第47話 撮影会


 牧場でデブにならない程度に運動しつつ、ちびっ子と遊ぶ事しばらく。いつになったら俺の次戦は始まるのかな、もしかして引退なのかなとそわそわし始めた頃。


 俺が普段のんびりしてる場所に、たくさんの人間がやって来た。


 「プヒン?」 (なんや?)


 なんか最近パパさんは忙しそうにしてるなと思ってたし、見知らぬ警備員みたいな服装をした人が増えたなって思ってたけど。


 もしかしてインタビューとかかなって思ったけど、なんかたくさんやってきた人間の服装が、なんか旅行客というか、観光客というか。


 「プヒヒヒン?」 (もしかして見せ物にされるのかな?)


 ふれあい広場的な。

 とりあえず近くまで行ってみるか。

 パパさんもいるし。


 「き、来た!」


 「ふわぁ! でけぇ!」


 「これが無敗の二冠馬かー」


 「大きい声や、フラッシュを焚いた撮影はご遠慮くださーい」


 「プヒヒン」 (人気者で草)


 どうやらこの人達はわざわざ俺を見に来たらしい。携帯やカメラを向けられたので、ポージングしながら、耳をぴこぴこさせて話を聞いてると、放牧中の俺を見たいって言う競馬ファンが結構いたらしい。


 それで最近パパさんが忙しくしてたのねと納得しました。俺を見るのにお金が必要なのか分からんが、この牧場が有名になるなら俺だって一肌脱ぎますよ。


 ほれ、撮るが良い! 真っ黒な馬体はさぞかし映えるであろう! にっくきアイアイサーの白っぽい感じも悪くないが、やっぱり黒ですよ。男の子は黒に憧れる年代が必ずあるのだから。


 ふむ。順番に目線をプレゼントするサービスをしてやっても良いぞ。よし、端っこから順番にポージングしてやろう。


 毎回レース終わりとか、パドックで写真を撮られてるからな。暇な時にポージングとか考えてるんですよ。ここで、今まで考えたポージングを全て放出してやろう。


 「エンマだからあんまり心配してなかったけど、近付いてきてくれて良かったよ」


 パパさんがホッとしてる。

 普通はこんなに近付く事とかないのかな?

 一応柵越しではあるけど、結構距離は近いし。


 「エンマー。こっち向いてくれー」


 「プヒン」 (お任せあれ)


 あっちに行ってパシャパシャ。こっちに行ってパシャパシャ。エンマダイオウは大人気である。パパさん、ここまで媚びを売ってあげてるんだから、今日のご飯は期待してますよ。人参にメロンも追加でお願いします。


 この前初めてメロンを食べたんだけど、その美味しさに感動したんだよね。あんなに甘いのかと。人間時代に食べた時より美味しく感じたね。


 どれだけ時間が掛かったか、分からないけど、今日来た人間達は満足げにして帰って行った。


 わざわざ北海道まで俺を見にくるなんて、相当な競馬ファンなんだな。いや、地元民なのかもしれないけどさ。


 で、撮影されながら話を聞いてたら、俺の次戦の事を話してる人がいた。菊花賞がうんたらとか。


 生憎俺はそのレースの事を知らないけど、引退とかじゃなくてホッとしたぜ。なんかまだ体が成長してる感じはあるし、これからもしっかり練習して、札束を咥えて帰って来ないとな。

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