第45話 次戦は


 ☆★☆★☆★



 「いやぁ。騒がしいですねぇ」


 「そりゃそうですよ。色々なニュースで取り上げられてますし、スポーツ新聞にもデカデカと載ってますよ」


 一永厩舎の事務所にて。

 日本ダービーの翌日に、次戦の相談をする為に花京院と滝、一永が話し合っていた。


 滝はのほほんとお茶を飲みながら話してるが、一永は新聞をペシペシ叩いている。花京院は苦笑いだ。


 「全く。まさか引退宣言なんてすると思ってませんでしたよ。お陰でエンマの無敗の2冠が霞んじゃってます」


 「あはははは。ごめんね。ギリギリまで悩んでたんだよ。でもダービーに勝って吹っ切れたというか…。嫁さんにも言ってなかったから、帰ったら怒られるかもなぁ」


 「まあ、いいです。その歳で現役をまだ続けてるのがおかしいんですから。有終の美を飾れるように頑張ってください」


 「それはエンマ次第だよ」


 一永はまだ何か言いたげにしていたが、話をエンマダイオウの次戦に戻す。

 本来はダービーが終わった後に、一度放牧に出して、秋競馬に備える予定だったのだ。


 一叩きして菊花賞。もしくは菊花賞に直行。これが当初の予定だっのだが、世間の声があまりにも大きい。


 「3歳で宝塚ですか。確かに夢はありますけどね。正直あんまり無理をさせたくないのが本音です。エンマの状態はどうなんですか?」


 「軽いコズミが出てる程度ですね」


 花京院は宝塚記念出走に反対気味だ。

 確かに夢はあるが、エンマに無理をさせたくない。これまででも充分すぎるほどの結果を出してくれたのだ。一旦休ませてあげたいのが花京院の気持ちである。


 「自分も万全の状態で菊花賞に挑みたいというのが本音ですね。こう言ってはなんですが、宝塚記念や世間では言われてる凱旋門賞は来年にもチャレンジは出来ます。クラシックは3歳の間だけですからね。まあ、3歳で宝塚記念勝利というのに意味があるんでしょうが」


 一永調教師も否定気味。

 3歳で宝塚に挑んだ馬のその後があまり良くないというのもあるんだろう。


 「二人がそう言うならもう結果は出てるよね? 万全の状態で菊花賞に挑もう」


 最後は滝が締めてそういう事になった。




 ☆★☆★☆★



 「プヒヒヒン」 (なんか今日は記者さんがいっぱいだね)


 ダービーが終わって厩舎に戻ってきた。いつものように筋肉痛が出て、鍛え方がまだ足りんのかと、更なるレベルアップの為にとりあえずご飯を食べてる。


 とにかく食べなきゃ始まりません。


 「プヒヒヒン」 (お前達もしっかり食べるんだぞ)


 「ブルルルッ」


 同じ厩舎の馬達にも声を掛ける。伝わってるのかは分からんが。俺が良く食べて良く寝て良く運動してで、結果を出せてるから他の馬達にも勧めてるのだ。


 ほら、俺は恐らく肉の運命を脱しただろうけど、結果を出せない馬ってのは悲惨だから…。


 せっかく仲良く? まあ、仲良くなった馬だし、出来ればそういう運命を辿ってほしくない。って事で、同じ厩舎の馬達には伝わってるか分からないけど、声を掛けてるんだ。


 で、筋肉痛だから軽い散歩だけしてたら、厩舎の近くの事務所に記者さん達がいっぱいいる訳だ。ダービーに勝ったから、俺を見に来たのかと思ったんだけど、違うっぽいんだよねぇ。


 一体何があったのやら。調教師の兄ちゃんが不祥事でも起こしたか? 全く。前脚キックで喝を入れてやらんといかんな。

 

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