第16話 ちびっ子との交流


 ☆★☆★☆★


 「ふぅ。なんとか走り切ってくれたか」


 エンマから降りて計量に向かう。

 前回スタートでこけてから、細心の注意を払っていたが、まさか次はスタートが良すぎて困るとは。


 「いやーエンマダイオウは強い馬ですね。最後は垂れると思ってたんですけど、まさか加速してしまうとは」


 「あははは。そうだね。俺もちょっと驚いたよ」


 2着のニートデゴザイに乗っていたロメールに話しかけられる。


 「先行させても良い馬ですか。羨ましいですね」


 「どうだろうね。今回はたまたま上手くいったけど、次も同じようになるかはわからないよ」


 ロメールが探るように聞いてくる。

 これからライバルになる馬だ。どういう馬なのか気になるんだろう。しかしこういうのはもう慣れた。適当に誤魔化しつつインタビューへ向かう。


 次はホープフルに向かうと聞いている。

 エンマとなら勝てる。競馬に絶対はないけど、今はその確信がある。


 俺が唯一取れてないG1タイトルだ。

 気合いを入れないとね。



 ☆★☆★☆★


 泥で汚れた体を綺麗にしてもらった。

 また記念撮影みたいなのがあるらしい。

 せっかく綺麗にしてもらったのに、また雨で濡れるなーとは思いつつも、この記念撮影は楽しみにしてるんだ。


 なんたってちびっ子と近くで会えるからね。雨はうざいし面倒な行事だけど、ちびっ子に会う為なら頑張るとも。

 是非ともカッコよく撮ってくれたまえ。


 「エン! お疲れ様!」


 「プヒヒン」 (てんきゅー)


 可愛らしいカッパを着たちびっ子が、両親の手を引っ張りながらやってきた。

 牧瀬さんも急に近付くのは危ないと、ちびっ子を止めようとしたものの、そんなの知ったこっちゃねぇとばかりに、俺の前にやってくる。


 「疲れた?」


 「プヒヒン」 (滅茶苦茶疲れた)


 俺は顔をちびっ子の前に持っていき、鼻先を撫で回してもらう。俺がちょっとお疲れ気味なのを理解したのか、頑張ったね、お疲れ様とねぎらいの言葉を掛けつつ、ペタペタと撫でまくる。


 「帰ったらちゃんと寝るんだよ」


 「プヒヒヒン」 (寝るのは大の得意だ)


 そうこうしてるうちに、滝さんもやってきて記念撮影。前回と同様に俺の横にはちびっ子を配置してもらった。満面の笑みが可愛らしいですねぇ。

 おじさん、ちびっ子の為に次も頑張ろうって思っちゃいますよ。



 ちびっ子と別れて厩舎に戻った。

 また来るって言ってたから、もしかしたら次のレースも来てくれるかもしれんな。


 で、厩舎に戻って来ると急に体がダルくなった。これは長時間雨に打たれてたから、風邪を引いたかもしれん。馬になってこんなにダルくなったのは初めてだ。


 「エンマ疲れてるね」


 「プヒヒヒン」 (雨が悪い。無駄に力を使った)


 牧瀬さんが俺の寝床を綺麗にしてくれている。勿論ちゃんとクッションもセット済みだ。


 「水を飲んでご飯も出来るだけ食べるんだよ…って、もう空か」


 「プヒヒヒン?」 (お代わりとか出来ます?)


 体はダルいけどご飯は食べたい。

 でもレース後のご飯は豪華なんだ。これは逃せない。なんならお代わりも欲しい。

 なんかご飯食べてたら、体がダルいの治ってきたかも?


 もしかしたらお腹が空いてただけかもしれん。やっぱり俺のご飯はもう少し増やすべきだよ。調教師の兄ちゃんにお願いしよう。

 あの人が決めてるらしいからな。


 もし増やしてくれないなら、俺の必殺前脚キックをお見舞いしてやる。

 最近は手加減も慣れてきたからな。痛くないギリギリを狙ってやる。


 

 

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