第28話 次走決定
☆★☆★☆★
「これは…」
エンマの調教に来て驚いた。
走り方が変わった事でどういう影響があるか分からないから、探り探りでの走りになったが、前に放牧中に見た時とは段違いに良くなっている。
体も一回り大きくなったからか、体幹も以前よりも更に良くなっている。
試しに手綱を動かして左右に散らしてみても、スピードが落ちる事なくスムーズに方向転換出来ていた。
「これは凄いな。極端にスピードが速くなった訳じゃないけど、間違いなくパワーとスタミナは上がってる」
「プヒン」 (せやろ)
前脚の回転率が上がってるお陰で息が長く続くようになっている。それがスタミナ向上に繋がっているのではないかと思う。
ただでさえ前のレースの坂の追い込みは凄かった。それが更にパワーアップしてるとなるとどうなるのか。
「次のレースが楽しみで仕方ないよ」
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「前哨戦挟んだ方が良いですか?」
「うーん…。想像以上にエンマの状態が良いですからね。一叩きする必要があるのか…」
「すみません。ちょっと惑わしちゃったみたいで」
事務所では、花京院と一永と滝がエンマの次走について話し合っていた。
「いえ、実際走り方が変わって不安だったのも事実ですし」
滝は早めに栗東に戻した方が良いと進言した事で申し訳なさそうにしている。
滝が見た時はまずいと思ったが、今日の調教では問題なさそうだったのだ。
「実際走ってみて問題が出るかもしれません。幸いエンマは回復が早いほうですし、走らせてみましょうか」
「そうなるとどのレースに出すか…」
調教は調教。レースはレースである。
今は好調のエンマだが、新しい走りに何か問題があるかもしれない。
前哨戦で負けても良いという訳ではないが、ぶっつけ本番で皐月賞に挑み、問題が発生して負けるよりは良いだろうという事で、一叩きする事になった。
「1番近いので共同通信杯ですね。後は弥生賞、スプリングステークスですか」
「共同通信杯が1番良いんじゃないでしょうか? もし何か問題があった時、立て直す時間は長い方が良い」
「では、共同通信杯でお願いします」
とんとん拍子でエンマダイオウの次走が決まった。
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「本当にエンマよね?」
「プヒヒヒン!」 (俺を忘れたか!)
牧瀬さんは本当に俺がエンマダイオウなのかを疑ってる様子。こんなにかっこいい馬は他にいませんよ。正真正銘エンマダイオウです。
「まさかエンマが喜んでプールに入るなんてね…。放牧中に何があったのかしら?」
まあね。プール嫌いだった俺がいきなりプールに飛び込んで、楽しそうに馬掻きしてたら疑っても仕方ない。
でもね、これは前脚を鍛えるのにすっごい効果的だと分かったんですよ。走り方を変えて順調な俺だけど、それでも前よりは前脚に負担が掛かってる気がする。
だからもっと鍛えねばと思ってたんだけど、走り過ぎもよろしくない。実家には流石にプールがなかったけど、栗東ならある。
ずっと来るのを楽しみにしてました。
ここならあんまり怪我の心配をせずにいっぱい前脚を鍛えれる。必死に馬掻きしてたら滅茶苦茶速く進むから、溺れる心配もない。
「不思議だわ」
「プヒヒヒン」 (これがVer.2ですよ)
今なら馬界の水泳部門金メダルも取れるんじゃなかろうか。競走馬を引退したらそっちの道に進むのもありかもな。
そんなのあるのか知らんが。
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