第66話 有馬記念 前編


 『スタートしました。全頭出遅れなく揃ったスタート。そして飛び出しのはやはりこの馬、アイアイサー。絶好枠から抜け出してあっという間に先頭に立って、ぐんぐんと加速していきます。そしてその後ろにはアイリッシュ、ジェイソンキッド、ヴェートーベンと続きます。気になるエンマダイオウはやはり後ろから。最後尾に控えました』


 待ちに待ったレースがとうとう始まった。爆発しそうなエネルギーを内に秘めて滝さんの手綱に従う。いつもの俺なら滝さんに嫌々して、アイアイサーに競りに行ったかもしれない。


 あいつは相変わらずロケットスタートで、気持ち良さそうに先頭を走ってる。最初から最後まで競い合ったら、さぞかし面白いレースになるだろう。


 でも今日は違う。無駄に体力は消耗しない。滝さんと喧嘩して体力を消耗したら、絶対に後に響く。俺は完膚なきまでにアイアイサーを叩きのめしたいのだ。


 だから滝さんに従う。良い感じに導いてくれるって信じてますよ。


 『さあ、正面スタンド前。ぎっしりと埋まった大観衆に迎えられ、西陽を浴びながら各馬通過して行きます。先頭はアイアイサー。今日はいつもと違って大逃げではありません。リードは2馬身といったところ。二番手はジェイソンキッド、ヴェートーベン、アイリッシュと続いて、その後ろにオルタナ、ペペロニア、アガサロマンスがいます。1000mは60秒丁度というペースです』


 なんかすぐにゴール板まで来ちゃったけど。流石にこれがゴールじゃないよね? もう一周あるよね? 滝さんは相変わらず手綱を絞ってるし。前のレースはこれで失敗したからね。ちゃんと従いますよ。


 「思ったよりもアイアイサーが逃げないな」


 それは俺も思ってました。先頭を走ってるけど、いつものあいつならもっとかっ飛ばしてたはず。後続を置き去りにするペースで走りまくってたのに。


 どうしたんだろうね? 不調かな? 見た感じ絶好調って感じだったけど。なんかちょっと不穏ですな。


 「少し早めに位置を上げた方が良いな」


 滝さんも何かを感じ取ったのか、早めに仕掛ける事を決断したらしい。それがいつになるかは俺には分からんが。


 俺は滝さんの合図にすぐに反応出来るように準備するのみ。アイアイサーだけじゃなくて、あのお尻が美しい馬もなんか良い感じっぽいしね。


 『先頭は変わらずアイアイサー。しかしリードは広がったか。二番手との差は4.5馬身離れています。徐々に、徐々にペースが上がってきてるか? 各馬の動きもアイアイサーを見て慌ただしくなって来ています。二番手からはぎっしりと詰まって目まぐるしく順位が入れ替わっていきます。おおっと? エンマダイオウが早くも動いてるか? 最後尾から外をスーッと回ってきたぞ? 15頭がぎゅっと固まり、1頭だけが先頭を走る。リードが更に広がったように見えるぞ? これはアイアイサーの早仕掛けか! まだ3.4コーナーの中間地点を少し過ぎたところ! 鞍上の井坂騎手の手が動いている!』


 なんか急にみんなが忙しく動き始めた。俺が動いたせいかなって思ったけど、どうやら先頭のアイアイサーがペースを上げたらしい。


 前半は体力を温存して後半勝負ってか? まさか俺ちゃんと末脚勝負に挑もうと? 舐められたもんだ。よーいどんで勝負したら、俺は誰にも負けないぞ。その自信がある。


 確かにいつも通り、俺がまだ最後尾にいたらやばかったかもな。でも残念。滝さんの指示に従ってたら、いつの間にか中団のちょっと前の絶好ポジションにいるのです。


 不思議。手綱を緩められた通りに走ってたら、なんか良いポジションにいるんだ。


 さあ勝負だ、アイアイサー。ついでにアイリッシュ。

 ぶっちぎってやるよ。



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 実況は行間を空けない事にしましたー。そっちの方が良いよーって意見が多かったので。


 前のやつも修正しております。またなんかアドバイスがあったらよろしくどうぞ。

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