第97話 有馬記念パドック


 「プヒヒヒン」 (本当にアンジュがいる)


 パカラパカラとパドックを周回中。いつも通り、観客席の前だけではビシビシと歩いてアピールしつつ、エンマ君が日本に帰って来ましたよって事を、これでもかってぐらい主張する。


 なんか今日の競馬場は入場規制があるくらい人が集まってるらしく、なんか異様な雰囲気になってる。


 みんな俺を見に来てくれたのかな? それだったら嬉しい。いつも以上に気合いを入れて頑張っちゃうよ。


 で、パドックに入る直前。なんかフランスで見た事ある牛模様の馬がいるなーと思ってたら、牧瀬さんがアンジュだって言うからびっくり仰天。


 わざわざ俺にリベンジしに日本に来たらしい。アイアイサーは居るって聞いてたんだけど、まさかアンジュも居るとはね。他にも見た事ある気がする馬がちらほらと。


 今日のレースも楽しくなりそうだ。


 「プヒヒヒン」 (なんか見違えたなぁ)


 で、久々に会ったアイアイサーなんだけど。最後に見た時より、なんかこう、圧みたいなのが凄い。最後にレースした時に完勝して、ちょっと悲しくなったんだけど、かなり成長してるっぽい。


 まあ、それでも負ける気はないけどね。俺だってフランスでパワーアップしてきたんだ。格の違いってのをこれでもかと見せ付けて、レースが終わった後にドヤ顔してやる。


 そんな事を思いながら観客席を見る。ちびっ子はどこかいなーと探してると、結構近くにいた。


 こっちを見てると分かったちびっ子が手を振りながら名前を呼んでくれたので、首をブンブン振って応える。


 「プヒヒヒン」 (またあの人いるな)


 ちびっ子を抱っこしてる俺の飼い主さんの隣に、フランスでもみたカメラを持って興奮してる人。


 なんかよくよく考えたら、あの人って毎回いる気がする。応援してくれるのはありがたいけど、仕事とか大丈夫なのかな? 日本では日曜日でやってるからともかく、フランスは流石に日帰りじゃ無理だろうし。


 飼い主さんが雇った俺専属のカメラマンとかか? 謎ですねぇ。



 係の人の止まれの合図があって、騎手さんがゾロゾロと入ってくる。


 「どうだ? 久々のアイアイサーは」


 「プヒン」 (楽しめそう)


 滝さんが俺に声を掛けながら鬣を撫でてくる。強くなったライバルにワクワクが止まりませんよ。


 そんな事を思ってると、アイアイサーが俺の前に立ち塞がった。パドックで周回中に久しぶりーってアイコンタクト送った時は無視したくせに。


 まあ、メンチの切り合いを挑まれたなら受けて立ちますよ。俺は馬になってこの方、メンチとレースは負けた事がないんです。


 ジッと見つめ合う事10秒程。観客席がどよめく。なんとアンジュも乱入してきたのだ。


 フランスの時はお高く止まってる感じだったのに。中々闘争心を剥き出しにしてるじゃないか。実に良い事だね。お高く止まってるより、よっぽど好感が持てる。


 そこから更に10秒程。二人を睨み付けてるけど、誰もが譲らない。結局みんなの騎手の人に促されて、お開きになってしまった。


 良いな良いね。レース前からバチバチなこの感じ。


 俄然レースが楽しみになったぜ。

 

 


 

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