第25話 3歳
「プヒヒヒン」 (我、天啓を得たり)
どうも。エンマ君は3歳になりました。
俺はというと、ひたすら雨の時の走り方の研究をしていた。
雨が降った時に喜んで放牧に出る俺を見て、ちびっ子のお父さんは不思議そうにしてたくらいだ。前までは嫌々って感じだったからね。
で、とうとうしっくりくる走り方を見つけれた。
自分の走り方を色々見直してると、どうやら俺は結構大股で走ってるというか、後ろ脚で思いっ切り蹴り付けて、大きく歩幅を稼いでる感じなんだけど、それを小走りにしてみた。
人間の時を思い出して滑らないようにするにはどうしたら良いかって思ってみたんだよね。それで俺は歩幅が大きすぎるのではと思ったんだ。
でも小走りに変えてみると、滑る心配もあんまりなくて、しっかり踏めるって感じがするんだよね。
「プヒヒヒン」 (エンマは新たな武器を手に入れた)
レベルアップの音が聞こえてくるようだ。
大股走りと小走りはどっちが良いんだろ?
小走りは雨の時専門にした方が?
この辺は要検証だな。
まずはこの小走りの走り方をマスターしないと。大股の時とは違って、前脚に負担が掛かるような気がする。重点的にトレーニングだ。
☆★☆★☆★
「あ、滝さん。あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
年が明けてからしばらくして。
少し時間が出来たので、花京院レーシング牧場にやってきた。目的はもちろんエンマダイオウだ。
年末は色々忙しくて、結局二ヶ月近くエンマを見てない。この放牧でどんな感じになってるか気になった。食べるのが好きだから、結構太ってるんじゃないかと思っていたんだけど。
「花京院さん。エンマに何があったんですか?」
「正直私にも分かりません」
牧場について驚いた。
エンマの馬体は太ってるどころか、一回り大きくなって引き締まっている。
来週レースを走ると言われても驚かないくらいだ。
更にエンマの走り方だ。
一心不乱に坂道を上り下りして、その度に走り方を微調整しているように見える。今までは豪快なストライド走法だったのが、ピッチ走法に変わってるような…。いや、これはストライド走法でありながら、脚の回転数が上がってるのか?
「ある日から急に雨を喜ぶようになったんですよね。今までは引っ張り出さないと、雨の日は厩舎から出てこなかったのに、本当に機嫌良く出て行くようになって。そして気付けば走り方が変わってました」
花京院さんは苦笑いをしながら、それでいて申し訳なさそうに言う。
馬が成長に合わせて走り方が変わる事は良くあるとは言わないが、ない事もない。
だから特に問題ないように思うが、あの豪快さは鳴りを潜めている。これが今後のエンマにどう影響するのか。それが読めないのが怖い。
「少し早めに栗東に戻した方が良いかもしれませんね。あの走り方でも通用するかもしれませんが、しないかもしれない。調教で時計を計りつつ判断していくしかないかと」
「分かりました。これなら前哨戦も挟んだ方が良さそうですね」
確かに。当初は皐月賞に直行する予定だったが、一度レースで走らせてみた方が良いかもしれない。
エンマは賢い馬だ。
万が一今の走り方が通用しなかったら、元の走り方に戻すかもしれない。
正直順調に成長すればクラシックは取れると思っていたけど、これはどうなるか分からなくなってきたかもしれないな。
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