第13話 雨の日の調教


 「プヒヒヒン」 (またご飯が少ない)


 レースが終わって少しの間は、リンゴやらにんじんやら角砂糖やら豪勢なご飯ばっかりで幸せだったんだけど。

 また量が減らされた。


 餌を入れてるカゴを鼻で突っつき催促するけど、牧瀬さんは苦笑いしながら俺を撫でるだけだ。どうやら追加では頂けないらしい。


 「プヒヒヒン」 (またレースするって事かね)


 この前レースしたばっかりなのに。

 いや、良いんだよ? 勝ったらお金稼げるからね? それで実家の牧場が潤うならエンマ君は頑張るとも。


 疲れも全然ないし全然やれるけどさ。

 こんな短いペースでレースするの? まだ2歳児なのに。


 年に五回ぐらいレースするとして、100億稼ぐには…。


 「プヒヒヒン?」 (10年ぐらい走ればええんか?)


 10年走れば50回。1レースの賞金が2億ぐらいなら100億だ。流石に1レース2億もないかな? 馬の寿命って30年ぐらいだっけ? それなら10年ぐらいが限度だと思うんだけどなぁ。競走馬って何歳ぐらいまで走るんだろ。


 それに10年も強さを維持出来るかも分からん。負けたらダメだし。馬って過酷な運命を背負ってるんだな。




 「プヒヒヒン」 (雨降ってるじゃん)


 今日も今日とて調教だと、牧瀬さんに引かれながら外に出ると雨が降ってた。

 雨の日の調教は嫌いなんだよなぁ。重くて疲れるし汚れる。俺の漆黒の馬体が台無しだ。


 それに前に馬が走ってると泥が顔に飛んでくるんだ。それがウザくて仕方ない。

 芝を走ったら滑るし、雨の日は良い事なんて何もないね。


 「プヒヒヒン?」 (今日はお休みしよう?)


 「エンマは雨が嫌いねぇ。ちゃんと走ってくれるから良いんだけど、不機嫌なのが丸分かりだわ」


 そりゃ走れって言われたら走るけども。

 それが競走馬の仕事ですからね。これをしないと殺されちゃう訳だから。

 人間はずるい。生殺与奪の権を握って、馬畜生にやりたいくない事もさせるんだ。

 傲慢な奴らだぜ。


 「エンマの様子はどうだ?」


 「やっぱり雨は嫌いみたいですね」


 「走れないなら問題だが、気持ちの問題みたいだからなぁ」


 雨は嫌じゃと牧瀬さんに頭をぐりぐり押し付けてると、調教師のお兄さんがやって来た。俺と牧瀬さんのスキンシップを邪魔するでない。気持ちいい胸の感触を確かめてたところだったんだぞ。


 ムカついたので、泥をかけてやる。

 ふははは。汚れてしまえ。俺だけこれから汚れるのに、お前だけ綺麗でいようなんてそうはいかないぞ。


 「あ、こら!」


 「テキはエンマに嫌われてるフシがありますよね」


 「こいつは俺で遊んでるんだ」


 別に嫌ってはないぞ。

 ただからかった時の反応が面白いからちょっかいをかけてるだけで。俺なりのコミュニケーションってやつですよ。

 これが美人な女の人なら話は別だったんだけどね。


 「ほら。調教行くぞ。次のレースも娘さんにかっこいいとこ見せなきゃな」


 「プヒン」 (せやな)


 次のレースもちびっ子が見に来てくれるかは知らないけども。

 またねって言ってたし、走り続けてたらそのうち見に来てくれるでしょうよ。


 雨の日の調教は嫌だけど、これもレースに勝つ為だ。ちびっ子の笑顔の為にエンマ君は頑張りますよ。

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