第三章 古馬との戦い

第60話 復活のダイオウ


 「プヒヒヒン!」 (エンマ完全復活!)


 「ブルルルッ」


 「プヒン」 (あ、ごめんね)


 なんか注射を打たれたら、脚が治ったでやんす。やばい薬なんじゃなかろうかと疑っちゃうね。


 まあ、俺自身は治ったと思ってるけど、牧瀬さんや、調教師の兄ちゃんは安全重視で、今日までお散歩しかさせてくれなかった。


 でも昨日のお散歩が終わった後の検査でお医者さんにオッケーをもらった。


 って事で、今日。

 朝起きて元気よく復活宣言したら、お隣の後輩にうるさいって言われました。いや、何言ってるか分からないけど、嘶き的に。


 「次のレースはね。年上の馬とも戦うんだよ」


 「プヒン?」 (ほう?)


 牧瀬さんに連れられて、調教上に向かう傍らで、次のレースについて教えてもらう。菊花賞の時は距離を勘違いしたりして大変だったからね。主に滝さんが。こういう情報はしっかりと聞かねばならん。


 それにしても年上か。やっぱり強いんだろうか? その分、体も成長して鍛えてるって事だしなぁ。楽しいレースになればいいけど。


 「有馬記念って言ってね。年末競馬で一番盛り上がるレースなんだ」


 「プヒン!」 (有馬記念!)


 俺でも知ってる有名レースじゃないか。人間時代に同僚が年末に唸ってたのが印象的でよく覚えてる。


 まあ、知ってるのは名前だけでどういうレースかは知らないんだが。でも俺でも知ってる有名レースって事は、賞金もウハウハなのでは? ぐへへへ。100億にまた近付くぜ。


 俺が稼いだところで、俺に入ってくる訳じゃないからあれだけどね。ちびっ子が喜ぶし。賞金が積み重なっていくのはなんか嬉しい。


 「競馬好きのファンが投票してね、出走する馬が決まるんだよ」


 へー。そういう仕組みなんか。って事は、俺は選ばれてるって事でよろしい? 次にそのレースに出るんだもんね? 選挙活動みたいにアピールとかしなくて良いのかな?


 選ばれる為なら人間に媚びを売るのもやぶさかではありませんよ? 最近覚えたストレッチなんてどうでしょう? 良いアピールになると思います。


 エンマダイオウに清き一票を〜つって。


 「わわっ。エンマは体が柔らかいねー」


 「プヒン」 (せやろ)


 ほら、俺ってなんか怪我したじゃん? また同じ事を繰り返さない為にどうしたら良いか、俺なりに考えたんです。


 で、思い付いたのがストレッチ。人間時代は準備運動とかしてたよねって事で、猫みたいにうにゅーっと体を伸ばすのとかを、調教前と調教後にやる事にした。


 いつもはみんなが厩舎で寝静まった後にやってて、今日が初のお披露目です。これ、やると中々気持ち良いんだよね。筋肉痛とかにも効くんじゃないかって睨んでます。


 まあ、前回の怪我は裸足で走ったせいみたいだから、これに効果があるのか分からないけどさ。やる方が良いんじゃないかなと。


 お隣の後輩君にも伝授しておこう。話を聞いてる限り中々有望株みたいだからね。怪我とかしちゃったら可哀想だ。


 「ファン投票ではエンマが今一位なんだよ」


 「プヒン!」 (なんと!)


 アピールする必要がないじゃないか! 俺ってばそんなに人気だったのね。やはり分かる人には分かるよね。俺のこの漆黒の馬体のかっこよさが。


 アイアイサーみたいに白っぽい馬に惹かれるミーハーとか、この前のレースで戦った金色の馬とは、かっこよさの次元が違いますよ。


 通の者は漆黒好き。はっきり分かんだね。


 「アイリッシュっていう牝馬が2位で僅差の3位でアイアイサー。4位がジェイソンキッド。みんな強い馬だよ」


 「プヒヒヒン」 (アイアイサー! 出てくるか!)


 そういえば前のレースのパドックで牧瀬さんが言ってたな。次はアイアイサーと走れるって。


 こいつは楽しみになってきた。気合いを入れて調教せねばならんな!


 ところで牝馬ってなんです? ヒンバ。ヒヒンって鳴く馬って事? それなら俺も? エンマ君気になります。

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