第96話 サポート
☆★☆★☆★
「アンジュの様子はどうだ?」
「良いですね。輸送負けもありませんし、調教も積極的です。それに日本の厩舎が予想以上のサポートをしてくれるお陰で、アンジュも日々快適に過ごせています」
「そうか。何から何までありがたい事だな」
調教師である名伯楽のウムティは、目の前で走るアンジュを見て満足気な表情を浮かべた。
アンジュの意を汲んで乗り込んできた日本。当初はジャパンカップで一叩きしてから有馬記念に挑む予定だった。
しかし日本に遠征する事にフランスという国が難色を示したせいで、手続きが遅れてしまい、ジャパンカップには間に合わなかった。
フランスは負けた相手がいる場所にのこのこと遠征に行くことが我慢ならなかったらしい。フランス史上最高傑作とまで謳われたアンジュがホームで負けたのだ。
馬場の相性なども考えると、到底勝ち目があるようには思えなかった。
それはウムティも百も承知である。だが、アンジュがここまでやる気を見せてるのだ。その気持ちを汲んでやらないと、今後一体どうなるか分からない。
もしかしたら走る気を無くしてそのまま引退してしまうかもしれない。ウムティはそう言って説得してようやく日本にやって来れたのだ。
「しかし凄いな。間違いなくライバルになるであろう馬なのに、ここまで手厚くサポートしてくれるとは。我が母国とは大違いだ」
「……そうですね」
フランスはこういう場合、間違いなく何かしら足を引っ張ろうと画策してくる。現にエンマダイオウがフランス滞在中は、かなりの厳戒態勢で日本陣営はサポートしていた。
ウムティもそういう事を考えて、サポートする人員はそれなりに連れて来ていたが、まさかの手厚いサポート。
正直、これにはウムティもびっくりしていた。
「ライバルには万全な状態で出走してもらって、それを真っ向から叩き潰す。それほど日本の競馬界は、エンマダイオウという馬に絶大な自信があるのだろう。実に良いことだ。これが正しい競馬というものだよ。我が母国も見習ってもらいたいね」
ウムティは何故ここまで手厚く扱ってくれるのか聞いた事がある。
その時に言われたのが『万全な状態で正々堂々戦うのが勝負である』という事だ。
至極当然の事だが、それを実際にやってみせるのは難しい。どうしても自国の馬を贔屓きたくなるし、色々なしがらみもある。
ウムティはそれを聞いて羨ましく思ったものだ。
「それに警戒すべきはエンマダイオウだけではない。このアイアイサーという馬は、今、日本ではエンマダイオウに次ぐ人気と強さを誇っているらしい。過去の映像は見たが、この逃げ足は凄まじいものがある」
「エンマダイオウだけに集中してると、足元を掬われて、思わぬ所から刺される事もありますか…」
「ああ。この馬もアンジュ同様、良い枠順を取ってたしな。エンマダイオウは不利な枠順らしいし、なんとかモノにしたい」
「……エンマダイオウは去年同じ枠順で勝ってるそうですが」
「………それを言うな…」
そんな話をしながら、日々は過ぎ、いよいよ有馬記念当日を迎えた。
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