは進んでると思う。俺はまだまだ全然余裕だけど、これって他の馬はどうなんだろうな? 最後まで走り切れるのかしらん?
目の前のメス馬さんはなんか疲れてるっぽいけど。多分初めまして。アイリッシュには劣るものの、中々の美人さんである。
まあ、それはさておき。
滝さんは相変わらず指でトントンして、タイミングを見計らってるけど、もう何回も滝さんと一緒にレースして来た俺には分かる。
この人、そろそろ動くよと。なんか分かるんだよね。これぞ理解者面した厄介オタク。予想を外したら恥ずかしいぜ。
「エンマ。信じてるぞ」
滝さんがボソリと呟くと、手綱を一気に緩める。俺の予想通り、行って良しの合図だ。ふふん。
『エンマダイオウが! エンマダイオウがここで動いた!! 緩やかな下り坂に合わせて、前の馬をどんどん躱していく! これはかなりのロングスパートだ! ヒャッカリョウラン、アンジュ、ジェイソンキッド、ヴェートーベンを抜いて、一気に単独二番手に躍り出たぞ! 鞍上の滝騎手がロングスパートを仕掛けてきた! アイアイサーの大逃げを警戒したか!? エンマダイオウの動きに釣られて、また各馬が慌ただしくなってきた! これは混戦必至か!?』
あばよーとばかりにグイグイスピードを上げて、前の馬を追い抜いていく。それでもまだ結構アイアイサーとの距離が離れてるんだよね。
待っとけよ。すぐにぶち抜いてやるからな。
『アイアイサーが未だ先頭で直線に入った! その差は5馬身! しかし! エンマダイオウが物凄い脚で追いかけてくる! アンジュ、ジェイソンキッド、ヒャッカリョウランも猛追だ! 役者が前に固まった! 後続はペースを乱されて脚色が良くないぞ! アイアイサー! 流石に一杯か!? その差がどんどん縮まっていきます!』
ひゃっはー!! 滅茶苦茶気持ち良く走れるぜ! やっぱり前に追いかける対象がいると走りやすいな。意地でも抜いてやろうって活力が湧いてくるもんよ。
でも流石のエンマ君もちょっと疲れてきた。走る前は余裕だぜって思ってたけど、思った以上に頑張る距離が長かったぜ。それでもアイアイサーは絶対抜いてやるけどな。
『直線残り100m! ここでエンマダイオウがアイアイサーに並んだ! これが凱旋門賞馬の底力か!? 驚異的なロングスパートでとうとう並びました! しかしアイアイサーも粘る粘る! 更にエンマダイオウの外からアンジュも伸びてきた! エンマダイオウにリベンジして意地を見せるか!? な、なんと最内からはヒャッカリョウランも突っ込んで来ている!!! まさかの伏兵!! 前はこの4頭で決まりか!』
アイアイサーと並んでから中々抜かせてくれない。結構なスピードで走ってるはずなのに、ギリギリのところで食らいついてくる。俺の外側ではチラッとアンジュも見えるし、一番内側でも、他に1頭見える。
なんて楽しいレースなんだ。こんなワクワクしてゾクゾクするレースは久々だぞ。フランスでも味わえなかった。
でもそれももう終わりだ。
『エンマダイオウだ!! エンマダイオウだ! 残り50mを切ったところで、半馬身前に出た! アイアイサー、アンジュ、ヒャッカリョウランも頑張った! しかし! しかし! エンマダイオウだ! 漆黒の馬体『地獄からの刺客』エンマダイオウ! 日本最強馬、いや、世界最強馬の力を見せつけて今ゴール!! 2着から4着は混戦! 5着にはジェイソンキッドが入りました! タイムは2分27秒5! 今年の有馬記念は物凄いタイムでの決着となりました!!!』
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