第17話 プール


 「プヒヒヒン!」 (体が痛い!)


 「あーやっぱりコズミが出たね」


 レース翌日。

 朝起きて、朝ご飯を食べるよと起き上がろうとしたら体がギシギシする。

 コズミ…どうやら馬版の筋肉痛みたいなもんらしい。


 「うーん…。エンマがここまで痛がってるのは初めてだね。ちょっと医師にも診てもらった方が良いかな」


 「プヒヒヒン」 (昨日は特に異常無しって言ってたのに)


 ヤブ医者め。しっかり筋肉痛が出てるじゃないか。筋肉痛は異常には入りませんってか? …馬にも『超回復』とかあるのかな?

 それなら、これを耐え切れば俺は更に成長するって事に?


 「プヒヒヒン」 (それなら悪くない)


 「ご飯はしっかり食べるんだね。これは助かるなぁ」


 更に成長するって事はレースで勝ちやすくなるって事で。いっぱい札束を実家に持って帰れるって事だ。あのちびっ子の為ならこの痛みぐらい耐えてみせるとも。


 「今日は歩くだけにしとこうね」


 「プヒヒヒン」 (ゆっくりでお願いね)


 馬って歩かないと死んじゃうらしい。

 衝撃の新事実。これって脚とか骨折したらどうするの? 馬の脚ってかなり細いからすぐにやっちゃいそうなんだけど。

 俺も気を付けないと。老衰以外の死はごめんだぜ。




 「プヒン!」 (プールだ!)


 「プールは脚に負担なく鍛えられるんだよ」


 筋肉痛もほぼ治ってきた頃。

 そろそろ調教再開かなーって思ってたら、なんか室内に連れて行かれて、そこにあったのはプールだった。


 牧瀬さんは最近俺に良く何々するんだよって教えてくれるようになったから助かる。

 以心伝心レベルが上がってきた。この調子で競馬の詳しいルールも教えてもらいたい。


 で、プールは脚に負担があんまり掛からないで鍛えられる優れものらしい。人間もプールでダイエットとかあったし、そんな感じかな? 素晴らしい。遊びながら鍛えられるって事でしょ? なんで毎日やらないんだ。


 俺は早くやるぞとばかりに牧瀬さんをグイグイ引っ張る。


 「嫌がらないみたいで良かったよ。水を怖がる馬もいるからね」


 「プヒヒヒン」 (人間の記憶があるから)


 そしていざ入水。

 おお。確かに水の抵抗力で普通に歩いてるだけでも鍛えてるって感じが……あれ?


 「プヒン!」 (ちょっと!)


 あ、足場がなくなったんだけど!? 溺れる! 溺れちゃうよ!!


 「ほらほら。エンマ頑張れー」


 牧瀬さんの笑顔が鬼に見える。

 気の強そうな顔はしてらっしゃるけど、優しかったんだ。やっぱり人は見た目で判断しちゃダメだとかしたり顔で思ってたのに。

 やっぱり怖いドSな人なのでは? 俺が必死に犬掻き…馬掻きをしてるのを笑って見てる。


 「プヒ…」 (終わった…)


 「良く頑張ったね。もう何周か行こうか」


 「プヒヒヒン!?」 (まだやるの!?)


 待って待って。思った以上にしんどかったし、病み上がりだしもう充分では?

 確かに鍛えられてる感はあるけど、全然楽しくない。死の危険があるよこれは。

 もし途中で溺れたりしたらどうするんだ? ちゃんと引き上げてくれるの?


 「プヒヒヒン」 (これなら坂を走ってる方がマシじゃ)


 「うーん。最初は楽しそうにしてたのになぁ」


 そりゃ普通に歩くだけと思ってましたからね。こんな死の危険があるなんて聞いてませんよ。今度からこの建物に近付いたらダダこねよう。もう二度とやりたくねぇ。


 

 

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