第26話 再び栗東へ


 どうやら牧場のんびり生活がそろそろ終わりを迎えようとしてるらしい。

 ちびっ子がまた離れ離れになるみたいな事を言ってたし。


 「プヒヒヒン」 (のんびりはしてないか)


 デブ化したらご飯を減らされると思って、とにかく運動は欠かさずやった。いっぱいご飯を食べて、いっぱい運動して、いっぱい寝る。


 体もがっしりして前よりパワーとスタミナが増えたと思う。


 「プヒヒヒン」 (嫌いだった坂道とはもはやお友達)


 走り方研究で俺は一つの結論に至った。

 大股で走るのと小走りするのをハイブリッドしようと。


 何を言ってるんだと思われるかもしれないけど、俺の中ではそういう感じなんだ。


 具体的には足の回転数を速くした大股走りといいますか。


 大股で走ったら雨の時滑るじゃんって思われるかもしれないが、これが中々どうして悪くない。ちゃんとグッと芝を踏めるんだなこれが。


 勿論最初から上手くいってたわけじゃない。年末辺りから重点的に練習し始めて、ようやく形になったんだ。


 ひたすら坂道を走るのは疲れたし、俺の走り方が変わってる事に気付いた俺の飼い主のお兄さんとか、滝さんはちょっと心配そうに見てたけど。


 自分でも間違ってるかなと思ったりもしたけど、間違ってるなら走り方を戻せば良いかと、ひたすら自主調教をした結果、以前より間違いなく速くなった自信がある。


 坂道をずっと走ったお陰で、後ろ脚で蹴り付ける力は強くなったし、前脚で芝を掴んで引っ掻く力も強くなった。


 エンマダイオウVer.2になった訳だ。

 非常に有意義なリフレッシュ休暇になったね。


 「明日にはエンとお別れだねー」


 「プヒヒン」 (明日なのか)


 そんな俺は現在、牧場で寝転がっているというか、犬の伏せみたいな体勢になっている。ちびっ子も目の前に座って、鼻先を撫でてくれてたりと、デロデロに甘やかされてる最中だ。


 前までは柵越しでのコミュニケーションしか許されてなかったんだけどね。

 ちびっ子の両親は俺相手なら大丈夫だと思ったのか、柵の中に入れてくれるようになった。勿論ちゃんと厩務員さんが付き添いでいるけど。


 馬って重いからね。ちょっとちびっ子に寄りかかったりしただけで、大怪我に繋がりかねない。だから、中々気を使うけど、いっぱい触れ合えるのは良い事だと思ってます。


 で、どうやら俺は明日には移動するらしい。そろそろレースでもするのかな?

 随分休んだような気がする。早くレースをしてお金を稼がないと。


 でもね。最近思ったんだけど、この牧場ってお金持ちかもしれない。

 牧場っていうかちびっ子の両親。


 「プヒヒヒン」 (花京院ってあの花京院だよなぁ)


 俺の飼い主の兄さんは花京院って名前で、この牧場の名前は花京院レーシング。

 俺が知ってるその苗字は財閥なんだよね。


 同じ苗字なだけかもしれないけど、外行きの格好をしてる時のお兄さんは滅茶苦茶品があるように見える。身なりもお金持ちって感じだし。


 「またレースになったら応援行くからね。頑張って走るんだよ」


 「プヒヒン」 (お任せあれ)


 まあ、両親がお金持ちならちびっ子の将来も恐らく安泰だろうが、お金はあるに越したことはない。頑張って走って札束を咥えて帰ってきますからね。


 そして翌日。

 牧場で俺のお世話をしてくれた厩務員の人達や、ちびっ子家族に見送られて栗東に旅立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る