第27話 帰還
「プヒヒヒーン!」 (エンマ君が帰ってきたぞー!)
馬運車でゆらゆらと揺られて栗東に到着。
出迎えには牧瀬さんと調教師の兄ちゃんがいたから、とりあえず嘶いて挨拶しておく。
「うおっ!」
「相変わらず元気そうで安心したよ」
勿論兄ちゃんには前脚キックだ。これも放牧中練習してたからね。馬体も大きくなってキレは以前よりも上がってるぞ。
後ろ脚キックも新しく習得してきたからな。隙をみてお見舞いしてやろうと思ってます。力加減もバッチリだ。
牧瀬さんは苦笑いしつつ撫でてくれる。
俺は甘えるように胸に顔を押し付けた。
馬になってもこの感触はたまりませんな。
エロ馬丸出しなんだけど、不思議と発情しないんだよねぇ。馬だからでしょうか? もしかしてエンマのコエンマは不能なのかなと思っちゃったり。
牝馬を近くで見た経験がママンしかないからなぁ。遠目では放牧中に見たりもしたんだけど。
「それにしても本当に放牧してきたのかと疑ってしまうくらいに体が締まってますね」
「花京院さんが言うには当初はのんびりしてたそうだぞ。だが、一度太ってからは自主的に走り回ってたそうだ」
「プヒヒン」 (ご飯を人質にとられたねん)
ママさんがデブの飯は減らすって脅されたから。それなら運動してご飯いっぱい食べるよねって話だ。唯一の楽しみであるご飯を減らされたら生きていけないよ。
まあ、そのお陰でエンマVer.2になったから、良い事ではあったんではあったんだけどね。
「滝さんや花京院さんが言うにはエンマの走り方が変わってるらしい。皐月賞の前に一叩きするか迷ってるみたいだ」
「プヒン?」 (皐月賞?)
聞いた事あるな。有名なレースかもしれん。俺はそれに出ると? いや、その前にレースするみたいな話もしてるな。
俺はダービーとか、競馬素人でも知ってるようなレースに出てみたいですねぇ。
まだ実績が足りませんかな? それならその皐月賞で前回以上の勝ちをお見せしないといけませんな。
「明後日には滝さんが来てくれる。その時の調教次第でどうするか決めよう」
「分かりました。とりあえずエンマは医師に見せてきますね」
またか。移動後は絶対お医者さんに色々調べられるんだよね。体温だとか、怪我はしてないかだとか。まあ、仕方ない事なんだろうけど。
体温を計られるのは未だに慣れない。
ケツに体温計をぶち込まれるからね。特に何も感じないけど、人間の記憶が邪魔をしてヒヤッとするんだ。
「おやおや? エンマダイオウかい? 大きくなったねぇ」
「プヒン」 (鍛えてきました)
いつもの初老のおじいちゃんに俺の体をくまなくチェックしてもらう。仕上げてきた体を褒めてもらえて嬉しいです。
調教でも異次元の速さをお見せしますよ。
「プヒヒヒン!」 (エンマダイオウだぞ!)
検査が終わって厩舎に戻る。
知らない馬が増えていたのでとりあえずメンチビームはしっかりかます。こういうのは最初が肝心なのです。
「エンマは古馬相手でも関係なく喧嘩を売るね」
「プヒン?」 (こば?)
はて? こばとは? 一体なんの事か分からないけど、馬は一回隙を見せるとずっとマウントを取ってくるからな。最初に舐められないようにしないといけない。
未だにメンチビームでは負けなしですよ。
「面倒見が良いのにね。人見知りなのかな? 馬見知りか」
そりゃな。俺に懐いてくれる馬には優しくするとも。一緒に調教したりして、仲良くなったりもするし。一回仲良くなったらもう身内よ。身内に優しく、他は厳しく。
優しい系お山の大将を目指してます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます