第67話 有馬記念 後編


 『さあ、まもなく最後の直線! アイアイサーが更に加速! 後続との差はまだかなりあります! アイアイサーのロングスパート! 果たして逃げ切れるか! そしてエンマダイオウだ! エンマがきた! エンマがきた! エンマがきた! 3.4コーナーからジリジリと上がって、既に3番手! アイリッシュも動いた! 最高のフィナーレを飾れるか!?』


 アイアイサーが後半から猛スパートをかけて、最後のコーナーらへんはかなり慌しくなっていた。


 でも、俺はそんなみんなの焦りとは無縁ですとばかりに、直線を向いたら3番手にスポッと収まっていた。マジで不思議。なんか滝さんの指示に従ってたら、ここにいるんだもの。


 直線を向いて良い感じに加速も出来てる。準備万端。後は滝さんが鞭をバシッと入れてくれたら、いつでもエンマターボは噴射出来ますぜ。


 そう思って身構えてたんだけど、鞭が来ない。あれれと不思議に思うも、滝さんの手は首をガシガシと押している。


 まあ、これだけでも加速は出来ますけど…。鞭を入れてくれた方が俺ちゃんは伸びますよ? どうしたんだろうか?


 『アイアイサーがまだ先頭! 残り300mでリードは3馬身! これは逃げ切ったか!? 2番手にはアイリッシュとエンマダイオウ! 2頭が競り合っています! その後ろは少し離れている! 完全に3頭の戦いだ! アイアイサーか! エンマダイオウか! アイリッシュか!』


 このアイリッシュ。中々やりおる。俺のほぼ本気走りに食らいついてきやがるぜ。なんて根性がある馬なんだ。結婚して下さい。


 「ここだ! エンマ!」


 きたきたきたーっ!! 

 アイリッシュにプロポーズをしてると、滝さんが鞭をバシッと入れてきた。やっぱりこれだよ! 一気にアドレナリン的なのが、体中に分泌される。


 一つ二つと鞭を入れられる事にギュンギュンとアイアイサーとの差が縮まっていく。隣にいたアイリッシュはちぎったな。


 お前のお尻も良いけど、俺のお尻も良いですぜ。後はゆっくり眺めてな。


 『アイリッシュはここでいっぱいか! エンマダイオウが前に出た!! 凄い! 凄い脚だ! 一気にアイアイサーに並びかける! 差し切るか!? 逃げ切るか!? 今2頭が並んだ!! 最後はこの2頭の戦いに………ア、アイリッシュだっ! 一度躱されたアイリッシュが再度伸びてきた! これが女帝の意地か!?』


 エンマターボ全開ヒーハー! もうすぐゴール板。このスピードでいけば、アイアイサーは間違いなく抜ける。


 ほぼ横並びになって、あいつも必死に粘ってるが、いっぱいいっぱいだ。こっちはまだ予備タンクに燃料が残ってるんだよーと、更に地面をぐっと踏み込み、アイアイサーを抜こうとした時。


 なんと、アイアイサーの逆の横側からアイリッシュがにゅっと出て来た。これにはエンマ君はびっくり。まさか、一度抜いてから並びかけてくるとは思ってなかったのである。


 初めての体験だ。こいつらはなんてすげー馬なんだ。ここ最近のレースで一番楽しいぞ。


 が、俺は負ける訳にはいかない。特に使命とかを帯びてる訳じゃないけど、ちびっ子が待ってるからな。 


 今日のレースは本当に楽しかった。アイリッシュとはこれで最後ってのが本当にもったいない。出来ればもっと早くに出会いたかったぜ。


 じゃあな、二人とも。またどこかで会えたら嬉しいぜ。


 『突き離した! エンマダイオウだ! 3頭並んだ状態からエンマダイオウがが一歩抜けでる! エンマダイオウだ! 滝宇鷹だ! 不利な大外枠から地獄の末脚! エンマダイオウが今1着でゴールイン! 2着争いは接戦! その後にジェイソンキッドが続きます! エンマダイオウがやりました! 無敗継続! 古馬相手にも圧巻の競馬を見せつけました!』

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