第46話 牧場でのひと時


 「エーン! そろそろ戻っておいでー!」


 「プヒン!」 (はーい!)


 おはようございます。エンマダイオウです。季節は春から夏に移り変わろうかというところ。皆さんいかがお過ごしでしょうか。


 私、エンマダイオウはと言いますと、ダービーが終わって、筋肉痛も治って、良し練習だと思ってたら、まさかの里帰り。


 予想外の出来事にびっくりしてるところであります。まあ、帰ってちびっ子と遊べるから良いかと、さっさと現状を受け入れて休暇を満喫してるんですが。


 休暇だよね? ダービー勝ったから、引退とかそんなんじゃないよね? まだ到底100億には届いてないと思うし、俺は全然元気ですよ? ちびっ子の為にこれからも札束を咥えて帰ってきたいと思ってるんだが。


 まあ、あまり頭がよろしくない俺でもそろそろ理解したけどね。ちびっ子ってお金持ちの子なんだろうなって。


 俺の独断と偏見では牧場経営は厳しいと思ってたんだけど、帰って来るたびに人は増えてるし、賑やかになってる。経営が厳しいなら人は雇えないだろうし。


 それにちびっ子が着てる服ですよ。牧場に来る時は汚れてもいい服で来てるみたいなんだが、それが俺でも知ってる有名ブランドの服なんだよね。


 それ、本当に汚れていい服? 俺の記憶ではかなりお高いお値段だったと思うのだが。


 まあ、そんな事を思いながら日々を過ごしてる訳ですよ。俺がレースしてる間に馬も増えてる。チビ馬が何頭か、母親と走り回ってるのを見かける。残念ながら一緒の場所にはしてくれないけど。俺も仲良くしたいんだけどな。


 そういえば俺のママンは元気にしてるんだろうか。流石に遠目じゃ自分のママンを判別出来ない。近付けば分かると思うんだけどね。結構早い段階でお別れさせられたから、ちょっぴり悲しい。


 「エンは今日も元気だね! いっぱい走った?」


 「プヒヒヒン」 (デブにならない程度には動いてますよ)


 放牧の時間が終わって厩舎近くに戻って来ると、ちびっ子が嬉しそうに話かけてくれる。俺もちゃんと聞いてるよとアピールする為に返事したり、鼻を擦り付けたりしてるんだ。


 「怪我はしちゃダメだよ?」


 「プヒン」 (分かっております)


 その辺は重々承知しております。前に帰って来た時ほどガチで走ってないし、休暇だと思ってゆっくりさせてもらってますよ。デブになると、ちびっ子が悲しい顔をするので、そうならないようには気を付けてるけど。


 前は新しい走り方の開発をしたりして忙しかったけど、今はそうじゃないからね。自分的に、あの走り方は完成したと思ってるし、後は単純に筋肉をつけるだけ。


 良く食べて良く運動して良く寝る。

 これをきっちりこなしていこうと思ってます。


 「それでね。今日はパパとママがね--」


 「プヒン」 (そうかそうか)


 俺がちゃんと話を聞いてると理解してるのか、ちびっ子は今日あった出来事を話してくれる。これはほぼ毎日の事だ。いつも朝と夕方に俺の事を見に来て色々話してくれるんだ。


 今日は俺の飼い主のパパさんが目玉焼きに砂糖をぶち撒けて、ママさんがブチ切れした話を聞かせてくれた。夫婦喧嘩になったりしてないのと心配になるけど、ちびっ子が楽しそうに話してるし多分大丈夫なんだろう。


 あのほわほわしてるママさんがブチ切れする所なんて想像出来ないんだけど。まあ、目玉焼きに砂糖はないよね。醤油とかソースとか、塩胡椒のみとか。色々派閥があったような気がするけど、砂糖は聞いた事ないね。


 パパさんは邪教なんだろうな。あ、因みに俺は塩胡椒派ね。確かそうだったはず。草とかにんじんばっかり食べてると、人間の時に食べてたものをすんなり思い出せなくなってきたんだよなぁ。


 俺も本格的に馬に慣れてきたって事かね。

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