第二章 クラシック戦線
第24話 のんびり
「エーン!!」
「プヒヒヒン」 (今日も来たな)
無事実家に帰って来ました。
北海道はもう寒いね。なんか布団みたいなのを被せてもらってるから、凍える程って訳じゃないけど。
馬って寒さに強いのかな? 一応毛があるしそうなのかもしれんな。
で、牧場に帰ってきてからはのんびり生活だ。朝に牧場に放されて、のんびりパカラパカラと走ってる。柵で分けられてるけど、小さいお馬さんなんかもチラホラ見られて、ここも賑やかになったなーと思ったり。
ちびっ子は毎日俺に会いに来てくれる。
今日もモコモコのコートを着て、ママさんと一緒に放牧場にやって来た。
「うーん。エン、太った?」
「プヒン!?」 (なんやて!?)
初めて会った頃はまだ舌足らずな感じだったけど、今ではちゃんと喋れてる。
成長したなぁなんて思ってると、ちびっ子がびっくりするような事を言ってきた。
「お腹の辺りがちょっと…」
「プヒヒヒン」 (そう言われてみれば)
確かに言われてみればちょっと重たい気がする。まさか、漆黒のかっこいいぼでーをしてるエンマ君がデブ化するとは。
これはいけませんね。運動量を増やさないといけませんよ。確かに帰ってきてから軽いジョギング程度しかしてなかったしなぁ。
でも牧瀬さんとか調教師の兄ちゃんはリフレッシュ休暇って言ってたんだよ?
それなのに気合い入れて練習するのもどうかなって思うんだけど。
「ママ、ご飯減らした方が良いんじゃないの?」
「そうねぇ。まだ大丈夫な範囲だろうけど、ここから更にって考えると、減らした方が良いかもしれないわねぇ」
「プヒン! プヒヒン!」 (ならん! なりませんぞ!)
ご飯を減らすなんてダメですよ!
馬になってから唯一の楽しみと言っても過言じゃないんだぞ! 分かった! ちゃんと運動するから! ご飯を減らすのだけは勘弁してくだせぇ!
「うふふ。エンマちゃんはご飯を減らされたくないみたいよ」
「じゃあ太ってるのははメッ! だよ!」
俺はちびっ子に頭をグリグリして、お母さんの方にもグリグリしてと、猛抗議をしてなんとかご飯を減らされるのは回避した。
でもお母さんの目は本気だったぞ。
あれはこれ以上太ると、ご飯を減らすに違いない。気合いを入れて練習しよう。
って事で、それからは朝に放牧されるとタッタカ。疲れが残らない程度に適時休憩しつつ、タッタカタッタカと走り回った。
その甲斐あって、お腹が重たい感覚が無くなってきたんじゃないかと思う。
ってか、なんか普通に体が大きくなってきたような? 成長したって事なのかね?
「プヒヒヒン」 (雨の時の走り方か)
ただ適当に走るだけじゃ、面白くないから雨の時の対策を考える。雨の時にレースしたけど、あの時は予想以上に疲れた。
もっと疲れを軽減させる走り方があるんじゃないかと模索してます。
これからも雨の時にレースがあるかもしれないし、苦戦したくない。
どうせ競走馬になったなら全部勝ちたいのだ。
全部勝ったらそれなりの賞金になるだろうし、この牧場もウハウハになるだろう。
これでちびっ子も将来安泰って訳よ。
「プヒン? プヒン?」 (こうか? こうか?)
俺は雪でちょっとグジュグジュになった場所を往復しながら、走り方の練習をする。
やっぱり走りにくい。これは滑るのが問題なんだよね。すってんころりんしそうで怖い。
人間ならあいたたたで済むかもしれないけど、馬がすってんころりんしたら大惨事だろう。ちょっと効率の良い走り方とか誰か教えてくれませんかね?
もしくは俺にレースの映像を見せて欲しい。他の馬がどう走ってるのか参考にしたい。
しまったな。レースの時とか他の馬と一緒に練習してる時に、もっとしっかり観察しておけば良かった。気持ち良く何も考えないで走ってたぜ。
反省反省。
せっかく人間の知能があるんだから、もっと有効活用しないとな。
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