第14話 次のレースへ
それからも調教調教調教。
毎日同じ事の繰り返し。日々の楽しみは牧瀬さんとのスキンシップとご飯だけだ。
そのご飯もちょっと量が少ないんじゃないかと、毎日アピールしてる。
餌が入ってるカゴをカランコロン鳴らしてみたり、隣の馬房の餌を盗めないか頑張って首を伸ばしてみたり。
それが無理なら脱走して盗み食いしてやろうかと、寝転んで下の隙間から抜けようとしてみたり。
「プヒヒヒン」 (残念ながらどれも失敗に終わってるんだが)
別に滅茶苦茶お腹が空いたって訳じゃないんだ。ただもう少し量を増やして欲しい。
もう少し満足感が欲しいんだよね。
キュンキュン鳴いて上目遣いでお願いしたりもしてみたが効果無し。
俺に可愛さはないみたいだ。
「プヒヒヒン?」 (これからずっとこんな感じなの?)
競走馬引退までこれはきついなぁ。
もっとガツガツ食べたい。実家で草を好きなだけ食べられてた頃が懐かしいぜ。
そんな愚痴を吐きながら過ごしてると、どうやらレースの日が近付いてきたらしく、日々の調教にも熱が入る。調教師のお兄さんがあれやこれや指示してくるのが腹立つから、その度に軽く前脚でテシテシやってやる。
俺にお願いしたいなら牧瀬さんを通してくれたまえ。美人のお願いならオスは頑張るんですよ。あなたも男なら分かるでしょうに。
全く。気が効きませんな。
そしてレース当日。
「プヒン」 (雨じゃん)
レース場に出ると雨が降っていた。
勘弁してくれよ。雨天中止とかないの?
雨の日も調教してたから、やるんだろうなとは思ってたけどさ。
パドックとやらを歩きながら、何回も上を見て空模様を確認する。残念ながら止む気配はなさそうだ。
人が居るゾーンを通る時はビシビシと歩くけど、そこを通り過ぎるとへにょんへにょんって感じだ。こんな雨でも観に来る人は居るんだね。てか、このパドックの時間はなんなのかな? 人間へのお披露目? そういうのって、最初に一回やれば充分じゃないですかねぇ。
「エンマ大丈夫? 雨が嫌なのかな?」
「プヒヒヒン」 (その通り。帰りたい)
流石牧瀬さん。俺の事はなんでも分かってるね。帰りたいです。出口に向かっても良いですか?
あー、また人が居るゾーンだ。カッコよく写真を撮ってもらうためにビシビシ歩かないと。
「エン! 頑張ってねー!」
「プヒン?」 (ちびっ子?)
憂鬱な気持ちながら人間様のご機嫌を取ってると、可愛らしいカッパを着たちびっ子が居た。俺の飼い主のお兄さんとお嫁さんもしっかり居る。
まさか今日も来てくれるとは。
雨だから今日は来ないんだろうなって思ってたんだ。それもあってテンションはダダ下がりだったんだけど。
「プヒヒヒン」 (風邪引かないようになー)
前回あっちに突進して怒られたからね。
残念ながら近くに行く事は出来ないけども。とりあえず嘶いて頭を振っておく。
ちびっ子はそれで満足したのか、満面の笑みでこっちに手を振っていた。
「今日も舞ちゃんが来てくれてるみたいだね。頑張ろうね」
「プヒヒヒン」 (せやな。負ける姿は見せられん)
雨でブルーだった気持ちが一気に回復した。今日も元気に走ってやるぜい。
その後止まれの声が聞こえて滝さんがやって来た。
「エンマの調子はどうだい?」
「雨でやる気が無さそうだったんですが、舞ちゃんの姿を見てやる気になってくれたみたいです」
「あははは。それは良かった。舞ちゃんには感謝しないとね」
そうだぞ。俺はあのちびっ子の為に走ってるんだからな。俺の肉の運命回避の為ってのもあるけどさ。
雨だからサッと走ってサッと帰ろう。
馬の後ろとか走ってたら泥を引っ掛けられたりしてムカつくんだけどなぁ。
なんか回避する方法はないもんか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます