第101話 レース後


 「よしっ!」


 ゴールした後、滝さんが何度も何度もガッツポーズ。珍しい。今まではガッツポーズしても、こんなに感情を出す事はあんまり無かったのに。


 凱旋門賞の時はガッツポーズする前に俺の鬣に顔を埋めて泣いてたしな。


 「プヒン」 (疲れた)


 思った以上に長い距離全力疾走したから疲れた。それにもっと圧勝する予定だったのに、身体半分しか前に出せなかった。


 アイアイサーも最後まで粘ってたし、アンジュともう一頭のメス馬さんの追い上げにもびっくりした。


 フランスでレベルアップしたつもりだったけど、まだまだ鍛え方が足りんか。


 「ブルルルッ」


 「プヒン」 (ふふん)


 ゆっくりめに走ってると、お隣にアイアイサーが。悔しさ全開の様子で俺を見てくるから、とりあえずドヤ顔しておいた。


 それが癪に触ったのか、アイアイサーは首をブンブンして走り去って行った。


 またの挑戦お待ちしております。


 アンジュとメス馬はやり切ったみたいな感じの顔をしてるけど。アイアイサーだけはいつまで経っても敵意剥き出しだ。


 控えめに言って大好きだぜ。


 『着順が確定しました! 2着アイアイサー! 2着アイアイサーです! そして3着にはなんとヒャッカリョウランが!! 日本の牝馬が大健闘を見せました! 4着にはフランスのアンジュ! 残念ながらエンマダイオウにリベンジとはなりませんでしたが、史上稀にみる激戦を繰り広げてくれました! おおっと! そしてここでエンマコールが! 大観衆の中山競馬場が揺れています!』


 疲れたし、ちびっ子に会って早く帰りたいよと思ったら、観客席の方からどよめきが聞こえて、その後に俺の名前を呼ぶ声が。


 凄いな。結構離れてるのに、滅茶苦茶ビリビリと熱気が伝わってくる。


 「大丈夫か?」


 「プヒン?」 (何が?)


 滝さんが心配そうに俺を撫でてくるけど、何を心配してるのか分かりませんよ。むしろ、この大歓声が気持ち良いくらいだ。


 せっかくだから、観客席の近くまで行ってやろう。


 俺はテコテコーと走って、観客席前の直線コースに。そこで止まって俺の歓声に酔いしれる。俺がうんうんと頷いてやると、更に観客席は大盛り上がり。いやぁ楽しい。


 「普通はこんな大きな音を聞いたらビビるもんなんだけどな」


 ビビる? こういうのは楽しまないと損でしょ。せっかく俺を讃えてくれてるんだから。


 でもまあ、俺が人間の意識を持ってなかったらビビるのかもな。馬って大きい音とか苦手らしいし。


 いやでも、アイアイサーとかがビビってる姿も想像出来ないな。あいつもむしろ楽しむ側の馬だと思うが。何事も例外はあるって事かね。


 「もう満足したろ? そろそろ戻るぞ。舞ちゃんも待ってるはずだ」


 「プヒン」 (せやな)


 まだまだこの気持ちいい歓声を聞いてたいけど、この寒い中ちびっ子をずっと待たせておくわけにはいかない。


 これでとりあえず実家に戻れるはずだし、当分はゆっくり出来るかな。あ、でもゆっくりし過ぎは嫌だな。2〜3ヶ月ちびっ子と遊んでから、またレースがしたい。


 出来れば今回みたいにヒリつくような勝負を。アイアイサーが更にレベルアップして俺の前に立ちはだかってくれないかな。


 まあ、俺もレベルアップするから絶対に負けないけどさ。


 

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