第15話 東京スポーツ杯


 『さあ。生憎の雨模様ながら始まります東京スポーツ杯。1番人気は新馬戦を完勝したゼッケン3番のエンマダイオウ。鞍上は新馬戦と同じく滝宇鷹騎手。そして2番人気はこちらも新馬戦を完勝、ゼッケン4番のニートデゴザイ。鞍上はロメール騎手です』


 ほわー。外人さんだ。

 お隣のお馬さんに乗ってる人が日本人じゃない。外国の騎手さんもいるのか。

 俺の騎手は滝さんで良かったな。じゃないと指示が分からん。せっかく人間の知能があるのに台無しになるところだったぜ。


 「エンマ、もうすぐスタートだぞ」


 「プヒヒヒン」 (分かってますよ)


 今日の俺は3番。

 3番人気って事かな? 結局俺の人気を教えてくれなかったんだよね。なんとか牧瀬さんにプヒプヒ言って教えてもらおうと思ったんだけど。残念ながら牧瀬さんとはいえ、厳しかったらしい。何故か撫で回されました。


 前回結構強そうな勝ち方をしたと思うんだけどな。真っ黒な馬体で強そうだしさ。

 それでも3番人気止まりですか。他のお馬さん達も勝ち上がってきたからかな? 競馬ってトーナメント戦なのかな? 誰かルール説明とかしてくれないですかね。


 『さあ続々とゲートイン。今年の東スポ杯は11頭での出走。芝コンディションは不良になっています。最後に5番人気のクライシスがゲートに収まって係員が離れます』


 「開くぞ」


 よっしゃばっちこい。

 これでもかってぐらいのロケットスタートを決めてやる。じゃないと、また調教師の兄ちゃんにネチネチ言われるからな。

 スタートもバッチリ決めて、レースも一等賞になってドヤ顔でしてやる。


 

 『スタートしました。バラっとしたスタートになりましたが、3番エンマダイオウは好スタート。そのままグイグイと後続を突き放していきます』


 わはははは! どんなもんじゃい!

 完璧なスタートだ。ちゃんと集中してたらこんなもんよ!


 「参ったな。スタートが良すぎる」


 む? 滝さんにも褒めてもらえると思ったのに、どうやらそうでもなさそうな?

 どうしたんだろうと思いながらも、俺はスピードを緩めない。滝さんが手綱をちょいちょい引いてるけど、ここはちょっぴり無視させてもらおう。


 俺、分かっちゃったんだよね。

 後ろで待機して、前の馬に泥を掛けられたくなかったらずっと先頭を走れば良いじゃんって。


 「仕方ない。このまま先頭をキープするぞ」


 だけど、滝さんは渋々って感じだ。

 先頭を走るのはよろしくなかったのかな?

 じゃあスタート云々は言わないで欲しい。先頭がダメならスタートで多少遅れても問題なくねって思うんだけど。そういう話じゃないのかな?


 『好スタートを切ったエンマダイオウそのまま先頭で一馬身半のリード。前走は最後方から捲ってきましたが、今回は好スタートそのままに先頭へ。折り合いはどうだ? その後ろ、2番手ニートデゴザイ、クレバージェネシスが続きます。2コーナーを回って、その内からスマートセンチュリ、更にはネオハリケーン。これらが先頭集団を引っ張ります』


 先頭を走るって気持ち良いな。

 一番後ろからごぼう抜きするのも気持ち良いけど、悠々と一番前を走るのも悪くない。


 だけどね。芝がグチャグチャなのがいただけない。一々芝にハマった脚を引き抜かないといけないから、余計なパワーを使っちゃう。これだけグチャグチャだと逆に滑らないから助かるけどさ。


 『先頭集団から少し離れて、ブラックステージ、スペースメジャーもここに居ます。中団後ろにはノーザンストーリー、マスターキングダム、ラストヘラクレス。さあ、やや縦長の展開となって向こう正面中間から3コーナーへと向かっていきます。1200を切って、先頭はエンマダイオウ、リードを2馬身取っています』


 あかん。マジで疲れる。

 前回と距離が一緒って牧瀬さんに聞いてたんだけど? 1800mだっけ? 人間の学生時代は1500m走でも嫌だったのに、馬になったら余裕だなとか思ってたんだけど。


 もう前回の走り終わった時ぐらいの疲労感があるよ。これも雨のせいか。

 やっぱり雨はダメですよ。本来の力を発揮出来ない。


 『各馬これから4コーナーのカーブに向かいます。先頭は変わらずエンマダイオウ。リードは1馬身に縮まっている。その後ろにニートデゴザイ、ブラックステージはここまで上がってきた。さあ、4コーナーカーブを回って直線。各馬内を空けての直線コース。後ろからラストヘラクレスが凄い勢いで上がってきた!』


 「良し。行くぞエンマ」


 ん? この直線で終わりかな?

 今まで引かれていた手綱を解放されたので、俺はハミを噛んでスピードを上げる。この直線で最後よね? ちょっとここから更に回っていくのはしんどいかもしれないよ? 


 『慌ただしく順位が入れ替わる! 先頭はエンマダイオウ! 後続を引き離し始めた! しかしニートデゴザイが必死に追う! 鞍上のロメール騎手の鞭が入った! 外からはブラックステージ、ラストヘラクレスもやってくる!』


 おお。後ろからドタドタと馬の足音が聞こえてくる。これは俺も更にスピードを上げないと追いつかれるのではと、気合いを入れようとしたタイミングで滝さんが鞭で俺をしばく。


 これこれ。滝さんに叩かれたら痛いよりも気合いが勝つ。なんかもうひと頑張りしてやりましょかって気持ちになるんだ。


 『先頭のエンマダイオウにも鞭が入った! 速い! 速い! 後続を更に突き放し、リードは3馬身! ニートデゴザイ、ブラックステージ、ラストヘラクレスが追ってくるが届かない! これはエンマダイオウだ! 最初から最後まで先頭で今ゴールイン! 2着はニートデゴザイ、3着は接戦だ! ブラックステージかラストヘラクレスか。僅かにラストヘラクレスが先か!?』


 「しっかり走り切ったな」


 「プヒン」 (疲れた)


 ゴールを通過して手綱を引かれたのでスピードを緩める。滝さんに首をポンポンされたけども、ちょっと疲れました。

 もう雨は勘弁して欲しいね。

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